作戦準備
「よし、材料は揃った。あとは鉱石で刺繍と綿を詰めるだけだな」
いい仕事をした。
鼻歌交じりに片付けをしながらテオドールを待つ。
最下層の小部屋にテオドールが首をかしげながら戻ってきた。
「うーん、全部で28人、小屋は地上への階段付近に固まってる・・・作戦どうしよっかー」
情報は集めれたが、作戦は立てれていないようだ。
そう、あとはこの魔物をどうやって有効活用するかにかかっている。
何とかビビらせて追い出したいが、居住区に突然魔物が現れたら死人が出るかもしれない。
「全員一度に出てってもらいたいが・・・」
「うーん・・・魔物が出たぞーって下から追い立ててみる?」
「戦闘スキル持ちがいたら無鉄砲に突っ込んで来るんじゃ・・・あ、そうだ!」
そう、ただ魔物が出ただけなら何の準備もなく奥まで確認しに来る奴がいるかもしれない。
準備しなくてはいけないと思うような状況に追い込まねば。
「よし、テオ!作戦は―――――」
携帯食糧で簡単に食事を終えると、俺は鉱石を受け取り2層の隠し通路に上がった。
チクチクとぬいぐるみに刺繍を施し、綿を詰めて、新たに作った2層の小部屋に次々に放り込んでいく。
ちゃんと完成するまで魔物にならないのはとてもお利口でありがたい。
こんな狭い通路で、しかも手の中で魔物になったら逃げきる自信がない。
最初に作ったのは狼だ。
首周りからふっくらした腹部にかけて、あの日受けた俺の恐怖を物語るようなおどろおどろしい刺繍を施した。
そして綿を詰める。
鉱石の糸同様に柔らかな肌触りだが、元が鉱石であるためか弾力がある。
しっかり詰め込んでも、膨らむことを計算して縫い合わせた布に引き攣れる様子はない。
ぬいぐるみは小部屋に投げ込んですぐに「きゃう?」と起き上がると大型犬まで膨らみ、太めに作った手足でトコトコと歩き出した。
小部屋を覗くと、4匹で追いかけっこをしたり、じゃれ始めている。
―――可愛い過ぎか!
次に鳥のぬいぐるみの羽部分に波打つ風のような刺繍を施した。
俺が初めて馬に乗った時、風になった思い出を刺繍に起こしたものだ。
綿を詰めて小部屋に投げ入れると、地面に着地することなく空中をしばらく漂った。
バサッと羽を広げるように質量を増すと鷹くらいの大きさになり空を羽ばたいた。
だがその羽はふんわり丸いカーブを描いており、鋭さは感じられない。
――――丸い!可愛い!
最後に大量生産したスカーフに簡単な刺繍を入れていく。
奴隷商での辛くも楽しかった日々。
今エールたちはみんなで助け合って水浴びをしたり露店をしたりしてるんだろうな。
大輪の花をワンポイントに入れると、小部屋へと投げ入れた。
すぐにスカーフがひゅん!と地面から跳ねるように離れると、スカーフをクビに巻いたゴブリンが出現した。
英雄伝に出てくる醜悪な姿はしていない。
思ったよりすがすがしい容姿の、清潔さすら漂うゴブリンが次々に具現化していった。
ゴブリンはキイキイと鳴きながらスカーフの位置をずらしたり、お互いの身なりを確認しあっている。
――――愛らしさすらある!
俺は出来栄えに満足し、隠し通路から最下層に戻った。
最下層の小部屋でオルソンが持たせてくれた残りの携帯食糧を広げる。
持ってた携帯食料と合わせてあと4日分。
明日の作戦がうまくいっても行かなくても、明後日には買い出しに行った方がいいだろう。
明日に向けて俺たちは早めに食事を取って寝ることにした。
獣避けの匂い袋があるとはいえ、外で食べる食事は緊張したし、夜は熟睡できなかった。
最下層の小部屋は初級ダンジョンと同じを作りをしていて落ち着く。
今度は長く住めるといいな。
それに、やっぱり食事は落ち着いた環境でゆっくり味わって食べるのがいい。
テオドールはビーンズサラダが美味いと言っていたが、マジでうまい。
サクサクとホロホロした食感が癖になる。
今度捕まったらどこで売ってるか聞かないとな。