決意と願い
東の空が明るくなり始めていた。
いつものコースを外れ、高台の丘を目指した。綺麗に刈り込まれた芝生の真ん中に、ひと際大きな一本杉があった。
ふらふらと歩み寄ると、一本杉の近くに人影を見つけた。
「セヌールか、こんなところで何してる」
竪琴を持った薄青色の髪をした少年がこちらを振り返る。
「あぁ、ディー兄さん。ふふ、僕は風になろうと思ってね」
相変わらず訳の分からないやつだ。確かスキルは竪琴演奏だったか。
「朝練してたってことか。俺は風になるためなら馬に乗る方がいいと思うけどな」
セヌールの隣に立つと、町が一望できた。
まだ朝早く、人がまばらにいる程度の静かな町だ。
「・・・いい町だ。ここに来て、みんなと一緒に過ごして俺は変われたよ」
「ふふ、ディー兄さんは弟分たちの憧れですからね」
「憧れね。そう言われると恥ずかしいが、悪い気はしないな。・・・いつか、こんな風に変われた俺を見せられる日が来るんじゃないかって、勝手にそう思ってた」
「故郷のことは聞いたよ・・・残念だったね・・・」
「あぁ・・・」
ドル爺が投げよこした封筒には故郷の現状が大雑把に記されていた。
――――故郷は、戦争に負けた。
戦っていた人たちの大半は死んだ。まだ混乱が続いているそうだ。
アペリティフ領は現在隣国が支配している。
俺の家族は・・・避難区域の生存者名簿に名前がなかったらしい・・・。
「・・・俺はいつも庇われ守られ、大事にされて・・・それを同じか、それ以上に返したかった」
握った拳が震えるのがわかる。
「んー・・・ふふ、自暴自棄になっているようには見えないのだけどね」
セヌールが俺の顔を覗き込んで笑っている。
「・・・別に死に行くわけじゃない」
俺がテオドールの申し出を受けることにしたのは昨日のことだ。ドル爺はただ頷いていた。
「ダンジョンって危険だよ?」
「危険だからこそ金になる。それに危険だと判断したら逃げるよ。俺は足が速いんだ」
死ぬためにダンジョンに潜るわけじゃない。
故郷の様子を見に行くにも金がかかる。
それに、3年間一緒に過ごした奴隷商の家族に少しでもお金を入れたい。
それと、もしかしたら・・・もしこの仕事がうまくいけば、戦争する力をダンジョン攻略に向けられるかもしれない。
もう俺たちみたいな孤児を作らせない。
だから俺はあいつと魔物を作る。
そう、魔王になるんだ――――