ドワーフに会いに行こう
サイコ騎士ことミリアから逃れ、馬を走らせること2日。
馬とも仲良くなり、鞍を外して毛づくろいをさせてくれる。
「ルーイ、流れるような毛先、べっ甲のような高貴な飴色。君の毛並みは最高だよ」
ルーイは俺が乗っていた馬だ。
「ぶはっ、女落としのテクをここで使わないでよー」
テオドールも乗ってきた馬を撫でている。
無駄に貴族のような立ち振る舞いをするせいで絵画のような光景になっている。
「たまには使わないと言葉が詰まったり肝心なところで噛むんだよ。毎日鍛錬あるのみ」
貴族として生活するなかで、女性の後ろ盾を得るために必要な技術だった。
今では女性相手におだてて商売をすることにしか使えないが、俺の表示されない特殊スキルってやつだ。
たまには磨いておこう。
「そろそろ見えてきてほしいな。マントあっても暑い」
馬の荷物の中には携帯食料の他に獣避けの匂い袋、頭まですっぽりと覆えるマントも入っていた。
至れり尽くせりだ。
携帯食料のバリエーションも豊富だったし、伊達に何度も逃がしてないな。
「あー見えた。あの小屋だよ」
視線の先には水車のついた小屋があった。
白い壁には植物がよじ登っている。
ちょうどドアが開き、誰かが出てきた。
少し小柄な体に、俺より太めの手足。
ぽっちゃり系ってやつだ。
「おーいフューリー!」
テオが手を振りながら叫ぶ。
フューリーと呼ばれた女の子は籠を持ったままこちらを見る
「あれ?!テオじゃない。あんた捕まったっきり連絡も寄越さないで・・・」
どうやらここでもキャッチ&リリースされていたようだ。
「大丈夫だったよーダンカンいる?」
「いるけど・・・はぁ・・・心配して損した。それと、そちらの方は?」
俺はひらりと馬から降りる。
すっと帽子を外し、右手で前髪をすくい上げる。
「初めまして麗しいお嬢さん。私はディートハルト・アペリティフと申します」
貴族スマイルで微笑みかける。
隣でテオドールが噴出しているが気にしない。
「あらあらご丁寧にどうも。お父さんなら呼べば来るから、家で待ってて」
そういうと何事もないように駆け出して行ってしまった。
・・・全く反応がなかったのはちょっとショックだ。
「先に小屋に入って休ませてもらおう」
まるで自分の家のように小屋のドアを開けるとスタスタと奥へ歩いていく。
家の中は薬草が吊るされていたり、食材が吊るされていたり。
生活感のあるこじんまりとした丸机があたたかな雰囲気に調和されていた。
「テオ。その様子じゃまだ遠慮ってもんを学んでないようだな」
「ダンカン、久しぶりー」
やれやれ、と小柄だが恰幅のよい男が部屋に入ってきた。
「ディー、この人はダンカン、このあたりで鍛冶屋をしてるドアーフだよ。30才のころここでお世話になってたの」
「こらテオ。人に紹介するときは訪ねてきた人からするもんだ。全く、裸で現れた時から何にも変わってねぇ・・・」
はだか・・・どんな出会い方したんだよ・・・。
「自己紹介が遅れた。俺はディートハルト・アペリティフ。テオドールに買われて荷物持ちをしている」
「魔物作りの手伝いをしてもらってるの」
俺はテオドールの口をふさぐ。
うん、遅かったね、喋った後だね。
「あぁ、わしと同じか。そんな顔しなさんな。こいつがダンジョンで何してるかくらい知ってるさ」
はぁ・・・とため息をつかれてしまった。
「そうなのか。俺は【糸作成】で鉱石をぬいぐるみに縫い込んで魔物にしている」
「ぬいぐるみとは・・・またファンシーなこだわりだな・・・」
ダンカンは目をぱちぱちさせている。
「いや、テオがぬいぐるみがいいって言ったんだ」
「えーフューリーがぬいぐるみがいいって言ったんだよ」
「あんたが欲しい物って何がある?って聞いたから答えたのよ・・・まさか魔物作りに使うなんて思わないわよ」
フューリーはあきれた様子で首を振っている。
「わしはスキル【剣作成】でこいつの不出来な鉱石を剣にして、それが魔物になっていたんだ」
不出来ってなんだよーとテオドールが口を尖らせている。
「剣か。となるとかなり強い魔物ができたんだろうな」
鎧の魔物が剣を振り回す様子が思い浮かぶ。
「まぁここは上級ダンジョンだからな。多少強くてもそういうものだとみんな納得したんじゃないか。わしらは食材を買いに行くくらいしか街に行かないからよくはしらんがな」
はっはっはと景気よく笑っているが、その魔物に倒された冒険者もいるのかな。
嫌だぞ、行ったら死体だらけとか・・・。
「そういえば初級と上級って何が違うんだ?」
「魔素の量が違うんだよー。土地の違いもあるけど、ダンジョンが大きいとそこに入り込む魔素が桁違いになるんだ」
同じ大陸なのに土地や大きさでランクが変わるのか。ちょっと不思議だ。
「なるほど。初級は4層までしかなかったからな。上級はもっと深くてでかいってことか」
今度こそ俺たちの城になるだろうか。
「よければ魔物を作っていってくれ。テオが残していった鉱石も使い切っちまって、わしの魔物が数を減らしていてな。魔物のいないダンジョンに浮浪者や犯罪者が住み着くようになってしまってな」
「あーそれ危ないね。人の凶暴化とか起きそう」
うわーと2人で引いている。
「それ、俺も行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。短時間で薄い濃度ならデトックスされるはずー」
・・・こいつの大丈夫は信用ならないんだけどな。
よろしく頼んだと言われ、ダンカンの小屋をあとにする。
「そういえば、魔物になる鉱石置いてあったのか。危ないだろ」
ルーイに跨りながら先程の会話を思い出す。
「だって僕が作っても魔物にならないから渡しておいたの。ダンカンって酷いんだよ。作ってるところ見せてくれないし」
ちぇーと口を尖らせている。
ダンカンが1人で作ってたから、今まで自分で作った気分にならなかったのか。
「簡単に成長しなくて大変だな。お互いに」
魔王は上級ダンジョン目指して駆けて行った。