7.狩りに同行を許されました
7歳になった。
集落では7歳になり、大人から認められれば狩りに同行することが許される。
年齢としては早いと思うが、そこは魔族。
戦闘種族であるから、子供でも割と強いのだ。
俺も幾つかの魔術を加護なしで習得している。
加えて【剣Lv1】【格闘Lv1】【走力Lv1】【爪Lv1】と、肉体系のスキルを4つも習得できた。
邪神の加護を持つ俺を特別視する大人からは慎重論も出たが、年相応の実力はあるとして、俺も狩りに同行できる許可を得た。
ようやく魂を得られる機会が訪れたのだ。
さあ、ザクザク魂を貯めて強くなろう。
◆
「よろしくお願いします、父さん」
「ああ、初陣だなイズキ。それと狩りのときは父さんじゃなく、ジャンと呼ぶように」
「分かりました、ジャン」
狩りには複数の大人がいる。
名前で呼び合うのは、「父さん」と呼んだら誰のことを指しているのかすぐに分からないからだろう。
今回の狩りには同じく許可を得た友人たちも参加する。
多腕族の男子ナタン、牛人族の男子マクシム、天風族の女子ジュゼットだ。
蛸女族の女子ミレーヌは、水辺を狩り場にするため一緒ではない。
ひとりだけ別の狩り場なのを非常に寂しがっていた。
腰に鉄剣を差し、革の胸当てをつけ、水袋や携帯食料などの入った小さな背嚢を背にして、準備は万端だ。
これらの装備は両親からのプレゼントである。
大事に使っていきたいが、もっといいものにグレードアップさせていかなければ命に関わる。
お金を稼いで装備の更新も早めにした方がいいだろう。
集落を出て、狩人の一隊は森を目指す。
魔物の跋扈する危険な森だ。
ちなみにこの世界には魔物でない動物はいない。
家畜になる動物すら魔物であり、飼うのに危険がある。
危険とはいえ、狩りをするなら相手は魔物しかいないというわけだ。
それに森の魔物を狩らずに放置すると、繁殖しすぎて集落が襲われかねない。
食料のため以外にも、森にいる魔物は積極的に狩らなければならないのだった。
森に着くと、幾つかのグループに分かれて行動することになった。
俺は父であるジャンと一緒のグループだ。
人狼族の戦い方は人狼族にしか教えられない。
親子は基本的に同じグループになるようだった。
父以外にはジュゼットとその父親が一緒だ。
ジュゼットの父ギュスターヴは立派な体躯をした天風族で、翼を使わずに地上で槍を振るっても強そうに見える。
「よろしく、イズキ様」
「様はいりません、ギュスターヴさん」
「ではイズキ、と。それと私のことは呼び捨てにしてください。狩りの場では回りくどい敬称などは邪魔になりますので」
最初に様付けしたのはギュスターヴの方なのだが。
どうやらジュゼットの父親は、邪神の加護を持つ俺のことを特別視する大人のひとりのようだ。
「よろしくイズキ。魔物をいっぱい、倒しましょう。目標はナタンやマクシムのとこより多く、ね!」
「ほんと負けず嫌いだなぁジュゼットは」
危険な行動を取ろうとしたらギュスターヴが止めるだろうから、保護者同伴のうちは大丈夫だろう。
ジュゼットが一人前になって、ストッパーがいなくなったときが今から心配だ。
さて挨拶も交わし終えたところで、さっそく森に分け入る。
基本的には獣道を歩くのだが、途中で倒木を避けたり魔物の痕跡を探ったり、その痕跡についてのレクチャーなどをしてもらいながら、時間をかけてゆっくり奥へ向かう。
意外だったのは、ちらほらとアンデッドが潜んでいることだった。
死体はとっくに朽ち果てて大地に還ったようだが、魂と精神が地上に残る、いわゆるゴーストの状態でさまよっているものが多いのだ。
しかもゴーストは積極的にこちらを襲ってきたりしないうえ、目視できない。
俺以外の3人は近くにゴーストが漂っていても、まったく気づくことができないようだった。
悪性ではない、ただの浮遊霊。
しかしアンデッドである以上は、無銘の霊刀が斬るべき『歪み』ではなかろうか。
……黙って見過ごすと、後でどうなるか分からないな。
「ジャン。ギュスターヴとジュゼットも、少し待っててもらえるかな」
「どうした。何か見つけたか」
「うん。ゴーストがいる。悪さをするわけじゃないけど、これを狩っておきたい」
「ゴースト? そういえばイズキには霊感があったな……」
ジャンが納得したので、ギュスターヴとジュゼットも俺のすることを見守ることになった。
とはいえやることは簡単。
まず無銘の霊刀を抜く。
青白い刀が手に現れる。
実体こそないものの、これは霊感などがなくても目視できるらしい。
ジャンたちが見たことのない剣の形をした何かに驚いている。
霊刀が顕現したことで、ゴーストがざわめきだした。
これが己を滅ぼすことを本能的に悟ったのだろう。
だが逃がしはしない。
足場の良くない森の中であるにも関わらずまっすぐに踏み込むと、霊刀を一閃した。
我ながら綺麗な太刀筋だった。
これが霊刀に付随する【刀Lv5】の力だろう。
数多いたゴーストは跡形もなく消え去った。
刀身に直接触れていないゴーストすら、霊刀が振るわれただけで消滅している。
アンデッドが相手だと凄まじい威力だ。
「終わりました」
霊刀を仕舞い、邪神の加護を起動する。
魂が増えていた。
どうやら無害な浮遊霊でも、十分に足しになるらしい。
……これは美味しいな。
ちなみに邪神の加護はステータスと違って他人からは見えないらしいので、気軽に確かめられる。
「イズキ、今の剣はなんだ?」
「無銘の霊刀だよ。ほら、どんなスキルか分からないって言われてたやつ。アンデッドしか斬れない代わりに、アンデッドに対する威力は破格なんだ」
「そんなスキルだったのか……。イズキ、それをどうやって知ったんだ?」
「うーん。……なんとなく?」
詳しい説明は避けた。
半端な嘘をつくのもボロが出そうだし、曖昧な形でボカした方が後が楽だろう。
「これからもゴーストを見かけたら斬るけど、構わないかな?」
「……そうだな。邪神の加護をもつお前の行動だ。何かアンデッドを滅ぼすことに意味があるのかもしれない」
父から許しを得たので、見かけたゴーストは積極的に狩っていこう。
「なんかそういうの見ると、イズキは特別なんだな~って思うよ」
「なんだよ急に」
ジュゼットが真面目な顔でよく分からないことを言った。
「邪神の加護のことはもちろん知ってたけどさ。さっきの動きは今までの遊びの中でも見たことないくらい良かった。もしかして今まで手加減とかしてた?」
「まさか。あの動きも霊刀の力だよ。あれは刀の振るい方までも一時的に上達させるから」
「へえ。やっぱり特別な力なんだね……」
なんとなく隔意を感じる。
自分とは違う、とジュゼットに思わせてしまったらしい。
なんと言葉をかけていいか迷っていると、父とギュスターヴから「先に進むぞ」と言われた。
森での狩りはまだ始まったばかりだ。