貴族っぽい少年
ルミナ視点
私、ルミナ16歳。
7歳の時戦争があって、お父さんがいなくなっちゃったからお母さんとこの国に逃げてきたの。
でもこの国に着いてすぐお母さんも死んじゃって、連れてこられたのが【ドルドーラの奴隷商】。
ここに来てすぐは寂しいし、おじいさんは怖くて私はいつも泣いてばっかり。
でもみんな優しいし、おじいさんは口が悪いだけだってすぐに気づいたよ。
そんな私も16歳。この奴隷商ではお姉ちゃんとしてしっかりしなくちゃ。
「あの子はまだ寝てるの?」
あの子。ディートハルト君。
町から3時間くらい歩いたところにある山のふもとに倒れていたんだけど、本人は崖から落ちて流されたんだって。しかも海を挟んだ離れた大陸の国から来たんだって。
よくわからないよね。
でも本人は真剣に話してくれるし、家族と離れ離れになったから動揺しているのかな。
悪い子じゃなさそうだし、お姉さんとして面倒見るよ!
「ディー君起きて」
「僕は・・・裁縫箱じゃない」
布団の中からぼそぼそと声がします。覗き込むと隈のできた目と合いました。
「もー・・・ドル爺は口が悪いだけで悪気はないんだってば。ほらいい天気!洗濯とみんなの水浴びとおそうじ!やることいっぱいだよ」
ぐいぐいと布団を引っ張ると抵抗なく布団を奪い取ることができた。
「・・・着替えがない」
「着替え?水浴びしてから着替えた方がいいんじゃない?」
「違う・・・部屋着で外に出るわけには・・・」
そんな上等なものは奴隷商にはありませんよ。
不自由ない環境で育った子のようです。
これから現実とのギャップにショックを受けるかもしれませんが、強く生きるのですよ。
奴隷としてここにいますが、このネーミングは昔から続く名残なんだそうです。
ここでの教えは「衣食住整えれば人間は集団になれる。あとは清潔を保って愛想よくすれば職にありつける」だって。
弱いものを守れとかそういう教えは全くない。
ドル爺なりに、強く生きろって教えなんだろうな。
でもドル爺がいつも目を光らせているから孤児たちは安心して暮らしています。
それに職持ちになっても首から下げている隷属の首輪は位置情報を教えてくれるだけでなく、ここのつながりを示して悪い人に絡まれないようにするためのお守りでもあるんです。
「ルミナ、久しぶりね」
あの青色の髪をさらりとなびかせてるお姉さんはこの間買われていったレイチェルですね。
確か酒場で働いているはずです。
「チェル姉久しぶり、今日は配達?」
「給料が入ったからお裾分け。みんな変わりない?」
「うーん、新しく入ったディー君がまだ馴染めてないくらいで、あとは変わりないかな」
今頃水浴びさせている弟分たちに水浸しにされているでしょうね。
「そう・・・ルミナはもう職は決まったの?」
「まだ決まらないなー。ドル爺は隠してるけどね、身体売るような店からは何度も交渉がきてるそうだよ」
12歳を超えたあたりから胸がどんどん大きくなるので、着られる服が少なくなって困ります。
幸いチェル姉の服が部屋に残っていたので使わせてもらってます。
多分このまま、そういうお店に職を持つことになるんだろうな・・・。
「ドル爺は奴隷をそんなところに売ったりしないよ。ほら、愛想よくしないと職が逃げるよ」
「そうだね。笑顔、笑顔・・・」
このまま、子供のまま・・・ここに居られたらいいのに・・・。
「おとうさま・・・おかあさま・・・」
ディー君が布団をかぶって丸くなっています、
これはお姉さんとして弟分を励まさねばなりません。
「ほらディー君、ぎゅってしてあげよう」
チェル姉直伝です!「泣いてる子はこれで泣き止む」と豪語していました。
私は両手でディー君の体を捕まえます。
「な、なにをするのです!淑女がみだらに男に肌を合わせるなど―――」
「はいはい。ディー君は難しい言葉をよく知っていますねーえらいですよー」
ぐりぐりと胸に抱いたまま頭を撫でます。
「や、やめてください」
「ディーが泣き止んで大人になったら離してあげますよー」
ちょっと苦しかったかな、涙目で顔が赤くなっています。
「な、なってます。俺は大人です」
「大人はこんなメソメソしませーん」
結局朝まで暴れるディー君はぎゅーってさせてくれませんでした。
他の子なら「お姉ちゃん、今夜だけお母さんって呼んでいい?」とか甘えるのに。
ディー君は背伸びしたいお年頃なのでしょうか。
その日からディー君は「俺は大人だから!」といつも以上に頑張るようになりました。
他の子との会話も増えてきたようです。
きっとこの土地でも仲良くやっていけるでしょう。