剣となり盾となる
「―――なぜこんな急に!!」
玄関で発せられたその声は、屋敷中に響いた。
「わかりません!ですが、何より・・・」
「あぁ・・・わかっている。戦える者を集めよ。マーサ、子供たちを・・・」
お父様の堅い声が発せられると、お屋敷の使用人たちが走り出し何か準備している。
「アペリティフ領を含む国境領地がベラルーラからの侵攻を受けた」
僕らはお父様の執務室に呼ばれた。お母様は口を手で覆い青ざめていたが、シェリーは何のことかわからないようだ。
【ベラルーラ国】は【イルミティア連合国】の隣の国だ。
「イルミティアに生きるものとして、そしてアペリティフの領主として、この地を守る剣となり盾となる。戦闘に参加することは誉れであり、貴族としての義務である」
貴族である以上は戦闘に参加しなければならない、ということか。
それはきっと僕も同じことが求められるだろう。
この2年間の集大成だ。戦闘スキルがなくても―――――。
「・・・ディートハルト、お前は先発の荷物輸送の護衛を頼む」
お父様の言葉に、お母様が一瞬息を飲んだ。
(先発隊?もしかして最前線に行くのか?僕は・・・盾として役に立てるのかな・・・)
戦闘スキルでは無いとはいえ、国のために盾となることを求められたのだろう。
僕は震える手を握り締めた。
「先発隊は最前線で戦闘を行うのでしょうか?」
「・・・先発の荷物輸送だ。行先は、主都避難区域」
主都?避難区域?
「お父様、主都は前線とは逆で――――」
「今から行けば山越えも難しくはないだろう」
お父様は背を向け――――僕を見ていない。
「お父さ・・・」
「すでに荷物は積みこまれている。急いで向かいなさい」
「おと・・・」
「あぁ自分の荷物を忘れていたな。必要なものだけ持っていきなさい。もうここへは――――」
「お父様、僕に逃げろとおっしゃるのですね・・・」
まっすぐにお父様を見るが、僕には背中しか見えない。
「・・・そうだ。戦闘スキルのないお前はいても邪魔になる」
「・・・わかりました。ではシェリーも――――」
「シェリーは我々と行動を共にする」
信じられない言葉だった。
「なぜです?シェリーはまだ9歳です。戦闘なんてできるわけが・・・」
「【索敵】スキルがある。戦闘を優位に進めるために、我々には必要なんだ」
それ以上は言葉が出なかった。「必要」と言われる妹、「邪魔」な僕。
「・・・わかりました。すぐに向かいます」
一礼する廊下に飛び出した。
廊下を走っても今日は誰にも怒られない。
そのまま庭に見えた馬車への乗り込んだ。
――――俺はもっと考えるべきだった。両親への言葉を、妹にかける言葉を。
なぜ当然のようにまた会えると思ってしまったのだろう・・・。