上級ダンジョン
「ここが上級ダンジョンか。見るからに立派だな」
その名は【バルバラ神殿】
初級ダンジョンがただの洞窟に見えるくらい、門構えが立派だ。
大理石の柱、重厚な扉、壁の装飾の数々。
さすが幾千の冒険者達を飲み込んできた歴史あるダンジョン。
と思ったが、よく見れば入口近くに物干し竿がある。
男物の下着だ。なんでこんな所に・・・。
「うーん・・・これまずいね。思ったより魔素が溢れてるよ」
周りを見れば、草木が普段見る物より大きい。
それに食虫植物がどう見ても食“獣”植物サイズになっている。
「こんなところに人が住んでたらおかしくなっちゃうよ」
「しかし、どうやって追い出す?魔素があるので危険ですなんて真正面から言っても逆に俺たちが危険になるだろ」
あのサイコ騎士みたいに魔石目当てに襲ってくる連中が増えるなんて恐ろしい。
「とりあえず入ってみよっかー」
俺とテオドールはダンジョンの裏手にある彫刻に手をかざした。
最深部の小部屋から広間をのぞいてみると、黒い鎧の騎士が重い音をたてて歩いていた。
鎧は首から上がなく、怪しく光る剣を片手にうろついている。
「剣の魔物ってあれか」
「うん。名付けて【デュラハン】。僕らだと一瞬で真っ二つだねー」
なんでそんな危ない魔物作ったんだよ。
まぁ上級ダンジョンだしいいのか?
「さすがにこの階には浮浪者はいないようだな。隠れて上に向かおう」
テオドールの能力で小部屋から隠し階段を作り、こっそりと上に向かうことにした。
上級ダンジョンの深さは12層。
最深部から一つ上がるとさっきのデュラハンよりやや小さいのが5体、それぞれ剣を持って歩いていた。
所々欠けていた鎧とヒビの入った剣が見える。
「ここまで冒険者が来たってことかなー。魔物全滅まであと少しだったね」
さらに上を見て回るが魔物も人も見あたらず、閑散とした広間が淋しげな雰囲気を出している。
2層まで昇ると人影が見えた。
光る石が今までの部屋より多くあり、松明のように飾られているため明るくなっている。
布で仕切りをして小屋がいくつもあり、まるで小さな町のようだ。
「これは思ったより大規模だな」
さっきの下着はここの連中の仕業だろう。
壁際に水くみ場があり、付近に男が10人ほど立っている。
部屋の数からみて、ここで生活しているのは多くて30人ほどだろうか。
これだけ多いと簡単には追い出せないだろう。
しかも手間取っていたら魔素のせいで手遅れになるかもしれない。
テオドールに2層の詳しい状況の把握と作戦を考えてもらい、俺は魔物作りで戦力の確保と魔素の濃度を下げることにした。
何を作ろうか。
やっぱり上級ダンジョンにふさわしい強い魔物を作らないとな。
強いと言えばテオに向かっていったあの狼、怖かったな。
俺は作るイメージを型紙に書き込んでいく。
「うわー何それ魔法陣?線が何重にもなってるね」
「これは型紙だ。立体的なぬいぐるみにするからパーツごとに別れているんだ。そこに切る線だけじゃなく布の端を折る位置も書き込む。カーブの部分が突っ張ったりしないように縫う箇所にも印を付けて、あと膨らませたい箇所もゆとりを持たせたりする。だからこんな風に何重にも書き込むんだ」
へー。と出来上がった型紙を覗き込んでいる。
「・・・2層の情報収集はどうした?」
「あ、そうだった。行ってくるー」
見られていると集中できないからな。
ダンカンが1人で魔物を作っていた理由がちょっとわかった。
慣れた服だったら型紙に起こさなくても作れる。
でも今回は魔物になるぬいぐるみなんだ。
どうせなら品質を一定に保ちたいじゃないか。
サラサラと書き込み、できた型紙は2種類。
まずひとつは【狼のぬいぐるみ】。
ダンジョン内をうろつくだけで誰もが逃げ出す魔物を作るぞ。
型紙を使って布からパーツを切り取っていく。
糸のほつれのない鮮やかな紺色の布だ。
(今度はちゃんとお金を持って買いに行かないとな・・・)
ピンとした耳を丁寧に織り込みながら縫い、あとは隅々まで綿を押し込めば完成だ。
今回は特別な綿を使う。
そう、俺は気づいたんだ。
【糸作成】のとき、綿のようになった状態で止めれば、綿になるのだ!
名付けて【綿作成】
これをぬいぐるみに詰めることができれば、きっと前作ったリスよりたくさん鉱石を使う分強いに違いない。
可愛らしい【狼の元】が完成した。
まだペシャンコだがピンと澄ました耳だけ立体的に立ち上がっている。
綿を詰める際のこだわりは、ふくよかな身体、太い手足だ。
組み立てた時が楽しみだ。
これで正面からやりあう戦力はできた。
次に空から攻撃する厄介者を作ろう。
ぬいぐるみで作るから飛べるかはわからないが、【鳥のぬいぐるみ】を作ってみる。
貴族時代に庭に遊びに来ていた小鳥をイメージしてみた。
狼とは違い軽やかな空色の布を使う。
ちょっと薄手だから綿を詰める際に布が引き攣れてしまうだろう。
内側を補強できるゆとりを持たせながら、チョキチョキと羽部分を型紙に合わせて丸くカットしていく。
【鳥の元】が完成した。
こちらもペシャンコの状態で、チョンと嘴だけが丸く突き出ている。
綿を詰める際のこだわりは、ふんわり丸みを帯びた左右対称の羽。
左右の羽がバランスよく広がるように綿を詰めよう。
きっと可愛い姿に混乱するに違いない
あとは魔物が大量に出現したと混乱させるように量産できるものを作ろう。
奴隷商にいた頃身に付けていた【おそろいのスカーフ】を作った。
これがあるおかげで3年間絡まれることなく無事に露店を行えた。
俺たち奴隷のお守りだ。
きっとこのダンジョンも守ってくれるだろう。
スカーフの布は奴隷商で巻いていたものより薄い緑色を選んだ。
布の端を2回折り込んで端を隠し、縫い目が等間隔になるよう縫っていく。
右手を支点に左手で布を上下させて針を刺していき、溜め込んだ布を拡げる際に一気に糸を通していく。
狼と鳥のぬいぐるみの元を4つずつ、スカーフを30枚作った。