75.回避不可イベントかよぉ
トビー死す。
その報は村長宅に深い悲しみをもたらした。
俺たち3人は内心をよそにお悔やみを申し上げ、成り行きを見守る。
早く飯食って部屋に戻りたい。
そして明日は早めにこの村を出よう。
3人の心はきっといま、ひとつになっていた。
しかし村長は息子の死を悼みながらも、力強い眼差しで孫娘と俺たちとを見比べた。
「跡取りであるトビーが死んだのは痛かった。しかしここに腕利きの傭兵がいるのも天佑。ナナミ、風神の試練だ」
「お義父さん! そんな急に! まだトビーは……」
「トビーはもう死んだ。村の長を継ぐはずだったトビーが死んだ以上は、次なる長であるナナミに試練を受けてもらわなければならん。ワシとていつ死ぬかもしれぬ老いた身であるからな」
「……お母さん。私、風神様の試練を受けるよ」
取り乱すトビーの妻に、トビーの娘ナナミは決意を秘めた眼差しで言った。
「ナナミ!?」
「大丈夫。今はちょうど腕利きの傭兵さんたちがいるんだもの。人間族の国まで傭兵を雇いに行ったら、傭兵がこの村に来るまで時間がかかるでしょ。ランドモッタの戦争での活躍、私は見たからこの人たちが凄く強いのは知っているよ」
何か俺たちをよそにして話が盛り上がっている。
しかもその話に、どうやら俺たちは無関係ではないらしい。
「あの、風神の試練というのは?」
「ああ、傭兵さん方は知るまい。この村を治める者は、必ず風神エアバーンの課す試練を受けなければならぬのです。その道は険しく、魔物の徘徊する場所を通らねば風神様の元へは辿り着けない」
風神エアバーンというのは6大神の内の1柱で、鳥人族をこの世界に遣わしたとされる神のことだ。
「将来、村長となる者は傭兵を供に魔物の住処を抜けて、風神様の元へお参りするのが習わし。どうか孫のナナミの護衛を頼めませんか。報酬はもちろん用意いたします」
これはどうなんだ。
俺はクーラを見上げた。
クーラは俺を見ていた。
「イズキがどうするか決めるといいよ」
「俺が決めていいのか」
「迷宮都市に行くのが少し遅れるかもしれないからね」
まあ確かに迷宮都市を目指しているのは俺だ。
だからその旅程が遅れてもいいかどうかを決めるのも、俺になるのだろう。
まあ急ぐ旅ではない。
それにトビーを殺したのは俺だ。
責任を感じないでもなかった。
奴らは7柱目の神の神気の虜となって正気を失っていたとはいえ、目の前のナナミには何の咎もない。
「分かりました。引き受けます」
「おお、ありがとうございます!」
「ありがとう、イズキさん」
11歳にさん付けは似合わないなあ、とかどうでもいいことを思った。