93.神の背中が見えてきた
キメラを狩り、素材を錬金術で加工する練習をし、またキメラを狩る。
そんな生活を数日ほど続けて、俺は今、目標の高さにウンザリしているところだ。
命がけの戦いではなくなり、安全確実かつ一方的に魂を砕く作業になってからは危機感もなくなり、そうなると今度は頭を回す方に時間を使うことができるようになる。
それ自体はいいことなのだが、それで色々と思い知ることになった。
まず竜との会話中に【並列思考-2】が竜を解析していたのだが、どう考えても奴を倒すのに今のままだと数年単位で時間がかかりそうなのだ。
とにかく強い。
まず無敵の防御力を誇る竜鱗スキル。
次に数多ある攻撃手段のひとつひとつが、俺にとって致命傷を負わせるに十分な即死攻撃であるという事実。
そこに単純に身体能力、つまりパワーとスピードに埋めがたい圧倒的な差があるため、どう考えても攻撃を回避し続けるのは現実的ではない。
何か段階をすっ飛ばして強くならなければ、延々とここでキメラを狩り続けるハメに陥りそうなのだ。
……ってのは以前にも考えて、実際にやったんだよなあ。
スキルや術のフォーマットを無視すること。
それがすっ飛ばした段階のひとつだった。
しかしひとつ飛ばしたところで、竜の強さにはまったく届かないと知れてしまった。
キメラ狩りにも飽きてきたから、本格的に竜の倒し方を考えて、その方針にのみ注力して強くなる必要がある。
そのためにはまず、
……竜鱗の攻略法だな。
無敵の防御力をどう突破するのか、それを考えねばならない。
竜の攻撃を仮に全て対策して万全を期したところで、竜に傷ひとつつけられなければ倒すことは叶わない。
今の所、攻略手段のひとつは簡単に思いつく。
それは竜特攻スキルや対竜特化術の取得だ。
相手の弱点……は無いから弱点を作るという発想の元に立った弱者の戦術だ。
これは確実に効果が見込めるから、やろうと思えば今からでも取得することはできるだろう。
しかし先程も言った通り、これは弱者の戦術。
強者を相手にジャイアントキリングを起こすためには確かに理にかなった戦術なのだろうが、今後のことを考えると少々もったいないと思うのは俺だけか?
竜という生物は、この世界において3体しか存在しない。
その3体のためだけに対策を行うのは、無駄が多くはないだろうか。
……それを言うなら〈断神剣〉も対象の数が少ないのだが。
〈断神剣〉は神気を斬るという役目もあるため、神の数――即ち邪神と侵略神の合計で8柱――より活躍の機会は多い。
しかし竜はそうではない。
この世界に存在する3ヶ所のダンジョンの最下層に封印されており、倒すことを強要されているレッドドラゴン以外の竜とは戦うどころか顔を合わせる機会があるかどうかすら怪しい。
というわけで、発想を逆転させよう。
先程の戦術が弱者のものであるならば、強者ならばどう戦う?
竜にとっての強者とは、神のことに他なるまい。
神がいちいち竜特攻スキルや対竜特化術を放つとは思えない。
魔族には無理でも、神ならば可能な戦術とはなにか。
恐らく神気がそれなのではないだろうか。
神気を用いれば竜鱗を打ち破ってダメージを与えることができるのではないか?
神ならざる俺には取ることのできない戦術ではある。
だが神気ならば竜に通用するという仮定自体は無駄ではない。
なぜなら手元には、風神の神気で創られた弓があるからだ。
俺ならば、錬金術でこの弓を刀に〈変形〉させることができる。
もちろんキメラの爪や牙で失敗し続けている今の俺では神気の弓から刀を造るのにも失敗するだろうが。
練習に練習を重ねれば、不可能ではない。
風神の神気を素材とした刀ならば、恐らく竜鱗を斬り裂くことが可能だ。
……いや、恐らくじゃないな。
【並列思考-2】で弓を解析し、俺は確信を得た。
神気は竜鱗を貫く。
さてこの強者の戦術、非常に魅力的ではないか。
神はいちいち竜ごときに特別なスキルなどを用意せずに、その他大勢と一緒くたにして神気ひとつで対応できる。
無駄がない。
ならば次に考えることは?
どうやったら神気を使うことが出来るようになるのかを考えるべきだ。
即ち、
どうやったら神になれるのか?
という疑問に取り組むべきだろう。




