送り出されて
ガタガタと山道に馬車が揺れる。
「そんな気に病むことないですよ~」
あの薄緑色の隊員が声をかけてくる。
慰めですか。僕にはいりません。
「気に病んでなどいません」
「はぁ~・・・アペリティフ領主さまもちゃんと説明したらいいのに。ま、そんな暇はないからこうなっているんですがね~」
だらだらとした話し方にイラッとする。
殴りたい衝動に駆られるが、きっと【俊足】の前では僕は止まって見えるだろう。
「坊ちゃんに怪我をさせたくなかったんですよ。わかってあげましょ~」
「・・・そのくらい、わかっています」
お父様にそのような言葉を選ばせてしまったのは僕が情けないからだ・・・。
「はぁ~・・・ま、今度会った時にちゃんと謝ってもらいましょ。このまま主都へ、主都からは援軍が。そして俺は坊ちゃんを主都に届けたら領地に帰って戦闘に参加っす」
瞬足スキルがあれば山越えはあっという間なのだろう。
戦争中だというのに戦力を割いて護衛が必要となる自分が恨めしい。
いっそ放って置いてくれないだろうか。
ド―――ンと屋敷の方から大きな音が聞こえ、俺は立ち上がった。
「危ないっすよっ――――」
――――その瞬間、地面が裂けたような地響きが鳴り響く。
「!なんだこの揺れ・・・うわ!!」
ドドドドと激しく揺れる大地に、馬車も大きく揺さぶられた。誰も立っていられない中、地の中からひと際大きく押されるような揺れが起きた。
「あ・・・」
馬車から投げ出された身がふわりと宙に浮く。
一瞬の出来事だったのだろうが、僕には時間がゆっくり流れるように見えた。
(あぁ、ここから落ちるのか・・・)
崖の下には雪解けの濁流。
「坊ちゃん!!!」
声が聞こえる瞬間、止まっていた時間が動き出し、僕は濁流に飲み込まれた。