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74.まさかその名を聞こうとは

戦争で名が売れてしまったおかげで、俺たちは当初よりも更に遠回りのルートで迷宮都市を目指すこととなった。


山人族の国ランドモッタを出て、次に入国するのは鳥人族の国だ。


ランドモッタとの国交はほとんどなく、隣国だというのに先の戦争にもまったく絡んでいない。


種族間や国家間に確執があるわけではない。

国交がないのは、単に生き方が違いすぎて互いに噛み合わないだけだ。


ランドモッタの主力輸出品目である鉄製品、特に武具は鳥人族には重く、需要がない。

そして鳥人族は高地に集落を作り、狩猟採集で生計を立てているため、輸出できるほどの食料はない。


故に貿易は成り立たず、しかし反目する理由もないので互いに没交渉のまま今に至るというわけだ。


……という事情をランドモッタを出るときにクーラから説明された。


やけに詳しいなと思ったら、どうやら酒の席で情報収集をしていたらしい。

さすが傭兵やって長いだけのことはある。

頼れる奴だ。


国境には関所もなく素通り。

高地にあるという集落に向けて山道を歩く。

迷うような道もなく、半日もあれば着く距離だったので、朝に出て日が暮れる前には集落に到着した。


そう、集落だ。

木の柵で囲われた貧相な村である。

故郷を思い出しそうになる雰囲気はあるのだが、他種族との交流は皆無ではないらしく、家屋にはガラスの窓があるし集落の中心部には噴水などもあって、文明レベルが低いわけではないらしい。


「……とはいえのんびりした空気は人類の街には珍しいよな」


「イズキは人間族と山人族の街しか知らないんだよね? 鳥人族の暮らしぶりは魔族みたいに狩猟と採集で食料を賄っているから、僕としても故郷を思い出さずにはいられないな」


「私は生まれも育ちも娼館だったから、街の外に出たのもこの旅が初めてだよ」


いつかタマを魔族の領域に連れて行ってやりたいものだ。


集落の入り口には一応、見張りと思しきふたりの鳥人族がいた。

ゲーム盤を挟んでいるところを見ると、集落にやってくる者は滅多にいないのだろう。


年長者であるクーラが代表して声をかけた。


「こんにちは」


「おう、お前らウチの村に用か?」


「はい。旅の傭兵です。ランドモッタから来ました」


「んじゃ一応、ステータス見せてくれ。……うん、うん? すげえなお前ら。もしかして名の知れた傭兵なのか?」


俺たちのステータスを確認した見張りが思わずといった様子で問うてきた。


「先日のランドモッタの戦争で少し名を挙げましたが、無名ですよ」


「ああ、聞いたな。空から見物していた若いのが騒いでいたよ。山人族の国の方が寡兵なのに攻め込んで、いい勝負したんだって?」


「そうですね。その一戦が決め手となったようで、人間族の国の方が講和を求めてきて、戦争は終わりました」


「なるほどね。ああ、通っていいぞ。ただ宿なんざねえから、村長のとこに行くといい。村の一番奥にあるデカい家だ」


「分かりました。ありがとうございます」


すんなりと集落、ではなく村に入った。

昼間は狩りや採集に出かけているのだろう、人が少ない。

子供たちがこちらを珍しそうに見ている。


「まずは村長のところに行って挨拶しておこうか」


「そうしよう。挨拶はまたクーラに頼むぜ」


「分かった」


村長宅まで村を見物しながら歩く。

こんな山の上に噴水があるのは不思議だったが、どうやら貯めた雨水を浄化しつつ噴水にする大きな魔術具が設置されているようだ。


魔術具は多数の魔石を材料にして作成する魔法の道具で、一応は魔族も作ることはできる。

故郷の家にも備え付けのコンロなどがあった。

ただこの手のモノ作りは人類の十八番であり、魔族の作った魔術具より人類の作ったものの方が質がいい。


「雨水を貯めて浄化するのは分かるけど、なんで噴水にするんだ?」


「さあ。古そうな魔術具だし、案外噴水の機能には目をつぶって安く購入してきたとかじゃないかな」


「綺麗でいいじゃないですか~」


魔術具の使用や維持には魔石を使うから、無駄な機能があると効率が悪そうだ。


半ば観光気分で村を歩き、村長の家に到着した。


村長は老齢で飛ぶことを引退した鳥人族のお爺さんだ。


鳥人族に限らず翼のある魔族や魔物は、翼にかかった魔法で空を飛ぶことができる。

これは歳をとっても衰えることはないのだが、身体の方は加齢とともに体力が衰え、やがて飛ぶことに身体の方が耐えられなくなるのだ。


俺たちは村長宅のひと部屋を借りることになり、食事の世話までしてもらえることになった。


夕食は狩人が狩ってきた魔物の肉、森で採れる木の実や果実などを材料に、質素な料理が振る舞われた。


村長の家族は長男夫婦とその娘がひとりの4人家族で、村長の他の子供たちは結婚して他の家や村に出ていったようだ。

ただ肝心の長男は出かけているようで、不在だった。


和やかな食事の場だったのだが、鳥人族の男が泡を食ったような勢いで村長宅にやってきた。


「何事だ。客人をもてなしている最中だぞ」


「大変です村長! トビーが死体で見つかったんです!」


「なんだと!?」


トビーという名を聞いて、俺たち3人は思わず顔を見合わせた。

あの7柱目の神の神気に取り憑かれた鳥人族がそんな名前だった。


「人間族の国の中にある空白地帯に妙な小屋を見つけたんです。妙な場所にあるのと、荒れた様子だったので中を確認したんですが……そこにトビーが」


「一体どこだ? 空白地帯ということは、魔物の巣窟だろう。なぜそんなところに小屋など」


「それは分かりません。他にも人間族と森人族、あと魔族の死体もあったんです」


「魔族? 一体何が……それよりトビーが死んだのは確認したのだな」


「はい。腐敗が酷くてひとりじゃ持ち帰れませんでした。いま遺体の回収をするために人を集めております」


「分かった……見つけてくれて感謝する」


「ええ、残念なことです。それじゃ俺はこれで」


トビーの妻は顔を覆って泣き出すし、娘も目に涙を溜めて母を慰めている。

食卓は暗く重い空気に包まれた。


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