55.こうして夜の特訓は恒例と化すのであった
「酷い夢を見た気がする」
タマが起き抜けにこぼした一言に、クーラが目を剥いて俺を見たが無視した。
昨晩、俺は剣を振り続け、魔術を放ち続け、夢の中でナイフを投げ続けた。
剣術は習得には至らなかったが、手応えがなかったわけではない。
魔術の方は実感はないものの、確実に上達しているはずだ。
記憶ツリーにある【投擲】の内容を実際に身体で体現できればスキルは再習得できるから、昨晩の間に【投擲】はレベル2まで取り戻すことができた。
タマは文句を言いながらも延々とナイフ投げを続けたから、上達はしたはずだ。
なにせスキルを渡してから寝るまでにナイフを投げた回数は、渡したときの数回と戦闘時に数回、両手で数えられるかどうかといったところ。
いくらスキルレベル2でも経験値が足りなさすぎる。
一晩中投げ続けたのだから上達していないはずがないのだ。
朝食を携帯食料で済ませて、山歩きを再開する。
戦闘では相変わらずレベル30前後の強敵が現れるが、一度に遭遇するのはせいぜい1~2体なので苦戦はしない。
俺とクーラを突破してタマ2号のところに到達できる魔物もおらず、比較的安全にタマたちのレベリングを行えている。
そして戦闘でのタマの投擲は、格段に上達を感じさせるものだった。
昨日までは戦闘開始時に一回、ナイフを投げた後は俺とクーラの戦いに割り込めずに観戦するしかなかった。
しかし今日は抜き打ちの2回目を戦闘中に投げることができている。
明らかに夢の中での特訓の効果だ。
「タマは随分、【投擲】に慣れたみたいだね」
「そうなの! 多分ね、私の才能が開花したんじゃないかな~?」
いや、純然たる努力の賜物だぞ、それ。
とはいえ【夢魔】による訓練が有効であることが確定したのは大きい。
今後もタマは一晩ごとに強くなっていくことができる。
俺やクーラに並んで戦うことができる日も、そう遠くはないはずだ。