80.風神の弓パクったけど大丈夫かこれ
ナナミはどうやら気絶しているだけのようだ。
【霊視】や【魂視】で視ても異常はない。
ただナナミが今のやりとりを覚えているのかは分からない。
もし覚えていたら、俺が魔族だとバレる。
……覚えていない場合を想定して誤魔化す言い訳を考えなければ。
まずナナミが手にしていた弓を〈マナ・ハンド〉で掴み、〈ストレージ〉に回収した。
神気から生まれた弓だから、直接手で触れるのは怖い。
矢は消滅してしまったから、これでナナミが風神エアバーンに乗っ取られた痕跡は消えた。
5分とたたずにナナミは目覚めた。
「……あれ、私は」
「大丈夫ですかナナミさん」
「イズキさん? 私どうして……」
「どこまで覚えてますか?」
「え? ええと……風神の試練を終えて、イズキさんと話をしましたね。それから……?」
ナナミはステータスを表示して、【風の恩寵】があることを確認して「良かった夢じゃない」と安堵した様子だった。
どうやら風神エアバーンに乗っ取られていた記憶はなさそうだ。
……これが演技だったらどうしようもないけど。
そのときは仕方がない。
少なくとも風神エアバーンは俺に猶予とやらを与えた。
鳥人族にとって風神は生みの神、そのときまではナナミも何もしないだろう。
「では戻りましょう」
「そうですね。クーラさんやタマさんを待たせていますし」
俺とナナミは神気のある部屋を後にした。




