旅立ちと支度金
朝食が済むころ、テオドールが奴隷商にきてドル爺から俺を買い取った。
(・・・俺、金貨5枚か。意外に良い値がついてんな)
ドル爺の奴隷は高くはない。
身元さえしっかりしていれば誰でも買える。
もちろんその後の給料諸々を含めれば安くはないが。
その金から銀貨30枚が支度金として俺に戻ってきた。
本来なら身支度のための金だが、ここの奴隷はドル爺に大事にされ常に清潔な服を着ている。
俺はルミナや他の兄貴たち同様に世話になった人たちに銀貨を配ることにした。
まずは肉屋だ。
「おばちゃん、俺買い取られたから職持ちになったよー。これ世話になったから、少ないけど取っておいて」
「まあまあまあ!ディーが買い取られるなんてね。どこの職なの?」
「えっと荷物持ちだよ。俺こう見えて腕っぷし強いからね」
「まあまあ。それじゃあ旅に出るのかい?これ持ってお行きよ」
おばちゃんから3日分の携帯食料を渡された。
「ありがとう、大事に食べるよ」
次は道具屋だ。
「じーさん、俺買い取られたから職持ちになったよ。これ世話になったから、少ないけど取っておいて」
「なんじゃと!それはスキル込みか?」
「ま、まあそうだよ。俺が必要なんだってさ」
自分で言うのもちょっと照れる。
「おぉ!喜ばしいのぉ!そうじゃ、これをもって行きなさい」
引き出しの奥から布と古い鞄を取り出した。
「これ、【重力付与】付じゃねーか!高い奴だろ」
「いいんじゃ、わしにはもう【100kg収納】の鞄があるからの。これはわしが若いころ使ってた【5kg収納】じゃ。ついでに布をいくつか入れておいてやる。気にせず使ってくれ」
スキル【付与】のマジックアイテムだ。5kg分の荷物を鞄に入れられる旅のお供。
商業ギルドがまとめて作っているから庶民にも流通している。とはいえ安くはないはずだ。
「お前はいつもここの布で露店をしてたからな。なくなったらまた来なさい」
道具屋のじーさんから鞄(重力軽減5kg)と布を渡された。
「ありがとう、いつか金持ちになって沢山仕入れに来るよ」
次に鍛治屋だ。
「おっちゃん、俺買い取られたから職持ちになったよ。これ、少ないけど取っておいて」
「よかったな!おめでとう、買い手はこの間の貴族か?」
バシバシと肩を叩かれる。
「そいつなんだけど、あー…裁縫するだけじゃなくて、ちょっと遠出予定もある」
「そうなのか。最近じゃ狼や凶暴な獣も多いって聞くからな…ちょっと待ってろ」
おっちゃんは奥から少し短い剣を取ってきた。
「ゴブリンキラーってんだ。昔の冒険者が最初に身につける武器だって言われてる。重くないしお前でも使えるだろ、持ってけ!」
おっちゃんからゴブリンキラーと鞘付きベルトを渡された。
「ありがとう、そのうち俺の武勇伝を聞かせに来るよ」
「はははは、待ってるぜ」
そのあとも俺は世話になった町の人に銀貨を配って歩いた。
さすがにダンジョンの整備や攻略するなんて言えないから荷物持ちで遠出する職と言ってある。みんなからお祝いだとコップや皿、追加の携帯食糧や着替えなんかももらえた。
銀貨はなくなったがいざとなればテオドールが金持ってそうだし、魔石を作って売れば何とかなるだろう。
俺は自分の髪に合った帽子を鏡の前で被った。
もちろん俺のハンドメイドだ。
余所行き用の刺繍入りベストに白いシャツ。腰にはゴブリンキラー、背中には5㌔鞄、中身は布と1週間分の携帯食料、日用雑貨。そして裁縫セットだ。
ブーツをキュッと鳴らしてポーズを取る。
――――今の俺、決まってる!
やってしまった後だがキョロキョロと誰も見ていないのを確認した。
俺は大人だがこういう子供っぽいこともたまにはいいだろう。
奴隷商を出る日。
俺の首にあるは【緑のスカーフ】ではなく【隷属の首輪】だ。
別に命令に従わないと首がしまるとかそういう機能は付いていない。
逃亡防止と迷子対策なんだそうだ。
どの大陸にいても見つけられる優れものだ。
ドル爺にはどうせお裾分けを持ってくるなら直接来いって言われたが、心配だから顔を見せろってことだろう。
どこまでも素直じゃないじいさんだ。
奴隷商の前で馬車に乗るときエールたちが見送りに来てくれた。
「ディー兄!さぼらず働くんだよ!」
「当たり前だ。みんなも仲良くするんだぞ」
「こんなに沢山みんなの服縫って置いておかなくても・・・ちゃんと顔見せに来るのよ?」
「ルミナ姉も心配性だな、またすぐに帰ってくるって」
そう、今度こそ家族のもとに無事に帰るんだ。
馬車が出発し、俺たちが小さく見えなくなるまでエールたちは見送ってくれた。