オリビア姫
「失礼します。女王陛下がお呼びで・・・す」
部屋に入ってきたアナリーゼとメイド軍団。
死んでない俺に舌打ちしたり、同じベッドで寝るテオドールとトライドットを見て頬を赤らめたり。
・・・朝から賑やかだな。
二度寝するわけにもいかず、身支度をして部屋を出る。
もちろん荷物は全部持った。
このまま謁見を済ませて、中級ダンジョンへ行くつもりだ。
「こちらにございます」
通された部屋は高級感はあるが、どちらかと言えば女の子たちがお茶会をするような部屋。
もっと謁見の間のような仰々しい部屋に連れていかれると思った。
部屋の中には女王の他に、年頃の女の子が座っている。
「呼び出したりしてごめんなさいね。この子がどうしても一目会いたいって言うから」
ふわりと金髪をなびかせて、女の子がスカートの端を持ってお辞儀をした。
「私はオリビアよ。あなたがテオドール様ね、聞いていたより素敵なお方ですわ。それで、そちらは・・・」
気の強そうなオリビアがヨルヨンを見る。
びくっと震えると、テオの足にしがみついてしまった。
「まあ、怖がらせてしまったかしら。私、仲良くなりたいのよ」
ニコニコと笑顔で歩み寄る。
「私はオリビア。貴女のお名前は?」
「・・・ヨルヨン、です」
「ヨルヨンね。私たちきっとお友達になれるわ」
このフレンドリーガールが、隣国に嫁に出される姫さまか。
全然悲観した様子はないな。
「確認のためとはいえ拘束してしまいましたね。どうぞ国内を自由に見て行ってくださいませ」
どうやら帰してもらえるようだ。
「でもテオドール様。ノーブル・ロットの名がある以上あなたを王族として復帰させるのか、その審議に時間がかかっているの。どうか国外には出ないでいただけるかしら」
・・・帰してくれるのはテオドール以外の俺たちだけのようだ。
「私は王位を望んではいません。行くところがありますのですぐにでもここを発ちたいと思っています」
すっと前に出るテオドール。
相変わらずの貴族モードで、周りのメイド軍団も頬を染めている。
「あら、どちらへ行かれるのです?」
「中級ダンジョンがこの近くにあるとか。そちらに向かいたいと思います」
俺たち行方不明になってきます。
探さないでください。
「まぁ!では私も一緒に参りますわ。戦闘スキルがあるもの、お邪魔にはなりませんわ!」
・・・いや、邪魔だよ姫さま!
だって俺たち討伐じゃなくて生産しに行くんだから。
妹が生きてるかも確認したいのに・・・。
「私からもお願いするわ。どうか娘を危険がないように守ってくださいね」
女王陛下、それもう命令だから。
俺たちはオリビアを連れて中級ダンジョンに向かうことになった。
支度を終えて城の門に集まる。
テオドールとトライドットがヒソヒソ話している間、またアナリーゼが絡んできた。
「ディートハルト様はここに残られるのですか?」
「・・・いいえ」
だって手ぐすね引いて待ち構えてるんでしょ?
城に1人で戻ったら死んでしまうんでしょ!
「まぁ!足手纏いになることがわからないのかしら・・・」
「荷物が増えてしまいましたわ・・・」
メイド軍団にもクスクスと聞こえるようになじられる。
・・・そろそろ俺だって怒るんだからな!
「いい加減に「ディートハルト!馬を出してくれ!」
・・・は?
かなりいい笑顔のテオドールがこちらを見ている。
なぜ、ドヤってやがる・・・。
「・・・ここはスキルとして見せた方がいい」
コソッとトライドットが隣に来て耳打ちする。
見せた方がいいって、インテグラにもらった空間作成の腕輪の力だろ。
「騒ぎになるだろ」
「・・・このダンジョン攻略に託けてディー君を亡きものにする計画が」
「使うわ」
即座に使うわ!
俺は生かしておく価値のある人間だと示すぞ!
俺は腰に左手を当て、右手を上にあげる。
パチン!
振り下ろすように指パッチンを繰り出す。
ふわっと影の中からルーイたちが出てきた。
・・・ウールン!引っ込め!!
「メェ」
出てきちゃった・・・。
まぁ馬の召喚は上手くいったし大丈夫だろ。
トライドットは俺に合わせて自分の馬を出したようだ。
・・・ん?みんなの視線が、俺の・・・左手?
腰に当てていた左手をそっと退けてみる。
そこには楕円のあみぐるみと皮の割引券があった。
・・・やばい。
みんな俺の力じゃなくて、このあみぐるみの力だと思ってる!
これ、殺して奪ってやるとか考えてないよな?!
すぐにここから離れて行方不明にならなきゃ!
「ウールン!戻るんだ!」
「メェ」
初めての外に浮かれているのか、キョロキョロと見回している。
ウールン!ここには狩人しかいないんだ!
お前の冒険が終わってしまうぞ!
「・・・このヤギはこちらでお預かりしますね」
それ羊だよ!
アナリーゼが腕を振る。
「メェ?!」
スルッと水でできた縄がウールンに絡みつき、その体を持ち上げた。
「いや!ウールン!」
ヨルヨンが手を伸ばすが、届かない。
「どうぞ夕食までにお戻りくださいね」
こいつを夕食にされたくなかったら戻ってくるんだな。
って、副音声が聞こえてきたよ・・・。
ウールンが人質にされた以上、行方不明になるわけにはいかない。
中級ダンジョンを見に行ったら、また戻って来なくては・・・。
「ヨルヨン、行こう。・・・この羊はヨルヨン様のお気に入りだ。傷付けるなよ」
「かしこまりました」
俺の威圧なんて怖くないらしい。
ふっと鼻で笑われてしまった。
「・・・夕食の仕込み前には戻るよ」
「メェ・・・」
そんな悲しい顔をするな!
俺たち、必ず戻るからな!