表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第9章 ベニチェア王国
66/101

お菓子と軟禁

揺れの少ない馬車によって運び込まれた先は、豪華な装飾が施された部屋だった。


牢屋じゃないのか。

しかもお菓子が置いてある。

俺の大好きなフィナンシェ!


似たような焼き菓子にマドレーヌがあるが、全然違う。

あれは卵をそのまま使うが、フィナンシェは卵白だけを使う。

アーモンドプードルも使うため、ふんわりとした口当たりのマドレーヌに比べ、風味が強くしっとり軽い口当たりになる。


ちなみにプードルとは犬のことではない。

パウダーの事だ。


アーモンドプードルと卵白を使うお菓子といえばマカロンがある。

でもマカロンは半分以上が砂糖だから、ちょっと俺には甘すぎる。


マカロンのように技術も砂糖も必要なく、手順通りに材料を測って焼けば美味しくできる。

しかも金塊型と言われる長方形の金型で焼くと、隅がバターでパリッと焦げてますます美味しくなるのだ。

型があればそのうち作ろう。




「まずい・・・まずいですよ」

トライドットの顔色は優れない。


・・・美味しいお菓子を前にして、まずいを連呼するな。


「ドット兄様、捕まった時はリラックスして待つしかないよ。お茶やお菓子を出してくれるなんて、捕まり方としては良い環境にあるねー」

テオドールはのんびりと紅茶とお菓子を堪能している。


捕まり慣れてるお前と一緒にしてやるな。

むしろトライドットの反応の方が正しいからな。



「スキルの方、か?」

ノームの末裔として固有スキルがばれたのか?と意味を含ませ、俺は小声で問いかける。

ふぅ・・・と溜息をつき、トライドットは鞄から何か取り出した。

ふわっと魔力の膜が顔に当たる。


「これは?」

「盗聴防止のマジックアイテムです」

マジックアイテムってなんでもありだな。

「そうか。それで?スキルがバレたのか?」

「いえ・・・名前の方です」

「名前?」

「勇者アリスの名が、アリス・ノーブル・ロットなんです」

あの英雄伝の勇者アリスか!

挿絵でしか見たことないが、金髪の女性だったな。


「テオが勇者の子孫ってことか?」

「わかりません。でも・・・あり得ないんです」


トライドットはそれだけ言うとまた難しい顔をして黙ってしまった。


「ドット、この状況だ。わからないまま殺されるのはゴメンだぞ」

「・・・わかりました。誰にも言わないでくださいね。・・・ノームの末裔と言うのは、死んだ人にスキルを使うことで半精霊となるのです。それまでの記憶は忘れ去られ・・・名前も消えます」


トライドットもテオドールも元は死んだ人間だったのか。

まぁ、ヨルヨンの作り方を見ていたからどうということはないが・・・そりゃ話しにくいよな。





「こちらにございます」

先ほどのアナリーゼが、煌びやかな宝飾を身にまとったマダムを連れてきた。

「まぁ、あなたが!お会いできて光栄ですわ」

金髪をふわふわさせてにっこりと微笑むが、あなたは誰で、一体どなたに会えてうれしいのか説明が欲しい。


「発言をお許しいただきたい。私はディートハルト・フェンターク。こちらに居られるテオドール様の荷物持ちにございます。我々は今日初めてこの国を訪れ、説明のないままここへ連れてこられました。よろしければ説明を頂きたい


・・・と、主人が申しております」

ごめん、自分の発言にするほどの度胸がなかった。

え!そんなこと言ってないよ!って顔しないで。



「あら?テオドール様は勇者アリス様の子孫ですよね?私たちも今までどこにいらしていたのか聞きたいと思っていたところです」

「・・・その勇者アリス様ですが、私は聞いたことがありません。私自身、なぜ自分の名前にこのようなことが起きたのかわからないのです」

久しぶりにテオが貴族モードで話をする。



「そうですのね・・・困ったわ。できれば宝玉の姫についてだけでも言い伝えがあれば良いのだけれど・・・」


トライドットの肩がピクリと揺れる。


「・・・それは、どのような、意味でございましょう」


わー・・・声ひっくい・・・。




「勇者アリスは魔王討伐の際にノームの末裔から宝玉を賜ったとされています。ですが、どのようなものを賜ったのか、そしてどこにあるのか、その記述が途絶えてしまい、我が国の魔力は落ちる一方となりました。この落ち目に隣国から攻め込まれ、国民に不安が広がっています。何とかノームの末裔を王族に招き、我が国の不安を取り除いていただきたいと考えています」


俺はトライドットを盗み見た。

トライドットもこの話の不可解な点に気付いているようだ。


トライドットが俺に目配せをし、俺もうなづく。


「テオドール様、顔色が優れません。今日はお休みされた方がよろしいかと」

「え?」

「それはいけませんね。テオドール様は長旅でお体の調子がすぐれないご様子。話は後日に改めさせていただきましょう」

「え?」

え?とか言うな!バレるだろ!


「そうですか・・・引き留めてしまいましたね。どうぞ滞在中は城の一室を使用ください。使用人を付けるので何か思い出したら、いつでも呼んでくださいな」

うっわー・・・逃がさいぞ!ってことか。


ん?城?


「ありがとうございます。女王陛下」

トライドットが礼を述べると、マダムは部屋を出ていった。



このマダム、女王陛下かよ!




それぞれ1室が与えられたが、すぐに4人で集まった。

トライドットが盗聴防止のマジックアイテムを展開する。


「魔王討伐の際に宝玉を貰ったとか言ってたな。でも宝玉の姫って、あれだろ・・・」

「ええ。・・・200年前、ノームの末裔の女性が各国に捕らえられ、宝玉の姫と呼ばれていました。その子供たちは高い魔力と、稀に魔石を持って生まれてきたそうです


・・・しかし、なぜ宝玉を賜ったなんて言い伝えになったのか・・・」

トライドットの握る手に力が篭もる。

女王はノームの末裔の悲劇も、そもそも宝玉が何であるかも、まるで知らないような口振りだったな。


どうなっているんだろ・・・。




「とりあえずノームの末裔ってバレたわけじゃないし、心当たりのない名前が付いてる原因なんてさっぱりなんだから、普通にしてたらいいんじゃないか?」

「・・・心当たりがないわけじゃありません」

すっと立ち上がり、トライドットが部屋の小さな本棚に向かう。

数ある本の中から、1冊の本を持ってきた。


「これを」

「何だこれ?

英雄伝・外伝。魔王ミルドレウスと・・・勇者アリスの悲恋。

作者・・・ダンカン・ビルド」



・・・どこから突っ込めばいいのだろう。

俺は思わず天を仰いだ。



ダンカンってあのドアーフだよな。

ざっくりあらすじをパラパラめくる。

『勇者として生まれたアリス。でもアリスの夢は幼馴染と2人で温かな家庭を築くこと。淡い願いを心に秘め、乙女は成長していく。ある日魔王の復活が告げられた。それは幼馴染のミルドレウス。勇者としての自分と恋心を秘めた自分。涙の奥に・・・』

以下略。

なんだこれ。



「心当たりっていうか・・・。これ本当なのか?」

本当なら幼馴染として親しい関係にあったことになる。

という事は、魔王がテオドールにアリスの血筋として名を付けた可能性も出てくる。

「180年前から語り継がれ、今作までに8回の改修がされています。お父様が知ったのは50年ほど前ですね」

え?ダンカンが勝手に書いたの?

・・・信憑性は薄いわけか。




「ん?180年前?ダンカンっていくつだよ」

「250歳くらいだったっけ?フューリーが70くらいのはずー」

「まじか。ドワーフって長生きなんだな」

「ドワーフ、エルフ、魔族は長寿種と呼ばれています。それぞれ300年ほど生きると言われていますね。私も魔族には会ったことがないのでわかりませんが」



「・・・わかった」

「なにが?」


「フューリーに女落としのスキルが効かなかったのは俺が年下すぎたんだ」

「ぶはっ」

テオドールが腹を抱えて笑っている。

あの日のあの態度はそういう事だろう。

乙女は年上の大人の男が好きだからな。

あー納得した。



スッキリした俺の隣で、トライドットが静かに頭を抱えた・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ