57.霊刀さんおひさー
山をひとつ越え、次の山に入った途端に【霊感】が反応した。
どうやらアンデッドがいるようだ。
人類の領域で本格的にアンデッドと戦うのは初めてだが、無銘の霊刀を出せば勝ち確定だからそこはどうでもいい。
問題はなぜアンデッドがいるのか、だろう。
普通の森などでは魔物の死体は魔物が食べるため、アンデッドは発生しづらい。
浮遊霊くらいならこれまでもそれなりに見かけたのだが、あれは無害なので近くにいる奴だけ爪で引っ掻いて消していた。
肉体を失ったゴースト系だろうか?
それなら死体が食べられた後でもアンデッドになるのは分かるが……。
人が足を踏み入れないから、ゴースト系が残り続けたという可能性は十分にありそうだ。
疑問が氷解したところで、クーラとタマにアンデッドの存在を知らせておく。
クーラは魔術で戦うことができるが、タマとタマ2号はゴースト系には手が出せない。
まあ今回は見学でいいだろう。
無銘の霊刀があるからクーラの出番すらあるか怪しい。
さて進むことしばらくして、俺たちは【嗅覚】で腐臭を嗅ぎ取った。
更に俺だけはその腐臭の原因が【霊感】で感知できる存在、つまりアンデッドだと推測できた。
……つまり相手はゾンビ。
妙なことになってきた。
ゴーストならば話は分かるが、ゾンビが自然発生したということは、どういうことだろう?
「敵はゾンビか。正直、なんでゾンビが発生しているのか分からん」
「死体が放置されて、食い荒らされなかったのが生き残ったんじゃないのかい?」
「そうだな、そういうこともあるか……」
まあとにかく敵だ。
進行方向に敵がいるなら狩る。
遭遇したのは、巨大な芋虫。
ジャイアント・クロウラー・ゾンビ、レベル29である。
腐敗した身体はところどころが溶けたように欠損しており、俺たちを見つけるとズリズリと這い寄ってきた。
「うえ~、なにあれ気持ち悪い」
見ていて気持ち悪いと思ったのは、タマだけではない。
とにかくこれと普通にやり合うのは御免だ。
自発的に霊刀がしゃしゃり出る前に、瞬殺することにした。
俺は久しぶりに無銘の霊刀を抜く。
1年の放浪中は【完全獣化】していたため、アンデッドが相手でも霊刀を使う機会はなかった。
青白い閃光が一直線に走る。
それで気味の悪い芋虫は跡形もなく塵となり消滅した。
「イズキ、それは……」
「これが無銘の霊刀。クーラなら知っているか? 俺が生まれたときに持っていたスキルだよ」
「そうか、それが。なぜ今まで使わなかったんだい?」
そういえば無銘の霊刀の使い方について周囲に説明したのは、狩りに出られるようになった7歳のときだったことを思い出す。
つまりクーラは本神殿に戻っていないため、【人化】同様に知らないのだ。
「これはアンデッドしか斬れないんだよ。代わりにアンデッドに対してはほとんど無敵の切れ味を誇るがな」
「そうだったのか」
芋虫ゾンビを消滅させたが、【霊感】はまだ他のアンデッドの存在を俺に知らせてくる。
なにやらこの山、普通じゃない状態にあるようだ。
クーラとタマにもこの山に異変が起きていることを知らせておく。
だからといって別の道を行くとかそういう選択肢はとらない。
敵がアンデッドならばこちらは霊刀無双するだけだ。
鼻につく腐臭はキツいが、相変わらず魔物のレベルが安定して高いので、これも修行だと思って突き進む方針である。




