8.出番は父に譲ります
「よし、まずはジュゼットが射ろ」
こちらを威嚇している野犬のような魔物に、ジュゼットは弓を構えた。
遊びでは槍ばかり使っていたが、実は天風族は弓を得意としている。
大人で体格のいいギュスターヴは槍を使うが、まだ子供のジュゼットには弓を使わせる方針らしい。
「イズキ、剣を抜いておけ。接近されたらジュゼットを守りながら3人で戦うぞ」
「はい」
言われたとおりに剣を抜く。
戦闘の準備は整った。
ジュゼットは一気に弓を引き、矢を放つ。
野犬は横っ飛びに矢をかわして、そのままこちらに向けて走り始めた。
「来るぞ、食い止めろ!」
ギュスターヴが翼を羽ばたかせ、中空で槍を構える。
ジャンは剣先を地面すれすれに落とし、低い位置で迎撃する構えだ。
俺は野犬の素早い動きに対応するため、剣を前に向ける。
視野を広くもつように意識しながら、猛烈な勢いで接近する魔物の動きを目で追う。
真正面に来た魔物に、力強く羽ばたきながらギュスターヴが槍を繰り出した。
野犬は咄嗟に飛び上がり槍をかわすが、――ジャンの剣が跳ね上がるようにそれを追う。
ギャン、という悲鳴とともに魔物はひっくり返って、そのまま動かなくなった。
どうやら俺の出番はないらしい。
「よし。仕留めたな」
慎重に近づいたジャンが、魔物が死んでいることを確かめた。
「ジュゼット、あの距離で正面からでは当たらないものだ。外したことを気にする必要はないからな」
「うん、分かった」
実際、魔物の敏捷力を考えると不意打ちでない限り当てられないだろうから、ギュスターヴの言葉はそのまま受け取っていい。
それでもジュゼットは外したのを内心で悔しがっているようで、次は当ててやると密かに燃えているようだった。
しかし勉強になった。
ギュスターヴは種族が違うから参考にはならないが、父ジャンの動きは努力次第でモノにできるはずだ。
先程の動きは人狼族の筋力と敏捷力を活かした剣筋だった。
剣を低い位置から上に向けて跳ね上げるのにはかなりの筋力が必要だろうし、槍の間合いから飛び退いた魔物に剣を当てるためには一瞬で接近する敏捷力が不可欠となる。
今の俺には無理な動きだ。
ふと気になって邪神の加護を開くと、魂が増えていた。
どうやら仲間が倒した場合でも、魂は得られるらしい。
……そういうことなら、トドメを刺すのに拘る必要はなさそうだな。
野犬の魔物は可食部位がほとんどなく、しかも不味いため魔石だけ取って死体は放置だ。
魔石とは魔物の体内にある魔力の保存器官である。
魔術の触媒として優れた素材であり需要は常にあるため、貨幣の代わりにも用いられているらしい。
ちなみに放置された野犬の死体は、森の魔物が食べてなくなるだろうから、アンデッド化する心配はまずない。
「よし、行くぞ」
「はい」
魔石を取り出したジャンが、先頭を歩き出した。
狩りはまだ続く。