修復
「だから、僕ノームの末裔だって言ったじゃん」
言ったじゃん、じゃねぇ・・・。
「わかるように説明しろ。いや、説明の前に、その傷で死なないのか?」
「あ、これー?うーん、治るよー」
死なないのか?と言う質問に治るよ、だと?
知り合って1週間、こいつとコミュニケーション取る自信がなくなってきたぞ。
「売り物の魔石1個もらうねー」
そういうと鞄から魔石を取り出す。
何か詠唱するかと思えば、ぱくっと魔石を食べた。
ふわっとテオドールの周りを土埃が舞ったと思うと、足元の土が傷口に向かって登ってきていた。
ほんの数秒の光景だった。
土が切り裂かれた体の一部となり、テオドールの傷は跡形もなく消える。
「あー、服びりびりー」
ぴらっと破れた服を摘みあげる。
「・・・はぁー・・・縫ってやるから。それよりここから移動しよう。また襲われたらかなわん」
俺は色々言いたかったが、後回しにして狼を見据えた。
「だねー、でもこの狼どうする?素材剥ぐ?」
「無理だな。刃が全然入らなかった。捨てて行くしか・・・ん?」
遠くから馬の叫びが聞こえ、しばらくすると馬車が見えた。
きっと狼の臭いで怯えていたのだろう、じたばた落ち着かない馬をなだめながら馬車が街道を走ってきた。
街道の狼退治をしてくれた。とニコニコしながら商人のおじさんが馬車に乗せてくれた。
狼は俺が何度も刺したせいで売り物にはならないだろうが、役場に持っていけばいくらか報酬が出るということで、布袋に入れていっしょに乗せてもらっていた。
「・・・で?さっきのは何だったんだ」
鞄から布を出し、テオドールの新しい服を作りながら俺は小声で話しかける。
「んーとね、そもそもノームの末裔ってね、人間に近いけど、違うの」
「・・・は?」
思わず服を縫う手が止まる。
「生まれた時から大人で、500年くらい生きる間年を取らないの。あと体内の魔石が無事なら死ぬこともないよー」
「・・・魔物じゃん」
俺は頭を抱えながら呻いた。
魔物作りと言われて薄々やばい奴だと思っていたが、話をするうちにただのポンコツだと思っていたのに、・・・やっぱりやばい奴だった。
「魔物じゃないよーノームは精霊なんだよ」
「精霊と魔物の違いってなんだよ」
「んー・・・」
知らんのかよ!
「いいか、お前が魔物だって誰にも言わないから。このまま俺は奴隷商へ、お前はひっそりと森へお帰り」
「えーなんでー手伝ってよ。僕一人だと上手にできないだってばー」
むうっと頬を膨れるが、可愛くない。
見た目20代のおっさんがやっても可愛くない。
「一緒に魔王様やろうって言ったじゃん、諦めないで!」
「はぁー迷惑な奴だな・・・まぁこんな形で投げ出すなら初めからやってないけどな。でももう少ししっかりしろよ、魔王様」
出来上がった服をテオドールに投げよこす。
「えー言動で言えば僕よりディーのが魔王様だよー」
着替えながらテオドールは嬉しそうに笑っている。
魔王が二人、町に帰還する。