ライト山脈
アモーレの町から馬を走らせること数刻。
遠目にうっすら雪を被った高い山々が見えてきた。
目的地【ライト山脈】だ。
アモーレの町から離れるにつれ徐々に舗装は無くなり、周りが木々に覆われる。
「また狼とか出るんじゃないか?」
「どうだろー?この辺りは熊のが多いらしいよ」
・・・まぁ、危ないことはわかった。
俺はルーイの首に掛けられた獣避けの匂い袋を新品に交換した。
ゴツゴツとした山道が続いている。
山道で馬に乗っていたら揺さぶられて落ちたり、足を取られて馬が怪我をしてしまう。
「ここからは降りて歩いた方がいいな」
俺たちは馬から降りて歩きはじめた。
高い木々が徐々に低い草花に変わっていく。
気温も下がってきたので、鞄から上着を出した。
テオドールは日光がキツイのか、帽子を目深に被っている。
「結構登ったな。そろそろ見えないか?」
「もう少しー。あんまり低いと人に見られちゃうからねー」
隠れ住んでいるのか。
まぁ、魔石が体内にあるから当然か。
休憩を挟みながら歩き、背の低い草花すらまばらになるころ。
そびえ立つ岩壁にたどり着いた。
「ついたー!この中にお城があるの」
疲れきったテオドールがヘロヘロと歩み寄る。
「俺には大きな山にしか見えないけどな」
このあたりにはダンジョンの情報もない。
鉱山でもないでっかい山のはずだ。
「それはね、ここ!」
ここ。と指さされた先を見ると、ダンジョンの裏側にある彫刻に似た石板があった。
いつもの耳の長いモグラのようなノームが描かれている。
「これをね、こうするの」
ふわんっと光が漏れる。
・・・うん。移動するなら先に言ってね!
「たっだいまー!!」
ヒヒィィィン!!!とパニックで嘶くルーイたちを背景に、テオドールは帰宅を告げた。
ソファーや机など落ち着いた雰囲気の調度品に囲まれた広い空間。
そんな雰囲気をぶち壊すように現れた俺とテオドール、馬2匹。
「うっわ!馬?!」
「え?!テオ!馬?!」
男たちがソファーから立ち上がってこちらを見ている。
そりゃ驚くよね。
寛ぎの空間にいきなり現れて、馬を嘶かせるとか。
・・・ここは怒られないよう慎重にいこう。
「兄様たち久しぶりー。友達のディートハルトだよ!」
ヒヒィィィン!!!ダカダカダカダカ!!!
俺の周りをルーイ達が駆け回る。
「・・・初めまして。私はディートハルト・アペリティフ。縁あってテオドール様にお使いしております」
「え・・・あ、はい・・・ご丁寧にどうも」
俺はカオスなエフェクトを無視したまま挨拶を済ませた。
「まぁテオじゃない!やっと帰ってきたのね」
奥から黒いドレスを纏った女性が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あ、グラ姉様久しぶりー」
「もう、全然帰ってこないし心配したのよ」
近寄ってわかる。
すっげー美人。
スラリとした長身に、ふわりとアップにした黒い髪が艶やかに揺れている。
長身にフィットした、黒いドレス。
黒髪に黒いドレスだが光沢の違いで落ち着き過ぎず、茶色のブーツによる外し技で活動的に見える。
自分のことをよくわかっていないとできないコーディネートだ。
「ほら、あなたたち、落ち着きなさい」
後ろ足で立ち上がるルーイの前に立ち塞がる。
「え?!危な・・・」
俺は思わず前に出ようとするがーーー
「えい!」
可愛らしい掛け声と共にルーイの前足を捉え、地面に着地させる。
ふわりと揺らすドレスが優雅だ。
「いきなり転移するなんて驚いたわね。ふふ、いい子」
スリスリと鼻を撫でれば、ルーイたちは大人しくなった。
「グラ姉様、友達のディートハルトだよー」
カオスな状況が落ち着き、改めて紹介される。
「初めまして。ディートハルト・アペリティフと申します」
「私はインテグラ。この子、無茶ばかりするからお疲れでしょう?すぐに休めるよう手配するわ」
優雅で強くて、気配りもできる甘い笑顔の淑女。
こんなパーフェクトなお姉様がいるなんて聞いてない。
「・・・騒がしいな」
温かな雰囲気など消し飛ぶような低い声が響く。
奥から黒髪の男がツカツカと歩み寄ってきた。
テオより背は高いが、俺のお父様みたいに細マッチョ系だ。
でも眼力が怖い。
え?なんで俺を睨んでるの?
こんな怖い人がいるとか聞いてない。
「・・・テオ。なぜ人間がここにいる」
うっわ殺気がひどい。
威圧感がやばい。
絶対戦闘スキル持ちだよ。
「友達になったから紹介しに来たの」
笑顔で説明する。
「「・・・・」」
・・・え、そんだけ?続きは?
ダンジョンのことや魔物作成とか色々!
この殺気はそんだけの理由じゃ収まらないだろ!
「・・・そうか。テオの友人なら饗さねばなるまい」
意外にも収まったようだ。
「私はディートハルト・アペリティフ。縁あってテオドール様にお使いしております」
殺気は消えたが、威圧感の薄まらない父親に挨拶を済ませる。
「・・・うむ。我が名はミルドレウス。テオの友であれば、我が城に滞在することを許そう。」
そう言うと踵を返して部屋から出ていってしまった。
・・・ん?ミルドレウス?
・・・え?
英雄伝の魔王と同じ名前なんだけど・・・。