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ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第6章 出会いと船旅
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知らない技術

俺たちが釣りに戻るといい具合に人がまばらになっていた。


「ん?坊主、その糸は何だ?」

「あぁ、スキルで出したんだ。いけなかったか?」

釣りイベ主催者の船長に声をかけられた。

バルバラでシーフードを売ってた男に負けないくらい日焼けしている。


「いや、そんなルール作った覚えはない。それより何本かくれないか?」

「タダじゃなきゃいいですよ」

P素材の材料費はそんなにしないが、タダで譲るのは性にあわない。


船長の目が光る。

「それじゃ黒ビールに合うブルストの盛り合わせでどうだ!黒胡椒・ハーブ・岩塩の三種類だ!」

「おっさんわかってるな!」

俺はおっさんとがっちり握手をした。


3人がちょっと呆れた視線を向けてくる中、俺はしゅるしゅるとN糸を作成した。




「ディー君はスキル【ソーイング】と【糸作成】でしたね。【スキルアップの書】は全巻読みましたか?」

釣り糸を垂らしながらフランシスが尋ねてくる。


世界には様々な名前のスキルが存在する。

二つと無いスキル持ちもいれば、被った名前のスキル持ちもたくさんいる。

スキルのコツを伝授するスキルアップの書。

サブタイトルに「私はこうしてプロになりました」と書かれていたっけ・・・。



「あー・・・基礎基本集1巻ならチラッと・・・」

まだ貴族だった頃、妹にせがまれてドレスやハンカチに刺繍をするために読んだことがある。

当時は・・・それはもう嫌々やってたからなー。

1巻ですらチラッと見た程度だ。

続きなんて読んだことも、何巻出ているかも知らなかった。


「・・・これを見てください」

フランシスが取り出したのはアクセサリー付きの刺繍を施した帽子。

「なん、だこれ・・・!」

その帽子を見て驚いた。



グラデーションを駆使して平面が立体的に見える刺繍なら俺だってできる。


だが、これはそういうことじゃない。


まるで布の上で編み物をしたかのような糸の流れは、平面を覆うだけに留まらず、布から溢れんばかりに前へ前へと大輪を咲かせていた。


使われていたのは糸だけではない。

透き通ったガラスビーズや薄い金属のビーズ、見たことのない乳白色に光るビーズ。

それぞれに小さな穴が空いていて、細い糸で縫い付けられている。


帽子についているアクセサリーだって普通じゃない。

クラウンに付いている羽根をモチーフにしたアクセサリー。

その布は透き通るような薄い布でできていた。

羽根の半分には金色の平たい金属ビーズが規則正しく敷き詰められるように縫い合わさり、濃い緑の縁取りによって薄い布をより透明に透き通らせていた。


そんな薄い布に刺繍をすれば布が引き攣れたり、そもそも形を保っていられないはず・・・。

こんな刺繍も見たことがない・・・。


どうやって・・・


こんな複雑なハンドメイドをどうやって・・・




俺が触れようとすると、フランシスは帽子をポンと自分の頭に乗せた。

くすんだ緑色の髪を引き立たせるような鮮やかな青と濃い緑のアクセサリーの付いた帽子。

少し地味なフランシスを、その華やかな帽子はがらりと印象を変えてみせた。


「これは冒険者育成学校の生徒が作ったものです。スキルが2つとも戦闘スキルとは限りませんからね」

くいっとブリムを持ち上げる仕草が似合っていた。


「・・・これを作った生徒もスキルアップの書を?」

俺の目は帽子から離れない。



・・・負けてられない。



「スキルアップの書はどこでも売っていますよ。特に服飾系は数が多いので探す手間はレアスキルに比べれば楽なものです」


俺は港町に着いたら本屋に行くことを誓った。




「「「「かんぱーい」」」」

釣りは大きな魚が何匹が釣れた。

そういえば海での釣りは初めてだった。

船長には「まだまだ小さいな」と笑われたが、この魚はどれだけ大きくなるんだろう。


その魚を食堂に持っていくと、頭を落とされ、骨を抜かれ、パン粉を付けてカラッと揚がり、タルタルソースを纏って返ってきた。


「やっぱり揚げ物はビールに合うな!」

新鮮な白身魚は臭みがなく、軽くハーブや香草で香り付けをしていた。

絞りたての香りの良い油で衣がパリパリになり、旨みが閉じ込められていた。


なんで油物ってビールに合うんだろうな!



「そしてブルスト!これ、かなりうまい!」

薄皮を焦がし過ぎず、パリッと弾けるギリギリまで丁寧に焼かれていた。

お気に入りは粗びきの肉に黒胡椒を練りこんだブルストだ。

皮がパリッとしていて、口いっぱいに広がる肉汁が黒ビールに合う。


だが、香ばしく、ほんのり甘い黒ビールには岩塩のブルストも合う。

岩塩で作る肉料理ってなんでこんなに甘くなるんだろう。


そしてハーブのブルスト。

黒胡椒のブルストに比べて肉を細かくしているためか、舌触りの良い食感にハーブの爽やかさが合う。


全部うまい!酒がうまい!



「ディーはのんべーだねー」

「あまり飲み過ぎては体の成長が阻害されますよ」

フランシスは先生らしく難しいことを言うが、俺の国では15歳から成人で酒も飲んでいいんだ。




「ちゃんと飲み過ぎないように気をつけるよ」


俺の足は2杯目の黒ビールを買うべくカウンターへ向かっていった。



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