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ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第9章 ベニチェア王国
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魔王と勇者

ミルドレウス視点

「なんだその帽子は」

頭に皮の帽子を被り、周りをベールのような布で覆っている。

「これはねーメラニア大陸の最新トレンドなんだよー知らないでしょー」

ふふん!と俺の腰ほどの背丈しかない少女が笑っている。

「似合わん。どうせ耳を隠したいんだろ」

魔石を持って生まれる者に現れる、特有の耳。

よく見れば金色の三つ編みと一緒に、白い髪が左右から覗いている。


ゴツン!


「いっ・・・ダンカン。何するんだよ」

「女心のわからないポンコツを修理してやろうと思ってな」

修理と言いながらなぜ殴る。


「ダンカン兄ちゃん、お勉強は?」

「あ?学校か?面倒くさくて抜けてきた」

せっかく学校に通うためにウォルトア大陸に来たのに、何してるんだこいつは。

「学んでおけよ。いつも空中バイクの整備、俺に押し付けやがって・・・」

「はんっ!魔石工学の難しさはお前も知ってるだろ。俺には無理だ。それよりスキルを磨いて冒険者になれる学校ねーかな」

「あるわけないだろ」

冒険者になるなら学校じゃなくてダンジョンに通うべきだ。



お父様が独り立ちを許して下さって、早5年。

俺はウォルトア大陸のベニチェア王国に来ていた。


ここに来てすぐ友人ができた。

イタズラ好きで空中バイクで俺に突っ込んできたダンカン。

俺じゃなかったら殺人事件だったな。

ホビットみたいな姿をしているが、一応ドワーフだ。

そのうち毛深くなるらしい。


もう1人はこの大陸最大の国家、ベニチェア王国のアリス姫だ。

こいつも空から降ってきた。

人と異なる耳が気になる年頃らしい。

綺麗な金髪の三つ編みごと帽子で隠そうとしている。





「あー!兄ちゃんたちいたー!」

「おーメルちゃん。ママとお散歩かなー」

「走るな、転ぶぞ」

トテトテとエルフの子供が歩いてきた。

頭と体のバランスが悪くて危ない。


「あのね、ママとお話してね、メルね大きくなったらアリス姉ちゃんになるの!」

まだ生まれて3年だったか。

あのね、あのね、と説明している。

隣にいるエルフがあらあらと笑っている。


「私になるの?」

「ふふ・・・メルはアリス姉ちゃんみたいに耳を隠さずにお外に行くのよねー」

「ねー!」

2人でエルフ特有の尖った耳をピコピコと動かしている。


魔族との戦争で随分と数を減らしてしまったエルフ族。

珍しがられることは無いが、やっぱり目の前でピコピコされたら目がいってしまう。



「隠さずに、だってさ」

チラッともう1人の特殊耳に話しかける。

「こ、これは日差し防止だもん。ノームの末裔の血のせいで日差しに弱いの!」

「まぁそういうことにしてやる」



人が生きていけるよう魔素の濃度を下げる。

ノームの末裔として精霊より賜った崇高な使命だ。

それを担う者たちが、各国にそれぞれダンジョンを構えていた。


長い年月を生きる我ら一族が、人と恋に落ちることは珍しくない。

そうした中でノームの末裔との間に、稀に魔石持ちが産まれることがわかった。


魔石持ちは普通の人間より強い魔力を持つため、今ではほとんどの国でノームの末裔を妻に迎え入れていた。

永遠の愛と平和の願いを込めて、人間に嫁いだノームの末裔はこう呼ばれた。



【宝玉の姫】と。



アリスも王族とノームの末裔の子だ。

この国の城にいるカーラという俺の大先輩の娘として、そしていつか現れる魔王を倒す勇者候補として大事に育てられている。


魔王ってのはどんな奴か知らないが、魔族から産まれるらしい。

まぁ俺には関係ない。

俺はこの土地にダンジョンを作って、ダンジョンマスターになるんだ。


・・・だがダンジョンってどう作るんだ?

元々あるダンジョンの改造しかできないんだが・・・。

結構勢いで出てきてしまったからな。

ま、そのうちできるようになるだろ!



「ミル兄ちゃん、ママね、メルね、ミル兄ちゃんと結婚するって」

は?誰と誰だと?

「ぶほっメルちゃん、それママが好きって言ったの?それともメルちゃんがミルを好きなの?」

ダンカンが面白いものを見つけたように聞いている。


「ふふ・・・メルったら、内緒って言ったのに。ミル兄ちゃんはフリーだからいけるって話よねー」

「ねー!」

「子供になんて話をしてるんだ」

「あら、今のエルフ族に課せられた使命は産めよ増えよなのよ。どうせなら強い子を望むじゃない。大丈夫、ノームの末裔も元は人の子。私が孕めばエルフとして産まれるわ」

ふわふわとした雰囲気で、ゆさゆさと巨乳を揺らしている。

「ああ、ゴブリンがどの腹でもゴブリンとして産まれるのといっ」


ゴツン!!


「いっ・・・」

「はぁ・・・デリカシーすらねーのかこのポンコツは。こんなんでよければ貰ってもらえよ。ママでもメルちゃんでも選り取りみどり」

昔は姫をダンジョンに潜らせ、惚れさせて婿取りをすることもあったそうだ。

今は危険だからやってない。

そのせいで『宝玉』は女だけ呼び名になった。


と言うか、俺は結婚する気は無い。

「そういうお前こそ貰ってもらえ。ツルツルなうちに」

今ならホビットと言われても通るだろ。

「お前わかってないな!ドワーフは二次性徴こそ醍醐味だろ。今に見てろ!髭から胸毛までもっさりフサフサにー」

「ヤダキモイ」

「もっさりいやー」

女の子には生理的にダメなようだ。

「お前らモジャモジャになったらスリスリしてやるからな!」

キャー!と追いかけっこをしている。


平和だ。


本当に、平和な日々だった・・・。




5年後、国王から魔王出現の報せが国中に届けられ、勇者候補の冒険者がこの国に集められた。

「冒険者よ!世界の平和のため!魔王を倒してくるのだ!」

「「「おおおおお!!!」」」


「これだけの人数が集まったんだ、俺たち行かなくても終わっちまうだろ」

「あらだめよ。何のために勇者として育てられたのかわからないわ」

アリスは金色の髪をはためかせながら城下に集められた男たちを眺めていた。


豪華な金髪がふわりと風に揺れれば、真っ白な産毛の垂れた耳も揺れていた。


コボルトのような、犬耳。


アリスがこの耳を隠さなくなったのはいつ頃だったか。

天真爛漫なガキンチョが、凛とした雰囲気のお姫様に成長していた。





「お!お前らもとうとう旅立ちか」

「ちゃんと帰ってくるのですよ」

門番たちだ。

昔は生意気なガキだったのに、いつの間にかアリス同様大人になっている。

・・・人間とは生きる時間が違うとはいえ、少し取り残された気分だ。


「俺らは伝説の勇者パーティーになるんだ。お前らも早く出世しろよ」

ふん!とダンカンが偉そうにサムズアップしている。

「ダンカンの兄貴が勇者パーティーかー・・・」

「チンピラが勇者パーティーですかー・・・」

的確に分析されている。

ダンカンの弟分としてくっ付いてただけの事はあるな。

「口の減らねぇ!まぁいいや、行ってくるわ!」

「「いってらしゃい!」」

門番に別れを告げ、空中バイクで港へと向かう。



「まずはホール大陸に行くか」

『神代の時代に女神が開けた大穴』なんて伝説があるホール大陸。

大陸なのに穴、意味がわからない。

わからないが、ここの初級ダンジョンから始めるのが冒険者の慣わしになっていた。


「そうね。ミル!ダンカン!二人とも旅の始まりよ!怪しい人がパーティーに入り込んでないか確認できましたかー!」

「それ子供の教訓だろ。変な人がついてきてないか周り見ろってやつ」

「ぶほっ伝説の勇者の旅立ちの掛け声として記録しといてやるよ!」

空中バイクに3人乗りってだけで振らつくのに、アリスもダンカンも乗り出して騒ぐ。



子供だましな掛け声とともに、俺たちは旅だった。



岩を砕いて進み、海底を歩いた。

炎の谷を降り、風の塔を登った。


祝福と加護を受け、俺たちは浮かれていた。

もう敵はない。

どこにでも行ける、何でもできると。




「ねぇ、ミルはこの旅が終わったらどうするの?」

「どうって、ダンジョンマスターになって冒険者が挑まずにはいられない俺の城を築くんだ」

ダンジョンの作り方はマスターした。

あとは場所をどこにするかだけだ。

「相変わらずだねー」

「そういうアリスはどうなんだよ」

「そーだなー・・・願いはあるんだけど、叶えるとなると難しいかなー」

「なんだそれ」

アリスは遠い星空を眩しそうに見ている。

その横顔は・・・いつの間にか旅を始めた頃より大人びていた。



・・・叶えたいなら叶えたらいい。

人間の寿命は短いんだ。

俺たちが一緒にいられる時間は永遠じゃない。


何でもできるのは、今だけなんだ。






「覚悟なさい!魔王!」

ロンダルキア最大のダンジョン、邪神の祭壇。

ダンカンの【剣作成】で輝くように燃える剣が空に並び、魔王に降り注ぐ。

俺も岩を空に打ち上げ、赤く、黒く、灼熱を帯びた隕石を降らした。


そしてアリスはまるで光り輝く天使のように飛び上がり、手にした剣で魔王を圧倒した。




勝負はあっという間だった。

魔王は攻撃する暇すらなく、地面に伏した。


「俺たちにかかれば、魔王だって大したことなかったな」

ダンカンと顔を見合わせるとふうと一息ついた。




だが、違った。




突然アリスの体に黒い靄のような薄暗い闇が覆う。

「なっ!アリス!」

「・・・うそ・・・ちがうわ・・・そんなこと・・・」

「あれは魔素?・・・なっ?!」


違う。

魔素はあんなふうに動いたりはーーー。



「なぜ・・・なぜなのよ!だったら、全部、全部っ・・・」

「おい!しっかりしろアリス!」

頭を抱え靄を振り払おうとするが、やがて立ったまま動かなくなった。



「うん。全部、ころそう・・・」



突然アリスが飛び上がると、その背に巨大な黒い羽根が出現した。




アリスが転移で消えてすぐ、各地に噂が流れた。


各地の城が、魔王によって殲滅されたという。


「あれは誰だ?!」「金髪に、特徴的な耳、黒い翼だ!見つけ次第殺せ!」「なぁ、あれって勇者の・・・」


アリスが魔王になるはずがない!

あいつは勇者なんだ!


転移の使えるアリスが次にどこを襲うかわからず、俺とダンカンは手分けして探し回った。


だが、俺たちがたどり着く先々にあったのは、破壊し尽くされた国々だった。



・・・アリスは勇者として育ってきた。

魔王だって倒したんだ。

こんなこと、あいつがするはずがない・・・。



「ミル!ノームの末裔だ!アリスはノームの末裔を狙ってる!」


ダンカンから連絡を受けて、俺はすぐにノームの末裔が暮らす土地に戻った。


「お父様!みんな!大変なんだ!魔王が・・・」


・・・そこには体内の魔石を破壊され、死体に戻ったお父様や兄達がいた。


「なぜ・・・なぜだ!アリス!」




俺は急いでベニチェア王国に戻った。

もう1人、ノームの末裔がここにいるからだ。



国王に報告し、初めてアリスの母親に会った。


宝玉の姫として、何不自由なく城の一室で過ごしていると聞いていた。


だが事実は異なった。


その生気のない瞳は何も映さず、ただ座っているさまは人形のようだった。


「なぜ・・・俺の一族がこのような状態になっている。それに、その魔石持ちの人間どもは何者だ!」

カーラの周りには金髪の人間が何人も立っている。

全員、魔石持ちの耳をしていた。




「彼らはカーラの子供たちだ」


・・・カーラの状態。

・・・稀にしか生まれないはずの魔石持ちの『大人』。


カーラがこの長い年月、どんな仕打ちを受けていたのか・・・想像がついて吐き気がした。

「お前が・・・お前らが!」

愛なんて嘘だ。

各地にいた宝玉の姫は・・・。

魔石持ちを産むための道具として扱われていた・・・。



「ころしたほうがいいの」



声がするとともに、部屋の中を黒い刃が通り抜けて行った。

ドシャ・・・と魔石持ちの人間と国王が崩れ落ちる。


「おかあさま、むかえにきたの。おわらせるの」

アリスは微笑んでいる。

視線の先で、まるで人形のように座っていたカーラがゆっくりと立ち上がった

「アリス・・・大きくなったわね・・・」

ゆっくりと両手を広げる。


次の瞬間、カーラは目の前に移動したアリスによって、腹を刺されていた。


「・・も・ね・・・一緒よ・・・」

カーラは開いた両手でアリスを包む。


アリスの背中を、土の刃が生えるように貫いた。




「アリス!アリス!」

抱き合ったままの2人に駆け寄った。

ざらっとカーラの体が塵と化す。

「ちがうの・・・わたし、こんな願い・・・」

「喋るな、いま治癒スキルで・・・」

「ミルと・・・」

ふっと笑いかけるように息をして、アリスは動かなくなった。


・・・なぜだ。


なぜ、アリスはこんなことを?


なぜ、アリスが、ここで死んでいる。




バンッと扉が開き、兵士が2人入ってきた。

城の兵士となったあの門番2人だ。

「これは・・・」

「ミル・・・」

「・・・何も、見なかった・・・そうしてくれないか?」

アリスに何が起きたのかはわからない。

だが、アリスは勇者なんだ・・・。


「・・・ダメだ。俺たちはこの国の剣となり盾となる。事実を歪めることはできない」

「事情は聞いてやる。だが勇者・・・いや、魔王のしたことは消すことはできん!」



「そうか」







「愚かな人間どもめ!我が名は魔王ミルドレウス!世界を深淵に引きずり込み、暗黒に染める者!」

わざわざ名乗った甲斐があった。

10数年で勇者アリスの暴走は鳴りを潜め、魔王ミルドレウスが各地を攻撃したと書き直すことができた。


・・・ダンカンの協力もあった。

何をしたのか教える気は無いから、死んだことにして引きこもってろと言われた。


引きこもっていても不都合はない。

もう誰にも会う気は無いから。

誰も・・・誰も知り合いなんて生きていないのだから。




凍える大地ロンダルキア。

その水晶のような壁面の一角に置いた転移陣。

ここまでたどり着く歴戦の勇者も壁転移には太刀打ちできなかったようだ。

「・・・壁から鎧が出ている。ここも一杯か・・・」

次から次に襲いかかってくる冒険者をいちいち相手にしていたらキリがない。

それに、ガーディアンの材料が手に入るからこのトラップにした。


この罠をしかけて、160年ほど経ったか。

・・・ここに人を向かわせることに、何も感じなくなって久しい。





そいつはカーディアンに腹を貫かれて死んでいた。

どこかで見たことがある髪の色。

・・・そうだ、アリスと同じ色だ。

カーラにあれだけの数を生ませたのだ、アリスが見落とした人間もいたのだろう。

魔石なしなのか、耳はアリスとは違い人間のものだ。



彼女の願いは・・・。


―――ちがうの・・・わたし、こんな願い・・・


彼女の願いは何だったんだ?


すでに死んでしまったこいつに聞いても答える(すべ)はない。



『ねぇ、ミルはこの旅が終わったらどうするの?』


旅は終わって、自分のダンジョンも作った。


だが、何で虚しいんだ。


『願いはあるんだけど、叶えるとなると難しいかなー』


アリスの本当の願いは何だったんだ?


俺の・・・本当に叶えたい願いは・・・?




「・・・我が血と魔力を持ってここに願う、『アリスの願いを探し出し、叶えよ』」


あぁ、そうだ、大切な仲間として、大切な女性として、彼女の願ったことを俺も探したい。



「我が息子よ。名は・・・テオドール」


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