63.完全に斥候ビルドにしか見えない
難易度の高い山々を越え、俺たちはようやく国境付近の街に辿り着いた。
「あ~、街が見える! ようやくベッドで寝られるんだね!?」
「おう、よく頑張ったなタマ」
「ほんと、タマには驚かされたよ。この旅の中ですごく成長したんじゃないかな?」
夜な夜な夢の中で特訓しまくったからな。
おかげで俺もタマも【投擲】を自力でレベル3にまで引き上げられたのだ。
武器スキルのレベル3ともなれば、ベテランの領域だ。
今やタマは俺とクーラに遅れをとることなく戦闘に参加している。
レベルの方も順調に上がって、タマは10、タマ2号は12、クーラは33と、タマ以外も上昇している。
俺のレベルは残念ながら30のままだが、自力で【剣】スキルをレベル3にして武器術を3つも習得したりと、徹夜特訓の成果が出ている。
奪った記憶ツリーにある武器スキルは軒並み身につけたし、魔術も鍛錬のおかげで【魔力強化】【魔力操作】【魔力節約】が揃ってレベル2に上昇した。
他にもいくつかスキルが上昇している。
風の支配者による新しい戦闘スタイルの模索は終わりが見えないが、逆に考えれば俺はまだまだ強くなる余地があるということでもある。
さて国境に近い街とあって、隣国との交易で様々な人や物が出入りしている。
俺たち3人は堂々と街に入った。
金貨が詰まった革袋は〈ストレージ〉だし、ステータスの提示も偽証済み。
怪しまれる要素は皆無だ。
「とにかく宿を取って食事だな。その後は隣国に渡る通行手形か……」
「イズキ、手形のことは明日からでいいだろう。僕もさすがに今日はゆっくり休みたい」
「だよねー! 今日は携帯食料や魔物の肉以外のものが食べたいな!」
そうだな、今日は何も考えずに休みにするか。
俺たちは道中で狩った魔物の魔石や換金部位を、街の入り口付近にある狩人組合に売却した。
かなりの大金になったのは言うまでもない。
狩人組合からは、あの山の魔物を大量に狩った凄腕傭兵トリオとして認識されたようだ。
いい収入になったので、ややグレードの高めの宿に3人部屋をとることにした。
食事付きにしたが、なかなかの味だった。
夜に剣を振るわけにはいかないので、〈マナ・ハンド〉同士でキャッチボールをしながら、【夢魔】でタマの夢にお邪魔した。
タマは「今日くらい休ませて欲しい」と言うので、俺だけ訓練していたのだが、夢の中では眠ることもできずに退屈を持て余すことになったため結局、タマも訓練に参加することになった。
翌日は市内観光だ。
通行手形を入手する伝手はないから、隣国と間でどのような交易が行われているのかまず市場調査をしつつ情報収集することにした。
しばらく宿に逗留できる資金を稼いだので、半分以上は観光気分でのんびり市場をひやかす。
俺が人類の街でかかさず覗くのは武器屋だ。
無銘の霊刀を降ろすことができる高品質の刀を探しているが、そもそも刀自体がマイナーな武器でなかなか取り扱いもない。
あっても凡庸な出来の刀では、霊刀は満足しないだろう。
だから期待していなかったのだが……。
「かなり良品が多いな?」
「ここは隣接する山人族の国から鉄製品を輸入しているからね。ほら、ここも武器は並んでいるけど鍛冶工房はないだろう?」
「山人族の国? 俺たちが次に行く国は山人族の国なのか?」
「いや。僕らが次に行くのは隣り合う別の国だよ」
「山人族の国に行くと、遠回りになるか?」
ここにある品々が山人族の手になる製品なら、本場に行けば更なる一品にお目にかかれるはずだ。
そこなら霊刀が気にいる刀も見つかるかも知れない。
「山人族の国から、今から行こうとしている国に入ることになるから、遠回りにはなるけど……そうか、その手があるか」
「どうした?」
「あ、うん。僕もうっかりしていたんだけど、ご覧の通りこの国と山人族の国との交易は盛んだろう? 同じように、今から行こうとしている国も鉄製品を山人族の国から輸入しているはずなんだ」
「ふむ」
「だからこの国から次の国へ行くより、山人族の国を経由したら、楽に次の国へ渡れると思ってね」
「ということは、山人族の国へ行けるってことでいいのか?」
「商人組合……いや、この街は確か、傭兵組合があるからそっちへ行こう」
商人の護衛を取りまとめるのは基本的には商人組合だが、この街のように交易が盛んで護衛の需要が多い場合、傭兵を取りまとめる傭兵組合が護衛の仕事を仕切っているらしい。
クーラは以前、この街にも来たことがあるらしく、傭兵組合の場所を知っていた。
「ごめんください」
「おう。……ん? もしかしてお前、クーラか?」
「ああ、えーと」
「覚えてねえか? 俺だよ、ゴランだよ」
「……ああ! ゴランさん、ご無沙汰です」
どうやらクーラの知り合いらしい。
ゴランは元傭兵だが、怪我をして引退してこの傭兵組合で受付などの事務仕事をしているのだそうだ。
「クーラ、そこの子はお前の嫁さんと子供か?」
「違うよ! このふたりは仲間。まだ若いけど腕はかなりのものだよ」
「へえ?」
値踏みするように見つめてくるので、俺とタマは無言でステータスを提示してやる。
《名前 イズキ
種族 人間族 年齢 11 性別 男
レベル 20
【剣Lv3】【刀Lv2】【走力Lv3】
【聞き耳Lv3】【気配察知Lv2】【鍵開けLv3】》
《名前 タマ
種族 人間族 年齢 14 性別 女
レベル 10
【契約:タマ】【短剣Lv1】【投擲Lv3】
【舞踊Lv3】【歌唱Lv3】》
「おいおい、そっちの子供はなんなんだ!? それにこっちのお嬢ちゃんは……混沌属性か!?」
「ふたりとも将来が楽しみだよね?」
「将来どころか、こっちの子供は現時点でも十分に斥候で食っていけるぜ」
「それより、山人族の国へ行く商隊の護衛の仕事はあるかい?」
「いくらでもあるぜ。きな臭い時勢だからな」
「なにかあるのか?」
「おうよ。隣国と戦争になりそうだって話だ。どうも上の方では準備が進んでいるようだぜ。食料が値上がってる。気が付かなかったか?」
「そこまでは見てなかったな。確かに仲のいい国同士じゃなかったけど、戦争か……」
「ま、傭兵の稼ぎどきだ。この街に残れば近い内に大きな仕事にありつけるぜ」
「いや。目的地は迷宮都市なんだ。今は旅を優先したい」
クーラは俺の方に視線で確認してきたので、首肯を返す。
「そうかい。ま、そっちのふたりは戦争はまだ早いだろうしな。……商隊の護衛なら2日後の護衛に空きがある、そこに推しておくがいいか?」
「頼む」
「よしきた」
俺たちは3人の名前を用紙に書いた。
商隊の出発時間と場所、そして護衛のリーダーの名前を聞いて、支払いは前払いでここで半額を受け取る。
商隊を送り届けた先で残り半分を受け取る手筈だそうだ。




