貿易都市アサラム
「ディー待ってよー」
日が昇るまえの紫色の空を見ながら、俺とテオドールはアサラムの町を目指した。
「夜移動できなかったからな。それに朝早くならまた狼に遭遇する確率も低いだろ」
装備がそんなに変わっていないのだ。できれば会いたくない。
「はー・・・馬車、通らないかな・・・」
テオドールが遠くを見ながらぼやいている。
「あれが【アサラム】か。馬車がひっきりなしに出入りしているな」
3年間スタータの町にいたが、隣町に来たのは初めてだ。
隣町【アサラム】は街道が石畳で広く舗装されており、馬車がすれ違いながらその道を急いでいた。
少し小高い丘の上から見渡すが、全貌が見えない。
まるで貿易都市のようだ。
「・・・ディー・・・まっ・・・て・・・」
後ろを振り返ると青い顔のテオドールが倒れこんだ。
「は?おい、おいって!どうした!」
返事がない。仰向けにするが肩で息をしている。
「くっそ・・・どうした、おいテオ!テオ!」
顔色の悪いテオドールに肩を貸し、引きずるように門へと急ぐ。
門の前には入場を待つ人の列が続いていた。どうやら一人ずつ検査されているようだ。
俺たちが近づくと、入場を並んでいる男が振り返った。
「どうした?具合が悪いのか?おーい、具合悪いってよー!」
強面のアニキが叫ぶと振り返った人々の列が割れ、門への道ができた。
「ほら、先に行け」
「すまない、この礼は必ず」
「はは、気にすんな。いったいった」
みんな優しすぎるだろ。
俺は礼を言いながら列の真ん中を歩いていった。
「急に倒れた?今日は暑いからな、ちゃんと水分取らないとダメだぞ。この通りを右に曲がるとヨンヨン亭って宿屋がある。さっさと行きな」
門番は検査もそこそこに通してくれる。
ここの警備は大丈夫なのか心配だが、今はありがたい。
ヨンヨン亭はスタータの町のサンサン亭と同じく、こじんまりした宿屋のようだ。
「すみません、ここで休みたいのですが」
ドアを開けると、ふっくらした女の人が受付カウンターからこちらを見る。
「あらあら、どうしたの。ちょっと待っててね。あなたーちょっときてー」
女の人が叫ぶと、奥から2m近い大柄な男が出てきた。
「おぉ、どうした旅の方」
「暑かったせいか倒れてしまって・・・」
女の人もこちらに歩いてきた。
「すぐに水を準備するわね。あなた、部屋にお運びしてくれる?」
「もちろんだ」
ひょいっとテオドールを担ぐとそのまま階段を昇って行った。
宿屋の一室。2つのベッドのうち片方にテオドールが寝ている。
「倒れるとは、驚いたぞ。ちゃんと疲れたのなら言ってくれ」
「あーごめんね。僕日光が苦手でさー。半日近く浴びてたから頭ぐるぐるするよー」
ベッドに横になったままテオドールが笑って見せる。
「それもノームに関係することか?」
「そうだねー。日光には当たり過ぎないように、とは言われてるね。別に死ぬことはないけど調子悪くなるんだよ」
今度帽子でも作ってやるか。
「とりあえずサイコ騎士から逃げきれたのかな。次の行動を決めるためにも情報を集めるか。テオはしばらく寝ていろ」
「そうさせてもらうー」
テオドールを部屋に残し、階段を下りて行った。