猫耳の水浴び事情
ソフィア視点
「お姉ちゃん、私も旅に出たい!」
「ソフィア、これは旅行じゃないの。・・・命の危険だってあるの。だから・・・」
「だめじゃん!お姉ちゃん戦闘スキルないのにどうするの。私もついてくからね!」
ソフィア12才。旅立ちます!
1年前、お姉ちゃんがクロシェのスキルアップの書を出したら変な人に付きまとわれた。
変な人が変な団体になって、町のみんなもお姉ちゃんを見る目が怖くなってきた頃、私たちは逃げ出した。
紛争地域の方が紛れ込みやすい。
そうやって2ヶ月くらい逃げ回った頃、アーステア大陸で戦争が起きたと話題になった。
アーステア大陸なら渡り料安いし、田舎だし逃げる所多いんじゃない?って気分で来たんだけど、アクティブなストーカーが追いかけてきた。
「ニットとクロシェを混ぜる悪魔め!お前も獣と混ざり合うがいい!!はははっぐぇ」
呪いをかけてきたストーカーの頭が壁にめり込んだ。
すらっと伸びた足をガスガスと撃ち込む、薄緑色の髪をした男の人。
数日前お姉ちゃんに付き合って欲しいと告白していたラースさんだ。
・・・お姉ちゃんってすぐ変な人に付きまとわれるよね。
ぐしゃぐしゃと砕ける音が止む。
辺り一面真っ赤だ。
ラースさんが頬に血を滴らせたまま、お姉ちゃんの前に跪いた。
呪いで生えた猫耳がふるりと揺れる。
「そのままでも!俺、好きです!俺の家族になってください!!」
「・・・はい!」
・・・目の前で1組のカップルが誕生した。
「お姉ちゃん、なんでおっけーしたの?」
あれは頭おかしいよ。
「え?だって真っ赤なバラを敷き詰めた王子様が迎えに来たみたいだったでしょ?」
きゃっ!言っちゃったっ!と赤くなるお姉ちゃん。
猫耳がピコピコと弾んでる。
・・・きっと似たもの同士惹かれあったんだね。
あーあ、私も恋したいなー。
筋肉ムキムキな王子様にお姫様抱っこされたい!
自警団みんなムキムキだし、メイド服作って隊長さんにアピール!
・・・脈ナシ。
大人になったらって、いくつになったら大人なんだよー!
「お姉ちゃーん!アーちゃん泣きそー!」
やば!お客さん来てた!
「また猫耳メイドが・・・」
ド失礼な子だなー!
猫耳メイドは「また」なんて表現されないんだよ!
猫耳メイドってだけで喜べ!
って、この子アメリアにしか興味ないの?
私の方全然見ないし!
この子はディー君。
行方不明になってた領主の息子。
玉の輿かー・・・うーんもっと筋肉ムキムキじゃないと興味ないかな。
隣の金髪さんのが素敵だけど、これは観賞用だなー。
ミハイルさまがおこなので厨房に逃げてきた。
お帰り会のためにディー君と一緒に料理することになったけど、上手にできるかな。
いつもお姉ちゃんが「材料が・・・」って悲しい顔するからあんまり料理しないんだよねー。
「ソフィアって面白いね」
マジか!
ちょっと脈アリじゃない?!
頑張ってミンチ作ってよかったー!
でも料理苦手だから会話が続かないし・・・。
共通点とか・・・あ、そうだ!
「えーそうかなー。ね、私のサブスキル『ソーイング』なの。一緒だね」
「へー知らなかった」
だよねだよね!
男の子と会話が弾んでる!
領主の息子なのに全然えらそーじゃないし、思ったより優良物件かも。
お帰り会の片付け中、アメリアのお世話をする。
私だって皿洗いくらいできるのになー。
「ね、アーちゃん!」
「あぷ」
「うんうん!アーちゃんはいい子だなー!」
「ソフィア、こっちは片付いたから水浴び行きましょ」
「おっけー」
いつもは昼間に水浴びするけど、今日はお帰り会もあったし、寝る前に綺麗にするよ!
といっても、簡素なテントに水桶が置いてあるだけ。
スキルで少し温くなってるのが救いだねー。
うーん難民生活とはいえ、もうちょい華やかな生活したいよねー。はぁー。
猫耳外して、メイド服脱いで、バスタオル巻いて、ツインテール下ろして、猫耳付けてっと!
「準備完了!お待たせアーちゃん!」
「あぅ?」
「そこは「わーい!」だよ!アーちゃん!」
「ふふ、ソフィアはいいお姉ちゃんねー」
「そうだな」
うふふあははと猫耳家族みんなで水浴び。
もちろんお姉ちゃんと一緒に緑の猫耳も一緒に入る。
女性ばっかりだと何か起きた時に危ないから!だってー。
ラースさんは義兄さんだから一緒に入ってもいいんだけどね。
でももう私も15才だし、そろそろ1人で入らせて欲しいな。
・・・あーでもアメリアが2ヶ月の頃だったかな。
「びゃぁぁああ!!」
「アメリア!よしよし・・・うっ」
「ど、どうしたイザベラ!」
「お姉ちゃん?!」
「胸が・・・張るぅ・・・」
母乳流しながら胸押さえる姉と、心配し過ぎてグルグル回るタオル一丁の猫耳旦那と、泣く赤子。
ちょっと抜けた所のある家族をほっとけないよね・・・。
でもこんなカオスに混ざる私の気持ちなんて誰も気付いてくれないよねー。はぁー。
女子旅したくなってきた・・・。
「あれ?まだ誰かいた」
タオル一丁のテオドールさんがディー君担いで入ってきた。
「うぇ?!いま猫耳時間ですよ!?」
変な声出ちゃった。
猫耳じゃない人は順番待ちしてて!
「ごめん。ディーがねげ・・・」
「テオ、降ろして、穴」
ねげ?ディー君を降ろすとテオドールさんが地面に穴を開けた。
おろろろ・・・
「・・・うわぁ」
なんかもう、最悪!
何で気持ちよく入ろうって時にこんなの見させられるわけ?!
「ディー、すっきりした?こっちで洗っちゃお」
「パパさま、しっかり!」
「うぅ・・・」
ぐでんとしたディー君を2人で洗ってる。
・・・いい家族だなー。
汚いとか、文句言わずにモコモコと泡立てている。
「ね、手伝う?」
「うーん、ディーはあと水掛ければ済むから、ヨルヨンを手伝ってもらっていいかな?」
「おっけー、ヨルちゃんこっちで洗おー」
「はい!・・・えっと」
「私はソフィア。ソフィアちゃんって呼んでね」
「ぶふっ」
「はい!ソフィアちゃん!」
うんうん!いい子だなー。
なんか隣でイケメンがむせてるけど、気にしない!
「このシャンプー凄くいい匂い!ヨルちゃんこんなの毎日使ってるんだー」
「はい!おとうさまと、パパさまと、おにいさまが買ってくれたの」
「おにいさま?」
「おとうさまの、おにいさまなの!」
あーなるほど、テオドールさんのお兄さんか。
「女の子の身だしなみにお金出してくれるなんて、わかってるー!」
わしゃわしゃと銀色のウェーブヘアを洗う。
痛みのない長い髪は洗っていて気持ちいい。
「ね、ヨルちゃんのお母さんってどんな人なの?」
おとうさまとパパさまって、どっちも男だし。
「んーとね、お母さんいないよ。ヨル産まれた時箱の中にいたの」
「箱?」
「うん!狭くてね、鍵がかかってて開けられなかったの。おとうさまが開けてくれて、パパさまがワンピースくれて、初めてごはん食べたの」
「初めてごはん・・・」
「それでね。初めて外に出て、外は明るくて・・・」
「大丈夫!ごめんね、もう大丈夫だからね・・・!」
思わずヨルちゃんを抱きしめてしまった。
何その境遇、泣きそう!
大事にしてくれる人に助けて貰ったんだね!
ディー君、寝ゲロ野郎とか思ってごめん!!
「脱衣所にディー寝かせてくるー」
「おっけー、こっちは任せてよ」
テオドールさんがディー君を担いで脱衣所に向かう。
「もうソフィア。あなたもう少し言葉遣いを・・・」
「あー!化粧水もあるなんて!ヨルちゃん大事にされてるのね」
ぴちゃぴちゃとヨルちゃんに化粧水を付けて、残りをこっそり自分の顔に!
「こらソフィア。あなたメイドなんだから使わせてもらうばかりじゃダメよ」
「えーでもメイドの私が可愛いってテンション上がらない?」
「あはは。ソフィアも女の子だもんな」
ラースさん、そう思うなら女子の水浴びに入ってくるなー!
「もう・・・アメリア拭いてくるから。ゆっくり入ってきてね」
お姉ちゃんとラースさんがアメリアを連れて脱衣所へ出ていった。
「私たちも髪乾かそっかー」
「ヨルのドライヤー使う?」
「うわマジで?!ドライヤーあるの?!」
ドライヤーなんて高価なもの見たことないよ!
スイッチを押すとコオオオと温かい風が出てきた。
サラサラと風になびく銀色の髪が乾いていく。
いいなーお嬢様ってこうじゃないとねー!
・・・あ!
「ねえヨルちゃん!これからは私と2人で入ろうね!」
「2人で?」
「そうそう!やっぱ女の子同士で入るのは当然だよね」
「女の子同士・・・うん!」
やった!
私、やっと女の子として自由を手に入れたよ!
「ディー!寝ててー!」
「・・・これはギンガムチェック・・・パジャマ・・・」
「うわ坊ちゃん!なんすかこれ?!」
脱衣所が騒がしい。
もう!私もドライヤー使いたいのに!
髪をタオルで拭いて、バスタオルを巻いて脱衣所にいく。
「どーしたの?」
「ディーが寝ぼけてみんなのパジャマ縫いだしちゃって・・・」
寝ぼけて脱ぐなら聞いた事あるけど、寝ぼけて縫った?
・・・ま、増える分にはいっかー。
ぴらっとパジャマを広げる。
「え?可愛くない?これ」
ギンガムチェックのパジャマ。
肌触りも良いし、何より肌にあたる縫い代が綺麗に処理されている。
思わずバスタオルを脱ぎ捨てて着てしまった。
「ん、はぁ・・・これが・・・上級スキル・・・」
包み込むような温かな肌触り。
何故か上質な薬草の香りもする。
そして締め付けがキツくないカボチャパンツ!
「んんっ・・・いい!すっごい気持ちいい!」
「ソフィアちゃん気持ちいいの?」
「うん!とっても!ヨルちゃん、パジャマお揃いになったね」
「おそろい!」
ヨルちゃんも嬉しそう。
今日はよく眠れそうだよー。
ディー君思ったよりすごい人かもね。
ところで・・・なんでサイズぴったりなんだろ?