労働の誘い
テオドールと市場を抜ける。
さっきもらった金貨で肉を一袋買い、おばちゃんに「こんな大金じゃおつりが出せないじゃないか」と怒られた。
肉はは奴隷商に少しずつ毎日運んでくれるそうだ。しばらく肉には困らないだろう。
奴隷商に着く頃には辺りは暗くなり始めていた。
「ーーってなことで、俺はここで働いているんですよ。いや、働いているというか、職待ちをしてたんです」
「職待ち?」
「奴隷は2種類います。食うに困って身を寄せる奴隷と罪を犯した刑罰としての奴隷です」
貧困奴隷と犯罪奴隷と名称があり、貧困奴隷は虐待・暴行禁止や危険な仕事に就かせてはならないなど様々な保護を受けられる。
言わば教会の孤児院と職業安定所がくっついたような後ろ盾の下で働くことができるのだ。
ただ、名称が奴隷であり、職が安定するまで【隷属の首輪】という居場所を特定されるアイテムの装着が義務付けられる。
「つまり、私は君の主人となって、職と給料、安全と衣食住を保証しないといけないのだね」
ふむふむ、とわかったような顔をしてうなづいているが、本当に全部保証するつもりなのだろうか。
ドル爺の奴隷商は買い手の身元がしっかりしていないと、「貴族だろうが王族だろうが奴隷を売る気はない!」と豪語している。
そのおかげで身を寄せる俺らからすると、安心できる我が家ってやつなんだが・・・。
奴隷商に着くと、先に帰らせたエールが待っていた。
「お帰りディー兄!あれ?貴族様も一緒なの?」
「あぁ。兄ちゃんな、もしかしたら買い取ってもらえるかもしれないんだ」
「え?!そうなの!ディー兄働くの?!」
うんうん。びっくりしているな。
しかし働くの?とは。俺は露店だけでなく毎日君たちの世話でも働いているんだが。
「もうドル爺も帰ってきてるよな。テオドール様、中へお入りください」
じきに夜になる時間だが、このまま逃してしまって職を得られなかったら大変だ。できるだけ早くドル爺に許可をもらわないと。
「ディートハルトを買い取りたいだと・・・」
奥にある応接室に通された俺たちはドル爺と交渉中だ。
「な、いいだろ。俺のスキル二つとも必要だって言ってくれてるわけだし」
「はぁ・・・これだから勉強の足りねぇ小童は・・・テオドールさんと言ったか。いくつか質問するがちゃんと答えるように」
どこまでも上から目線だな・・・。
「まず、あんた貴族か?名前を全部言いな」
「私は貴族ではありませんよ。名前はテオドールで全部です」
「・・・は?」
俺は隣で間抜けな声を上げた。
え?貴族じゃない?
こんないかにも貴族顔して貴族じゃない?
「で、あんたこいつに何の仕事をさせるつもりだ」
「詳しくはお話しできませんが、一緒にダンジョンに潜ってそのスキルを発揮していただければと考えています」
「・・・スキルってのは【ソーイング】と【糸作成】で間違いないんだな?」
さわやかな笑顔で頷いているが、え?ダンジョンなんて単語今初めて聞きましたけど?
「これを先ほど作っていただきました。申し分ない出来だと考えています」
・・・・・それ、リスのぬいぐるみだから。
俺のこだわりと綿しか詰まってないから。
それでダンジョン攻略なんてできないから・・・。
「つまり何か?こいつにダンジョンでぬいぐるみを作れと、そういうことか?」
「はい!」
・・・俺は耳を塞いだ。
「―――かえれぇぇぇぇ!!!」
すでに夜中。ドル爺の怒声が響き渡った。