新大陸と新事実
船旅7日目、俺たちはウォルトア大陸に着いた。
初めて来た世界最大の大陸。
その歴史は古く、勇者を排出した王族がいたり、世界各地から優秀な冒険者を募った学校があったり。
様々な文化が混ざりあい、洗練されてきた。とフランシスの授業で習った。
俺とテオドールは港町【アモーレ】を見るため船の先頭にきていた。
4階建ての船の上から見渡せば、赤や青のパラソルの屋台や、オレンジ色や緑色の鮮やかなタープテントを張った露店がずらりと並んでいる。
収納アイテムのお陰か、大きな荷物を抱える人はいない。
行き交う人達は華やかな服を着て、屋台のジュースを飲んだり、露店を覗いたり。
おしゃれな空間が見たことの無い規模で広がっていた。
「すごい活気だな。あれ全部観光客か?」
「どうだろー?見分けつかないねー」
俺たちは船が停止するまでその人集りを眺めていた。
船が港に停留し、船員から馬2頭を引き取る。
「ルーイ、元気にしてたか?」
ずっと船内に預けていた俺の馬。
心配したが、かなり元気そうで毛並みもいい。
「スキルで空間を作り、牧場にしていたようですね。ストレスなく移動ができるので重宝されています。付与もできたはずなので、金銭に余裕があれば買うのもいいですね」
「それマジックアイテムのベスト3に入る高級品だろ」
さらっととんでもないこと言う先生たちとも、ここでお別れだ。
「1週間、あっという間でしたね」
「護衛任務完了!またいつでも声かけてよね」
ハネムーン直後なのに仕事があるらしい。
スキルのことや魔石のこととか、色々勉強になった。
「また会ったらよろしくな」
俺たちは手を振り、船着場から遠ざかる2人を見送った。
人が多いことに戸惑うルーイを引きながら少し歩くと、船上から見えた色とりどりの露店が見えてきた。
「そういや本を買いたいんだった。どこかあるかな」
露店を覗いていくが、食料品に小物に・・・珍しい物はたくさんあるが、本屋が見当たらない。
「あら旅の方。船旅?船旅は野菜が足りなかったでしょー。うちのスムージーなら船旅で得られなかった野菜が全部入ってるよー」
露店のお姉さんに声をかけられた。
「捨てちゃう野菜の葉っぱもあるし、買ってくれたらおまけに付けるよー。ほら、馬たちも欲しがってる!」
ルーイ達の目がキラキラとこちらを見ている・・・。
スムージーには野菜だけでなく果物も入れるようだ。
俺は葉物野菜をベースにリンゴやレモンなど酸味と甘味を足したスムージーを。
テオドールはバナナやブルーベリー、隠し味にパインを加えた果物スムージーだ。
「紫色!甘い!」と喜んでいる。
ルーイ達には人参とりんごの皮を貰った。
甘い物が好きなのか夢中で食べている。
お姉さんは髪をひとつにまとめて、上下黒の服装をしているのに、全然地味じゃない。
薄手のふんわりとしたブラウスに光沢のあるパンプス、店名の入ったエプロンを腰に巻いて、かなりおしゃれだ。
刺繍を入れておしゃれにしようと考えていたが、こうして見るとゴテゴテ刺繍を付けて着飾るだけがおしゃれじゃないんだと勉強になる。
「ふふ、なに見てるの?」
「お姉さんがおしゃれなのはなんでだろうと思って」
もう!おませさんね!と顔を隠している。
・・・そうか。気取った口調よりこっちの方が効くのか。勉強になるな。
シンプルな美学だけでは俺は満足できない。
スキルアップの書を探さねば。
「お姉さん、俺本屋探してるんだけど知らない?」
「本屋ってほど種類はないけど、雑誌屋なら隣よ」
「あら呼んだかしら?」
・・・呼んでないのに来た。
そこには恰幅のいいおばちゃ・・・年上のお姉さんが立っていた。
「ゴシップからファッションまでなんでもあるわよ」
ぐいぐいくる・・・。
まぁスキルアップの書ってどこでもあるって言ってたし、聞いてみよう。
「ソーイングのスキルアップの書を探しーー」
「あらあら!それならこの時期にピッタリなのがあるわ」
そう言うと隣に帰ってしまう。
え?スキルアップに時期とかあるの?
話を最後まで聞かない年上のお姉さんが持ってきたのは、少し分厚いスキルアップの書だった。
よく見れば書物自体は厚くない。
間に何か挟まっているようだ。
「これよこれ、【冬季前の手芸。寒さに備えた暖か編み物。最新流行の着こなしで冬も華やかに。丁寧な作り方と付録付き】。あとこれ!【春夏だけじゃない!季節の変わり目は甘すぎないクロシェコーデ!すぐに始められるお勧め付録付き】どちらも最新刊よ」
・・・こういうとこだよ。
なんかこう、魔法らしくして欲しいと思う俺は、わがままなんだろうか。
でも妹の読んでたスキルアップの書も「誰でも撃てる大魔法。簡単威力アップで一撃必殺」とか書いてあったからな・・・。
この謳い文句作ってる連中のセンスの問題なんだろう。
「これね、付録に棒編みとかぎ編みのセットが入ってるからすぐに始められるのよ」
やっぱり話を聞いてなかったか。
「いや、俺のスキルは【ソーイング】だ。縫製なんだ。布を切って縫うスキルであって、編み物でも織り物でもなーー」
「あらあら、そんな区別してちゃダメよ。これなんてスキル持ちじゃなくてもスキルアップするんだから!」
それ、もうただの雑誌じゃねぇか!
「俺、ソーイングだから刺繍とかのスキルアップの書を・・・」
「あら?刺繍はエンブロイダリースキルでしょ?」
・・・え?
「確かカテゴリースキルが【ハンドクラフト】で、服飾関係のタクトスキルに【ソーイング】【エンブロイダリー】【ニット】【クロシェ】【テキスタイル】って色々あるんでしょ?」
「そうそう。【レザークラフト】がどこに入るかで揉めてるのよねー」
お姉さんも話に加わる。
「どこでもいいのにねー。聖フォーリット教会が決めてるだけなんだから。気にせずどんどん勉強すればいいわよ」
はい、どうぞ。とスキルアップの書を渡された。
2冊で銀貨4枚。
・・・え?
「ディー大丈夫?」
アモーレにある宿屋。
名前は覚えてない。
というか、歩いてきた記憶が無い。
「俺のスキル・・・タクトだったんだな・・・」
「タクト?」
「昔は杖を振ってスキルを使ってたから、技名スキルはそう呼ばれてる・・・」
ぼんやりと年上の・・・おばちゃんが言っていた内容が頭に浮かぶ。
【ソーイング】縫うのが得意。
【エンブロイダリー】刺繍が得意。
【ニット】棒編みが得意。
【クロシェ】かぎ編みが得意。
【テキスタイル】織り物が得意。
棒編みとかぎ編みは一緒でいいだろと思ったが、「全然違うわよ!作ってみたらわかるわ」と笑われた。
「つーか得意ってなんだ。誰でもできるならスキルじゃないだろ・・・」
スキルは魔法なんだぞ・・・。
『スキルによる恩恵は努力では埋められない。あれは魔法なのだから』
お父様の声が俺の頭に響く・・・。
・・・・・・いや、違う。
こういう時こそポジティブだ。
本来ならソーイングは切って縫う、縫い目を工夫することに長けたスキルだ。
俺はソーイングスキルの1つだと勘違いしながらも、刺繍を習得しているじゃないか。
きっと妹が刺繍のスキルアップの書を読ませてくれたおかげだ。
ありがとうシェリー。
そうだ。ニックだってクッキングスキルはないけど、毎日の積み重ねで実力を付けてきたんだ。
スキルによる恩恵は努力で埋められる。
前から知ってたはずだ。
表示されるスキルだけが全てじゃないって。
そう、俺の表示されない隠しスキルーーー。
「女落としのスキルだって俺のスキルだもんな」
静かな部屋に俺の声が響く。
「ぶはっ。いまそれ?なんでそれ?」
テオドールが噴き出すが、やっといつも通りの顔だ。
もう周りに心配はかけさせない。
「そうだとも。俺の刺繍はスキルがなくても魔物を作れるくらい芸術的なんだ」
俺はソファーから立ち上がる。
「そして!今後も技術を高めていく気概が、俺にはある!」
「おー!」
パチパチとテオドールが手を叩く。
先生に見せられたハンドメイドを超える作品を作ってみたい気持ちは折れていない。
色々な技術を取り入れて、俺はすごい魔物を作るんだ!
魔王は【ニット】【クロシェ】のスキルアップの書を手に入れた。
現在の鑑定に表示されないスキル(自称)
【女落とし】
【綿作成】
【N糸作成】
【エンブロイダリー】




