旅は道連れ
「こうして私たちは付き合うことになり、結婚してハネムーンに来ていたんです」
・・・なげぇよ!惚気が長い!なんで他人の、さっき出会ったばっかりの人間の恋愛話を聞かないといけないんだ!
テオドールが「素敵ですね!」とか相槌うつから止められるものも止まらないだろ。
「でね、せっかくだからダンジョンに潜らせてって頼んだんだけど、ここは保護区だ!って入れさせてもらえなかったの。しょうがないから露店でこんなの買っちゃった」
その手には俺が縫った狼のぬいぐるみがある。
だが中身が無くペシャンコだ。
「そのダンジョンの魔物、可愛いらしいの。こんなかわいいグッズが出るくらいだもん。あーあ、一度会いたかったな」
あの魔物たちの良さを理解してくれるのは素直にうれしい。
「・・・それ魔物からのドロップ品らしいぞ」
「うっそー!こんなかわいいぬいぐるみ出るの?!私バルバラに住めばよかったー。こんなかわいいぬいぐるみに囲まれて暮らしたい!」
攻撃スキル持ちのあなたなら、囲まれても惨殺できるだろうね。
「よければ見せてくれないか。持ってる綿を詰めるよ」
もちろん普通の綿だ。
「ほんと!うれしい!」
フランシスも良かったねと頭を撫でている。
・・・ここでイチャつくな!
俺はいつもよりギュウギュウと綿を詰めた。
こうして俺たちの船旅は始まった。
今日は自己紹介と惚気話を聞くだけで夕方になってしまった。
4人で食堂に行くと船乗りや商人など様々な人間がごった返していた。
俺たちは食事を受け取ると、できるだけ商人の多い区画に移動した。
だって優男にスタイルのいい女性だぞ?
貴族2人ってだけで絡まれるなら、この2人の方がよっぽど絡まれる見た目だろう。
受け取った食事はパンにハンバーグと瑞々しい野菜が挟まっていた。
「これうまいな。ソースがいい。トマト煮込んだだけのソースとは大違いだ」
「船旅名物のハンバーガーだよ。ソースのレシピは秘伝だけど、ウォルトアの港町ではどこでも食べられるから銅貨で買えるんだよ」
口にソースを付けながらエレナが答えてくれる。
船旅は野菜が不足するから、冷凍付与や時間停止付与の鞄なんかに野菜を詰め込んで出港するのが慣わしなんだそうだ。
付け合わせのポテトは厨房で揚げたものだ。
船で食事を作っているのは【クッキング】スキル持ちだろう。
これがないと船が焼けてしまう危険があるから料理なんて任せてもらえない。
言いがかりに近いが、スキル持ちが自分の職を守るために言っているんだろう。
服飾系、食事系、あと錬成とか生成スキル。
そうした戦闘向きでないスキルを総称して【商業スキル】という。
スキルには糸作成と綿作成、ファイヤーアローとファイヤーウォールなど、細かい違いはあるが、【生成系】【炎属性魔法】など大雑把に呼ばることが多い。
ちなみに技名スキルの方が威力が高く、大雑把な名前のスキルは汎用性が高い特徴がある。
「俺も商業スキルってことでギルドに登録したい」
モグモグと食べながらグチる。
いずれ魔石での貿易か、自分のブランドで商店を構えるか。
どちらにしろ取っておきたい資格だ。
なんせミッドガル国の庇護の下、世界各地をどこにでも行けるし、どこでも商売ができる。
「ギルド登録は狭き門ですね。毎年世界中の人間が集まり、通るのはほんのひと握りです。ソーイングスキルだけでなく、2つ目のスキルが【属性付与】や【魔力付与】があればまた違ったでしょうね」
ただのスカーフに魔力を付与すれば自分のスキルの上限が上がったり、属性を付与すれば炎の鎧なんてマジックアイテムが作れるのだそうだ。
そんな高級品にはお目にかかる機会はないだろう。
でもいつか作れるようになって、魔王の貿易商になってみるのもいいな。
ポジティブシンキングになってから夢が広がりっぱなしだ。
夜、部屋は一つ。
ハネムーン中の新婚と同室とかなんの罰ゲームだと思ったが、エレナとテオドールはフランシスの授業を真面目に聞いている。
「大陸の覚え方は、花です。4つの花弁を持つ花が逆さまになっているような姿。これが世界地図です」
持っていた紙にスラスラと描く。
上にある花の茎にあたる大陸。
200年前、魔王ミルドレウスが倒された最終ダンジョンのある【ロンダルキア】
左上、閉鎖的な国が多い風の大地【ウィンディア】
左下、ミッドガルが主要国。火の大地【メラニア】
右上、ベニチェア王国が一番でかい国。水の大地【ウォルトア】
右下、イルミティア連合国、ベラルーラ国のある、地の大地【アーステア】
そして奴隷商のあった、中央の小さい大陸【ホール】
「王国があるのはウォルトアのベニチェア王国だけですね。数年前までウィンディアにもあったそうですが、滅んでいます」
フランシス先生の授業はわかりやすかった。
そもそも学校なんて通ったことがなかったのだ。
一人で部屋に閉じこもって本を開いていた頃とはまるで違う。
こんな風に人に教えてもらったり、他の人と一緒に習うことが楽しいとは思わなかった。