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69.今日から刀使うわ

山人族の国ランドモッタは、隣接するふたつの人間族の国から宣戦布告を受け、戦争状態に突入した。


というか、宣戦布告の時点で同盟両国は兵を国境付近に展開しており、布告がランドモッタに知れ渡った頃にはとっくに国境を越えていたという。


つまり今、すぐ近くまで都市国家ランドモッタを攻める兵が迫っているというのだ。


「うっかり戦争に巻き込まれちまったな。どうしようか?」


「傭兵として参戦するか、終わるまでどこかに隠れるか、三国に見つからないように逃げるか。僕が思いつくのはそんなところだけど」


「え、え、戦争ってほんとに?」


現実を早く飲み込めよタマ。


「そもそもなんで攻められてるの、この国」


「人間族の国ふたつが仲が悪かったという噂はダミーで、優秀な工房と鉱山を抱えるランドモッタを支配下に置きたかった、ということだと思うんだけど」


「うーん。この国の外交官は何をやってたんだ……」


まあきっと鍛冶のことしか考えてなかったんだろうね。

なんてったって山人族の国だもの。


「……それでイズキ、早めに決めないと時間がないよ」


「この工房がなくなったら困る。よって傭兵として加勢するぞ」


「了解。戦争に参加するんだね?」


「当然。……おいタマ、戦争は現実。戦うぞー?」


「ええええ!? なんで!? 私、戦争に関係ないよ!?」


「俺たち傭兵、戦争は稼ぎどき。知らなかったのか?」


「初めて知ったー!!」


俺たちはユゴッグの工房でクーラの剣とタマの短剣を購入し、戦争に参加することにした。


「おい小僧、これ持っていけ」


「これって『白牙』じゃないですか。いいんですか、ユゴッグさん?」


「いいもん見せてくれたからな。それにどうせ、すぐに工房で一番の刀じゃなくなる」


「ではありがたく」


「おう。俺たちの国の側についてくれるんだろ? 期待しているぜ傭兵」


「俺が成長するまで、この工房が無事でいてもらわないと困るんでね」


「ひょろい人間族どもの国がふたつ来たところで、俺たちに勝てるわけねえだろうが!」


……だといいんだけどなあ。


戦争は決して楽観視していいものではない。

全体像がまだ掴めていない以上、どう転ぶか分からない。


入念に準備を進めてきた2国と、奇襲されたこの国。

現時点では不利な状況に立たされているはずだ。


俺はユゴッグに改めて礼を言って『白牙』を腰に帯び、クーラに先導されて傭兵組合に向かった。

戦争が始まるならば、傭兵組合で兵の募集が始まるはずだからだ。


傭兵組合に行くと、顔見知りを見つけた。

商隊の護衛でリーダーを努めていたガズドムだ。

クーラが手を上げて近づく。


「おう、お前らも来たか!」


「やあガズドム。戦争に参加するのかい」


「もちろんだ。傭兵にとっちゃ稼ぎ時だろ?」


「違いない」


ふたりは笑顔で談笑する。

これから戦争だってのに、傭兵稼業ってのは因果なものだ。

かく言う俺も、内心ではニコニコしていることだろう。


なにせ魂の稼ぎ時だからだ。


タマは「戦争に参加するって……私どうすれば」と不安そうにしている。

こちらが普通の反応だが、戦闘種族の魔族なのだからもっと楽しんでもいいと思うのだが。

人類の街で育ったタマには難しいか。


「大丈夫だよ。俺とクーラの傍から離れなければフォローできるから」


「なんかそれ、結構難しいこと言われてないかな~」


あ、気づいた?


俺は魂を集めるために前線に切り込むつもりだ。

工房であれだけ派手に暴れた以上、多少は実力を見せても大丈夫だろう。

クーラに背中を守らせ、タマには牽制でも頼もうか。


地面が土であることを確かめ、タマ2号に命じる。


「タマ2号、タマが投げるのに丁度いい大きさに土を固めて欲しい。形は球体。とりあえず拳大で」


タマの首輪が地面に落ちる。

タマ2号は地面の土からボディを形成し、そこから土を固めた球体を作り出した。


「タマ、これ投げて人を殺せる?」


「投げるのは大丈夫だよ。でもこれで人を殺せるかは自信ないかな~……」


「……うーん。確かに威力が不安だな。相手を牽制ないし無力化できなければ意味がない」


かと言って短剣を投げたらあっという間に尽きる。

そのために土を固めたボールを用意してみたのだが。


……何かスキルを渡すか?


渡せるのは【弓】くらいのものだが。

魔術が使えないのが痛い。

それにステータスにない武器を上手く使えるところをあまり見せられない。


……工房でステータスにない格闘術を使いまくった俺が言えることじゃないけど。


まともに戦うには、ああするしかなかったはいえ、今度からステータスに【格闘】も載せるべきか。

ただでさえ多いスキル欄が更に増えるのは考えものだ。

そろそろ普通の11歳で通すのは難しくなってきた。


……おっと、今はタマの戦闘方法だったな。


「付け焼き刃は怖いから、やっぱり土塊を投擲することに専念しよう。もし敵が接近してくるようならナイフを投げて。さっき買った短剣は接近戦用だよな? それだけ手元に残っていればナイフは全部投げ尽くして構わないから」


「うん、頑張ってみる」


ガズドムと話をしていたクーラが戻ってきた。

どうやら傭兵の募集が始まったようだ。


ふと募集が始まったのを無視して傭兵らしき人の集団が街の入口の方へ向かうのが目に止まった。


「あいつらはもう参加手続きしたのかな?」


「いや。戦争に参加せずに向こうに降伏する連中だろうね」


「そういう選択肢ってアリなのか? というか降伏を受け入れるのか?」


「傭兵が仕事を受けるかどうかは傭兵自身で決めることだからね。ランドモッタにつかないなら、同盟側に降伏して戦争に関わらないか、同盟に雇われるか、かなあ」


「ふーん、まあ戦場で会ったらもてなしてやろうぜ」


「イズキはやる気満々だね……」


「背中は任せたぜ、クーラ」


「任されたよ」


「あとタマのフォローは俺たちふたりの仕事だから」


俺の言葉に、クーラは意外だと言わんばかりに目を見開く。


「タマも前線に連れて行くの?」


「俺たちの近くが安全だと思う。どっか知らないところで怪我されたり死なれたりするのは嫌だ」


「そうだね。……そうか、失念していたよ。死んだら【人化】が解けるだろうから」


「ああ、そりゃマズいな」


なるほど、タマが万が一にでも死なれて【人化】が解けたら、一緒に街に入った俺たちも魔族だとバレる。

タマを守りながら戦う方針は動かせなくなったわけだ。


腰の『白牙』に手をやる。

【刀】のスキルレベルは【剣】に劣るが、せっかくなので刀を使って戦おうと思う。

今更、何の武器を使おうが人狼族の身体能力と風の支配者を活用すれば大差ないのだ。


さて、戦争が始まる。


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