魔王降臨
「え?」
俺の周りに見た事のある魔法陣が光りながら浮かんでいる。
ぶわっと中心から渦巻く魔力に押し流され、荷台の奥に吹っ飛ばされた。
何これ?!死んじゃう!
もふっ!と先程までヨルヨンが仮眠をしていた布団に打ち付けられた。
助かった・・・。
「なんだよ、もう・・・」
足元に転がっていたスキルキャンセルのハンカチとあみぐるみを拾う。
ついでに俺の救世主、モフモフの布団も鞄に入れた。
ヨロヨロと出口に向かう。
こっそりと荷台から顔を出した。
魔法陣のあった所を中心に、列車も吹き飛んで倒れ無惨な有様だ。
こんなに吹っ飛ばされたのに、俺よく無事だったな。
この騒動が収まったら感謝を込めて布団干しをしよう。
ヨルヨンたちはまだ拘束されていたが、紳士の影で爆風からガードされていた。
・・・俺との扱いの差が広い。
ん?俺のいた所に、誰か立っている。
「・・・は?」
我ながら随分と間抜けな顔をしていると思う。
開いた口が塞がらない。
角の生えた鉄兜。
長い髪の如き飾り。
黒く光る鎧。
そして真っ赤なマントが風もないのにバサバサと揺れている。
英雄伝に出てくる暗黒の鎧に身を包んだ【魔王ミルドレウス】。
紫色の空が少し青みを帯びてきたこの清々しい空の下。
禍々しい魔力を放っていた。
「どうしたテオ、困りごとか」
人の良さそうなセリフがあまりにも似合わない。
『どんな願いも叶えてやろう、お前の命と引き換えにな』とか言われた方が寧ろ納得する。
テオドールは影に縛られていたが、目の前に光る羽を出現させている。
もしかして転移の翼ってやつか?
不思議な鞄から出したのか。
魔王の過保護が役に立ったな。
「あの人たちがヨルヨンをいじめたんだ」
テオドールがすっと目線を紳士に送る。
ミルドレウスがそちらを向くと同時に攻撃が放たれた。
どうやら状況確認とか、相手の言い訳は聞かないようだ。
「ぐぁあ!」
・・・紳士の腕の先が無い。
ミルドレウスの腕から放たれた物体は、紳士の前でさらに質量を増していく。
ギギギ・・・と軋むような音を立てて羽を生やし、白い柱のような骨が重厚な音を立てながら組みあがっていった。
その口には紳士の腕を咥えている。
【ボーンドラゴン】
魔王の背景として英雄伝に描かれていた化石のようなドラゴンだ!
伝説級の魔物・・・いや、もしかしてガーディアンなのか?
「な、なんだこい・・・ぇ」
ボーンドラゴンが尻尾を振ると、紳士の上半身が吹き飛んだ。
「ギャオオオオオオ!!!」
「フレック!姫!こっちだ!巻き込まれるぞ!」
メルリオーネの水がベーグルの兄貴と姫に巻き付き、抱えるようにこちらに逃げてきた。
と、同時に瞬間移動でもしたような動きでボーンドラゴンが列車のひとつを踏み潰した。
ブチッ・・・グチャ・・・。
・・・多分筋肉質の男と、ベーグルの兄貴が戦ってた男も死んだ。
そんな音がする。
わーベーグルの兄貴はフレックって名前なんだー。
うん、似合ってるー。
俺は目の前の光景を早く忘れられるよう、関係ない事を考えながら耳を塞いだ。
いつの間にかミルドレウスがヨルヨンを片手で抱いていた。
「じっじ、ありがとう」
「うむ」
ヨルヨンがフードを外して角を出した。
「じっじ、角一緒!」
「うむ」
うむ。じゃねぇよ!
何この敗北感・・・。
俺より頼りにされるなんて・・・まぁわかるけど!
強すぎるし!
ガッ!
何故か戻ってきたメルリオーネにガッチリホールドされた。
俺の首がグイグイと締め上がる。
やめて!俺が何をしたっていうんだ!
「お前はまた余計なことを・・・」
「ぐぇ・・・メルリオーネ、お前知ってたのか。条約なんてアナリーゼの」
「知っとるわ!でも知らなくてもいいガキに知られただろ!阿呆!」
オリビアがベーグルの兄貴に付き添われて戻ってきた。
あのやり取りが聞こえていたのだろう。
顔が伏せっていて表情が見えない。
「時期を見て逃がす予定だったというに。お前はなんで物事を大っぴらにするんじゃ!」
ギリギリと胸と腕に挟まれる。
あー牢獄で言ってたガキには早いって姫さまのことかよ。
わかるかそんなもん!
はなせ!ブラジャーは硬いん・・・硬くない?!
後頭部に伝わる感触はブラジャーの硬いワイヤーやパッドの質感ではない。
まるでブラジャーを付けていないような、ブリンブリンと弾力を持った質量が押し付けられている。
まさか、そんなはずはない。
あの質量の形状を維持しながら、この柔軟性を実現させるだと・・・。
「このブラジャーの素材ってなに?」
「・・・死にたいようだな」
「で?何があったんだ?」
1発殴られて解放された俺の心配など誰もしてくれない。
「何って・・・色々あったけど、原因と言えばミルドレウス様にあるか」
「どういうことだ?」
・・・睨むなよ。
俺はテオドールの影に隠れた。
テオドールがスキルカードを取り出す。
「お父様が僕の名前に王族の名前を付けたからだよ、教えてくれてたらよかったのに・・・」
ヨルヨンを抱いていた魔王の顔が固まった。
元々無表情だがな。
「・・・ふっ」
「じっじ?」
「ふはははははははは」
ミルドレウスは突然笑い声をあげた。
それはもう、魔王ですねって笑い声だ。
「あぁ、そうか・・・ははっ・・・私と、同じ・・・」
笑いながら、目じりに涙が浮かんでいるように見えた。
「ミル兄、カタラーゼの軍勢が東に集まりつつあるのだ」
ミル兄!似合わねぇ!
ミルドレウスは300歳くらいって言ってたからな。
メルリオーネより年上なんだろうけど・・・似合わねぇ!
「ふむ。東か。わかった」
何がわかったんだ。
「よいのか?」
「ああ。奴らの注意を引くつもりでいたからな」
チラッと駅の入口を見る。
物音に気付いて人が徐々に集まってきていた。
「お父様、私はこのままメルと行動します」
「そうか。正体がばれているのだろう、気を付けて行動せよ」
トライドットとはここでお別れか。
「ドット、世話になった。あとさっきは助かったよ」
「気にしないでください。また会いましょう」
俺たちはしっかりと握手を交わした。
「魔王を倒すために集った我らが先祖に!その魂が受け継がれたと今こそ示すぞ!!」
「「「おおおおおお!!」」」
おお、ご立派だな。
でも、とりあえずエプロン外して鎧に着替えてこい。
みんな家事が途中だったのか、腕まくりをして洗い物やホコリ取りを持っている。
この国に男がいないと思ったら、そんな所にいたのか。
「ボーンドラゴンを倒そうとしてるな。さすが冒険者の血筋、強かだな」
いや、武器ホコリ取りと防具エプロンで伝説に挑むとか、無いから。
「悪い奴らは死んだようだし、ヨルヨンに殺しを見せるのはよくないと思う」
あ、1番悪いやつがどうなったか確認してない。
・・・まぁいいか。
「ふむ。ではさっさと飛び立つか」
俺はちらりとオリビアを見た。
目を伏せているが、涙をこぼさないよう唇をきつく結んでいる。
「姫さま、これ」
俺は故郷の花々を刺繍した白いハンカチを差し出した。
「もし泣くことがあったら、これ使ってよ」
「・・・泣きませんわ」
そう言いつつもハンカチを受け取ってくれた。
「ディー!ほら掴まって!」
ちょっと待てって。
ボーンドラゴン、血まみれ!
そんな赤黒くヌメった骨に掴まったら汚れる!
そして滑って落ちる!!
メルリオーネに水をかけてもらい、綺麗になったボーンドラゴンにしがみつく。
スケルトンの時も思ったが、骨だけでどうやって組上がってるんだ。
・・・あ!魔力が骨と骨を繋いでる!
透明な魔力が靭帯や滑液みたいになものを作り、関節を作っている。
それであんな無茶な動きができるのか。
これがボーン系か、凄いな。
「ゆくぞ」
「うおぉ・・・おち・・・落ちるぅ・・・」
ぶぉぉお!と風圧がやばい。
振り落とされないようにするだけで精一杯だ。
俺は人間で言うところの腓骨に。
テオドールは人間で言うところの脛骨に。
ヨルヨンはミルドレウスに抱っこされている。
扱いの差が広い・・・。
ギャオオオオオオ!!!
ボーンドラゴンは咆哮を上げながら広い駅内を旋回し、空中に浮いた渡り廊下に降り立った。
「ふははははは!!愚かな人間どもめ!我が名は魔王ドゥールバルド!世界を深淵に引きずり込み、暗黒に染める者!」
いやいやいや、おかしいから。
なんでガチ魔王が俺たちの魔王を名乗ってるの?!
あと伝説のボーンドラゴン背景にするまでは合ってる。
でもその手に抱いてる うちの子おろして!
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
まるで大会の宣誓式のように興奮して聞いている。
こういうのってもっと絶望しながら眺める物じゃないの?
「我が力を見るがいい!」
魔王の手から上空に火の玉が放たれる。
駅のアーチ状に組まれた天井のガラスをぶち破り、さらに空高く登ったと思えば、隕石のように東の空へと降り注いでいった。
まるで登った太陽を撃ち落とさんばかりだ。
「わーきれいだねー」
あははとテオドールが笑っている。
つーか何でノームの末裔が火属性魔法使えるんだよ!
下では「あれが魔王!」「ドゥールバルドだ!すぐ伝令を飛ばせ!」と賑やかに包囲網が敷かれている。
なんでお前ら笑顔で仕事してるの?!
「今回はあいさつ程度だ。冒険者よ!最果ての地ロンダルキアにて待つぞ!」
それ待ってるのは壁転移の即死トラップだろ!
「「「おおおぉぉぉ!!!」」」とノリがいい観衆に見送られながら、俺たちはボーンドラゴンで飛び去った。




