ドルドーラの奴隷商
「よーし鍛錬やるぞー」
「えーまたー?」
「また、じゃない。毎日やってこその鍛錬だぞ」
毎日6歳以上の子を集めて走り込みや剣術の指導を行っていた。
自警団に指導してもらっていたから俺だって剣くらい使える。
ただ、スキル持ちには絶対に勝てないだろうが・・・。
剣術や走り込みなどの鍛錬を行う他に、日々の水くみや子供たちの世話など毎日鍛錬と言えるほど肉体労働をしている。
そのおかげでこの3年で随分と筋肉がつき、肌も少し焼けた気がする。
「いつかあんな風に馬に乗ってみたいな・・・」
視線の先にはいかにも戦士という風貌の男とその後ろを銀髪の少女が馬を歩かせていた。
ドレスのような鎧、ボレロのような短いマントには階級章と十字架が装飾されている。
(女性でもスキル次第で戦場に出られるのに・・・)
アルが裾を引っ張る。
「兄貴馬に乗るの?」
「馬には乗ってみたいな。鎧は重たそうだからそんなに。馬に乗って風を感じたい」
ミィが反対の裾を引っ張る。
「ディー兄もドレス着るの?」
「ちょっとまて。俺が憧れを抱いたのはあっちのいかつい方で、ドレスのご令嬢じゃない」
俺はムキッと力こぶを出す。
「・・・あんまりない」
可哀想なものを見る目でアルとミィが俺の力こぶを撫でる。
仕方ないだろ。お父様だって細マッチョだったんだ。俺のせいじゃない。
「よーし売れ残りの小童どもめ。今日こそちゃんと売れるように礼儀正しくしてろよ」
ドル爺が集まった子供たちに一喝する。
「みんなー今日もお客さんが来たら、ちゃんとあいさつしましょーねだってー」
そんな副音声、声に出さなくても聞こえてますって。
そこにいたのはショートカットのお姉さん。
1年前に売りに出されたルミナだ。
「ルミナ!このガキ売っ払ってもすぐに出戻ってきやがる。今日は何の用じゃ」
ドル爺の一喝など気にせずルミナは笑顔で近づいてきた。
「もードル爺は相変わらずなんだから。可愛い弟分たちに給料のお裾分けにきたのよ」
ドル爺はルミナにちゃんとした【職】を与えていた。
スタイルの良さからそっち方面の勧誘が絶えなかったと聞いていたが、ドル爺が持ってきたのは夫婦で営む食堂の接客業。
「朝から晩まで働いてもこの給料だ!わかったか!」なんて言っていたが、給料が安定した安全な職なんて孤児には簡単にもらえない。
泣きながらお礼を言うルミナは毎月こうして給料の一部を届けに来ていた。
「ドル爺、俺にもちゃんとした職みつけてきてくれよ」
「ふん、女装させた方が買い手がありそうだったのに、3年で背ばっかりでかくなりやがって。さっさと露店にいってこい」
3年で、背が伸びた。
そう、俺はこの町で大人になったんだ。
この国では18歳が成人らしいが、アペリティフでは15歳で成人で酒も飲める。
ルミナにもさんざん子ども扱いされたが、ドル爺はちゃんと俺の成長を見ていたらしい。
俺は鼻歌交じりに【緑のスカーフ】を身につけた。
これはドルドーラの奴隷商の子だと示すもので、職持ちになってちゃんとした首輪が付けられるまでの目印だ。
さぁ、今日も元気に働くか!