隠しダンジョン整備
ダンジョン作りを見届けてミルドレウスが転移で帰っていった。
「よし!早速ダンジョンのメイキングするよー!」
「ヨルも光る石作る!」
「俺は魔物作りか」
それぞれ役割を決め、みんなでダンジョンに入る。
できたばかりのダンジョンは真っ白な壁に覆われ、何も無い空間がポカンと空いているだけだった。
「倒せるかテストするために少量作るのがいいだろう。俺は8層まで降りるよ」
「それじゃ僕たちは1層から作っていくねー。ヨルヨンいこー」
「はい!おとうさま!」
俺はテオドールから銀色鉱石を受け取り、8層まで下りていく。
螺旋階段のように渦巻きの階段は、各層を通らなくても次の階にいくことができた。
トントンと下りながら、魔物のアイデアを考える。
隠しダンジョンに入る人は限られるが、どうせならこだわりたい。
最初に作ったリスが動いた時のような驚きをお父様たちにも体験してもらいたいのだ。
「・・・あ!」
8層に降り立ったが、そういえば小部屋がない。
いつもは小部屋に隠れて、隙間から出来上がったぬいぐるみを広間に投げ入れていた。
魔物がすぐに実体化したら・・・俺危ない!
俺はすぐに1層まで戻った。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・誰か・・・護衛して・・・」
「坊ちゃん駆け上がってきたんすか!昔より体力付いたっすね!」
そうだろ、褒めろ。
褒められたエネルギーで何とか呼吸を整える。
なんならこのまま倒れ込みたいが、まだ何も成していないのに倒れるわけにはいかない。
「俺が護衛に付くっすよ。ついでに運びやす」
「頼む」
ありがとうラース!
俺は担がれて8層まで運搬された。
「それで、どんな魔法使うんすか?」
子供のようにキラキラした目で見てるところ悪いが、やる事はいつも通りだ。
「ぬいぐるみを作って刺繍をしてたんだが・・・よし、今回はあみぐるみにしよう」
スキルアップの書製作者のイザベラもいるんだ。
気合いの入ったあみぐるみを作ろう。
銀色鉱石で毛糸と綿、糸を作る。
今回作るのは「ウサギ」「クマ」「タヌキ」だ。
銀色1色のあみぐるみだから、ウサギの長い耳、クマのずんぐりとした体型のように身体的特徴がある奴がいい。
タヌキという生き物は伝説上の生き物だが、穏やかな顔つきとふっくら膨らんだしっぽが特徴と本で読んだ。
時に人の姿になり、しっぽを振って空を飛び、キノコが好きだという謎の生態を持っている。
なかなかユニークな魔物になりそうだ。
ソーイングスキルだと思っていた刺繍で魔物ができたんだ。
きっとあみぐるみでも魔物になるはず。
というか、あみぐるみの魔物が見たい。
刺繍をしたぬいぐるみであれだけ可愛かったんだ。
この丸いフォルムでどんな魔物になるんだろう。
30分後
こだわり抜いた・・・。
俺の目の前に3体のあみぐるみが並ぶ。
毛糸の編み目が綺麗に揃った銀色のウサギ、クマ、タヌキ。
あみぐるみの瞳はP素材のピンを差し込んでもいいが、せっかくだから小さいボタンを縫い付けた。
ウサギのあみぐるみに赤く大きなボタンを付ける。
可愛らしい顔だが、少しとげのあるツンとした雰囲気になった。
クマのあみぐるみに小さな黒いボタンを付ける。
・・・ちょっと厳つい顔になってしまった。
ま、ムキムキなクマってことで、この顔もありだな。
タヌキのあみぐるみは顔よりしっぽの膨らみに力を注ぐ。
しっぽを太くすれば、その分たくさんの綿が必要になる。
だが妥協するつもりは無い。
パンパンに膨らむよう、銀色鉱石の綿をグイグイ詰め込んだ。
フカフカとしたしっぽはきっと魔物になった時可愛く揺れるはずだ。
手のひらサイズだが、使った銀色鉱石の量は今までより多い。
もしかして強すぎて倒せなくなるかもしれない。
いや、むしろ倒して欲しくないな・・・。
これが斬られたとき俺は泣くかもしれない・・・。
それくらい職人として全力を出し切った。
あとはこれが斬られるその時まで見届けよう。
今回は投げ込んですぐには魔物にならなかった。
あんまり長く見てたら愛着が湧いてしまうだろうし、お父様たちと一緒に見るのもいいな。
「あとは魔物になって2日くらい熟成させれば魔石になるだろ」
「へー不思議っすねー」
「で、倒されるとこんな感じにドロップ品と魔石になる」
俺は鞄から狼のドロップ品を取り出した。
上級ダンジョン前の露店で売っていた物だ。
自分では倒せないから、記念にそれぞれ1つずつ買い取っていた。
「ふーん・・・え、これ!ミスリルじゃないっすか!」
ラースが銀色の刺繍を見て驚いている。
「ミスリルって、お父様の剣もそう言われていたな」
「そうっす。魔力流すと光るんすよ、ほら」
ふわっと刺繍が青白く光り出す。
「まさか銀色鉱石がミスリルに?・・・いや、それなら中に詰めた綿もミスリルになるはずだ」
何で綿は消えて、刺繍はミスリルになったんだろ?
「・・・というか、ミスリルって何だ?」
「そこっすか!」
仕方ないだろ。
初めて聞くんだから。
「ミスリルってのは魔力を込めると斬れ味が増すんすよ。すげー軽くて、強いっす」
「なるほど」
多分ラースもあまりよくわかってないな。
とにかく凄い物質なのか。
「よくそんなの持ってたな」
「昔、武器屋の目玉商品として置いてあったっす。で、持ち出せたらくれてやるって言われて、俺たち光らせて遊んでたんすよ。まぁ持ち出したら店主が大剣持って追いかけてくるんすけどね」
あははと笑っている。
何その武器屋!怖いよ!?
・・・え、お父様持ち出せたの?!
「あ、坊ちゃん。昼ご飯の時間になるから一旦戻りたいっす。イザベラの手伝いしてきやす!」
「詳しく聞きたいが・・・ま、いいか」
猫耳メイドの手伝いの方が優先順位は高い。
俺はラースに担がれて上の階に戻った。
「おー!さすが賢者様だ!」
「こんなに早く町ができるなんて思いもしませんでした!」
上の階に戻ると、村人たちがテオドールの仕事を褒めている。
俺とは違う担がれ方をするテオドールは照れながら装飾を作っていた。
「あ、ディー!1層と2層は終わったよ!」
周りを見回せば、岩でできた3階建ての四角い家が建ち並び、屋上を渡り廊下が繋いでいる。
天井には光る石が太陽を模した形に敷き詰められていた。
ライト山脈のような星空ではなく、朝日のような少し黄色がかった温かな光が目に優しい。
「いい出来じゃないか」
「地下水も引いてるからすぐにもここに住めるよ!」
「ヨルもがんばったよ!」
2人でえへん!と胸を張っている。
確かに30分でこの出来はなかなか凄い。
「一旦休憩にしましょう」
「イザベラの料理もこっちに運んできやしたー」
・・・いや、ラース、お前が運んできたのはお前の嫁だ!
猫耳ラースが猫耳メイドをお姫様抱っこして現れた。
猫耳メイドの腕の中で猫耳乳児が目を丸くしている。
「ラースさん!お姉ちゃんじゃなくてこっち運んでよー!」
身体強化スキルを発動させた猫耳トロールもでかい鍋を担いで早足で向かってきた。
見れば机や椅子も次々に運ばれてきている。
ダンジョンに住むつもりなのだろうか・・・。
・・・あ!
「テオ、魔素が溜まるダンジョンには人は住めないんじゃなかったっけ?」
「えー?ちゃんと消費すれば大丈夫じゃないかなー?」
久しぶりに聞いた『大丈夫』。
多分確認しないとダメなやつだ!
「一応ミルドレウスに魔素が人体にどう影響するか聞いておいてくれないか?アメリアみたいに小さい子もいるんだ。何かあってからじゃ遅いからな」
「そっか!すぐ連絡するね!」
ふわっと光を出現させ、床に投げた。
うんうん、すぐに行動に移せるって素晴らしいね。
「魔素ってダンジョンの瘴気のことですかね?」
エスロットが首を傾げている。
「瘴気ってのは聞いたことないが、魔素が濃いと獣や植物が大きく凶暴化するって話だ。人も影響があるらしい」
ダンジョンの周りでデカい植物があったり、狼が凶暴化していたのもそのせいだと聞いている。
「あー俺たちそれ瘴気って習ってたんです。ダンジョン下層にマダラ草が生えてたら長居するなって。・・・これです」
鞄から紫色のまだら模様が不気味な、乾燥した植物を取り出した。
「なんか気持ち悪いな」
自警団たちも覗き込んでくる。
「あーこれが生えてないダンジョン階なら寝泊まりしても平気だって習ったな、そういえば」
「何の教科書だったっけ?『よくわかるダンジョン解説!誰でもなれる冒険者の進め上巻』だったか?」
「昔過ぎて全然覚えてないわ」
どうやら教科書も雑誌のようなキャッチーなフレーズ入りのようだ。
「俺ら魔素ってのは見えませんが、瘴気ならこんな風に感知する方法あるんで大丈夫ですよ」
「うむ。あいつに頼る必要はない」
お父様、結局そこか!?
「ほら、みんなー!コンフィが冷めるよー!!」
ゴンゴン!とソフィアが包丁を逆さにしてまな板に叩きつけている。
行儀が悪いぞ!
コンフィは下味を付けた豚ブロックをオリーブオイルで煮て、焼き色を付けた料理だ。
オリーブオイルに浸し低温で煮ることにより、そのまま焼くより中がふんわり柔らかく味が染みる。
「美味しい。・・・でも手間がかかっていて大変じゃないか?」
子供見ながらメイド業務は大変なはずだ。
「そんなことないよー。これなんて下味を付けて、染み込むまで洗濯して、P素材の袋にオリーブオイルと肉入れて、袋ごとお湯で煮てから焼き色付けるだけなんだよ」
ね、簡単でしょ!と猫耳をピコピコ揺らしている。
「簡単にこなしてしまう貴女が素敵だ」
「まぁ!ふふ、嬉しいわ」
さすがエスロットにも口説かれる人妻。
しっぽをフリっとして流されてしまった。
これしきのことでは動じないようだ。
「坊ちゃん!俺の奥さんだよ!口説かないで!!」
隣で緑の猫耳が狼狽えていたが、気にせず昼食を食べた。