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ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第4章 クロスレンチ
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爆音の夢

ミリア視点

私はミリア

9歳の時に隊長さんと馬車に揺られて向かった先は、楽しい場所じゃなかった。



とても大きな音がするけど、土埃でよく見えない。

怖がる私に隊長さんが優しく声をかけてくれました。

「まだ9歳だってのにな・・・ミリア様、怖くならない『おまじない』をしますね」

隊長さんはそう言って私の頭を撫でました。


不思議と視界が開けたような感覚がありました。

大きな音に向かってスキルを使えば音は止みました。


隊長さんは物知りです。

人の中に魔石があると教えてくれました。

場所は胸の辺り。

魔石の反応を探して、それを引きずり出す。



いくつも、いくつも、いくつも・・・。



「―――ミリア様!」

大きな音がして振り向くと、後ろにいたはずのみんながいなくなっていました。

隊長さんたちはどこに行ったのでしょう?

誰も居なくなったけど、私は一人で進み続けます。



何日経ったかしら?

持ってきたご飯がなくなってしまいました。

のども乾いたし、どこまで進めばいいのでしょう?




「・・・ミリア・シュティールだな」

後ろで声がします。振り返るとたくさん人がいました。

みんな怖い顔をしていますが、この人たちからは魔石の反応がありません。誰でしょう?


「ミリア様、終わったのです。どうか・・・」

後ろの人たちが泣いています。



私はその顔が誰なのか思い出せませんでした。



「ミリア、お前はこの国の誇りだ」

お父様はそう言ったきりお会いすることがなくなりました。

お母様を最後に見たのは勲章をもらったときでした。


私の周りには誰もいません。

あの大きな音はみんなをどこに連れて行ったのでしょう?





――また音がする。

どんどん近づいてきます。

でも私を避けるように音が遠のいてしまいます。

―――まって、どこ行くの?私もそっちに行きたい。


ベッドから起きて音のする方へ歩きまわっていると、あの日泣いていた男の人が立っていました。

「・・・お嬢様、今日も音がするのですね」

この1年、何度も歩き回っているので理由を説明しなくても知っているようです。


「ねぇあなたは聞こえないの?みんながそこにいるかもしれないの」

その人は黙ったままですが、いつも一緒に探してくれます。

朝になるまで。

私がベッドに戻るまで。




――その男から魔石の反応がありました。

でも取り出そうとしても掴むことができません。

隊長さんに聞きたいけど、どこに行けば会えるでしょう?

久しく会っていないわ。どこにいるのかしら。

しばらくその魔石入りの男を引いて歩きます。



「おいどうした。道を開けろ」

声がした方が人だかりを掻き分けて歩いてきます。


――みんなに・・・隊長さんに少し似た雰囲気のある男の人です。

もう一人はその人に隠れていて見えません。


「あら、あなたたち、運ぶの、てつだって?」

隊長さんのもとに連れてって、魔石を取り出すの。

きっとほめてくれるわ。


夜、私の仕掛けたセンサーを誰かが踏みました。

誰かが地下牢獄を歩いています。

私も近くに行きます。


その人は魔石の男と何か話しています。

昔助けてもらったそうです。ノームの末裔なのだそうです。

・・・ここから逃がしてしまうようです。


「逃がしちゃったね。魔石、いらなかった?」

まっすぐに私を見返す瞳。

みんなそらしてしまうから、久しぶりに人とお話です。

「・・・あぁいらないな。だが感謝している、あの人には礼も、恩も返しそびれていたからな」

恩?お礼?よくわかりません。


ふぅと息を吐いて微笑む顔は、


―――隊長さん?


この顔を見ているとなんだか思い出せそうになります。

あの日、隊長さんに頭を撫でてもらってから忘れてしまった何か―――

どうしたらもっと笑ってくれるでしょう?


「また捕まえる、何度も何度も」

そうしたらもっとお礼を言えるね。



お屋敷に帰って、ベッドに入った。

大きな音に追い立てられながら魔石入りの人を探して歩き回る夢。

あの場所で倒れてた人たちの傷は塞がらないし、血はなくなるまで止まらなかった。


そう、今までは。


今日の夢は変わっていました。

私の前に立っている男がいます。

傷だらけの顔、なくなった指。

でも傷は塞がってるし、血も出ていません。

痛そうに顔をゆがめることもなく、私を見ています。


―――ねぇ隊長さん、あの人、傷口が塞がってる。私の前に立ってるの。



気付いたら朝になっていました。

ふと夢のことを思い出して、勢いよくドアまで走ります。


ドアを開けると泣きそうな男・・・そうだ、じいやだ。じいやが立っていました。

「おはようございますお嬢―――」

「じいや、音がしなかったの!帰ってきた?帰ってきたの!」

みんなの顔が思い出せる。

頭を撫でてくれた隊長さんや私に笑いかけてくれたみんなが―――。


「―――よろしゅうございました・・・ほんとうに・・・ほんとうに・・・」

じいやは泣き虫です。

いつも私と歩きながらも泣いてしまうほどです。


でも今日は違うようです。すぐに目元を拭うと真面目な顔になりました。

「―――では、すぐに手配いたします」

いつもの泣き虫よりそっちの方が凛々しいと思います。

でも何を手配するのでしょう?食堂はそっちではありませんよ?




「今日から配属になったオルソン・ラウンドだ。ミッドガルの誇りのため、人の絆がもたらした黄金の道に銀の車輪を」

ミッドガルの決まり文句です。

あの男の人はオルソンと言うそうです。


――ねぇ隊長さん、この人は消えたりしないよね?



あの魔石の人は今―――にいるそうです。



さぁ、捕まえに行きましょう。

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