ノームの末裔
魔物なんて俺の故郷にはいなかった。この町周辺でもそんな話は聞いたことはない。
大昔には勇者や冒険者が魔王を倒すためにダンジョン攻略をしていたらしい。
現在ではダンジョンとは名ばかりの洞窟があるだけだ。
よいしょっと投げた椅子を元に戻しお互い座り直した。
「この世界には【魔素】と呼ばれる魔物の元があって、スキル【ノームの祝福】で作った鉱石はその魔素を吸い込む力があるんだ。ダンジョンは濃度が濃くてね、放り投げておけば半日くらいで魔物になるよ」
「へー」
「できた魔物を倒すことで魔素を消化できるんだ。あれは溜まり過ぎると人や獣を凶暴化させちゃうからね」
「ほー」
「さらに、魔物の状態で2~3日置いておけば【魔石】持ちの魔物になるんだよ」
「なっ!魔石って…あんな高価なものになるのかよ…」
魔石は船や飛行船など色んな乗り物の動力になっている。
まさかこんな適当に作った魔物から魔石が取れるとは思いもしなかった。
「だけど僕うまくいかなくてねー。鉱石作っても魔物にならなくて」
「それで加工しようとしたのか?」
「そう!」
「・・・何でぬいぐるみなんだよ」
「ここに来る前にアドバイスしてくれた人がいたの」
―――どんなアドバイスしたら「鍛冶屋でぬいぐるみ」になるんだよ!
「僕が鉱石を作る、君が加工して魔物にする。自分たちで退治するかは魔物の強さ次第だけど、退治できれば魔石は作り放題!どう?」
高価な魔石作り放題・・・魅力的な誘いだ。
しかし、魔物退治か。戦闘スキルのない俺が・・・。
「・・・まだやるとか決めてないけど、ちょっと時間が欲しい。その、命のやり取りがあることだから・・・」
「わかった。僕はここにいるから決めたら教えてよ」
俺は一度奴隷商に帰ることにした。
(あれが初めての魔物退治・・・か。戦闘スキルなくても戦えた・・・のかな)
少しづつ頭が現状を受け入れ始め、急に怖くなったり高揚したり。
生まれて初めてスキルを必要とされ、戦いの中に身を置いた。
歩いていられず、気付けば走っていた。
ーーー顔がにやけた。息が上がっていく。
俺は今日のことを一生忘れないと思う。
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帰るなりドル爺に呼び出された。夜中なのに光が付いてるのは珍しい。
ま、どうせ「なんてポンコツを連れてきたんだ!」って怒るんだろうな。
部屋に入るといつもの雰囲気じゃなかった。
ドル爺の他に職に就いてここを離れていた兄貴たちもそろっていた。
「奴隷商の重鎮がそろってどうしたの?」
「お前、あの貴族もどきはどうした」
「あー・・・サンサン亭の宿屋に泊まってる。職については・・・ちょっと保留にしてきた」
さすがに魔物作って戦ってきたとは言えない。
「ふん、選べる立場になるとすぐ調子に乗りやがる・・・」
帰れって言ったのドル爺じゃん。と口をとがらせているとドル爺はポンっと封筒を投げよこした。
「・・・お前に職が与えられる日が来たら、見せようと思っていた物だ」
それだけ言うとその場から立ち去ってしまった。
その封筒にはこう書いてあった
『アペリティフ領地の報告書』