54.エロいこと考えた奴は腹筋な
「ほわぁ」
タマがトロンとした目で俺を見ている。
ここは夢の中。
フワフワしていて現実感のない世界。
ふかふかでバカでかいキングサイズのベッドの上に、俺とタマは向かい合わせに座っていた。
「え、ええと。イズキくん? あの、よろしくおねがいします」
「ん? ああ、よろしく」
羞恥に顔を真っ赤に染めたタマには悪いが、今日の趣向を知ったときの泣き顔が今から目に浮かぶ。
俺はベッドから降りると、ナイフを1本、拾い上げる。
刃の方を持って、柄をタマに向けて差し出した。
「え?」
「ほら、受け取って」
「ちょ、イズキくん? これなに? いきなりなんか凄いプレイが来そうで私、ちょっと盛大に不安になってきたんだけど!? 初めては優しくがいいなって~ぇ!?」
錯乱気味のタマに、顎で向こうを示した。
キングサイズのベッドから降りた先には、整然と並べられた大量の投げナイフ。
そして的。
「タマ。【投擲】の練習をするぞ」
「…………は?」
そう、俺はタマと【投擲】の訓練をしに、夢の中にやって来ていた。
別に【夢魔】をエロいことに使わなければならないという道理はない。
タマは眠りながらにして【投擲】の訓練を行う。
翌朝には夢の中のことは忘れるだろうが、身体に染みつけた技術は持ち帰ることができるだろう。
俺は【投擲】スキルをレベル2まで取り戻したら別の訓練をしてもいいし、タマに付き合って更に【投擲】の訓練を続けてもいい。
「…………イズキくぅん?」
「どうした、タマ」
「これ私、知ってるよ! 夜魔族の【夢魔】でしょ!? なんで人狼族のイズキくんが使えるの? ていうかどうして、【投擲】の訓練なの!?」
「どうしてって言われてもなあ。お前、何を期待してたんだ」
「そ、そ、そりゃ……」
「俺はまだ11歳だぞ。ぶっちゃけ早い。無理。何をされると思ったんだこのエロ猫」
「ひ、ひどい~!?」
「さあちゃっちゃと始めるぞ。夜は長いが、無限に続くわけじゃないんだ」
俺は記憶の中の【投擲】を思い出しながら、それを身体で体現する。
すっかり忘れ去ったナイフの投げ方を、もう一度この身に覚え込ませる作業だ。
にゃんにゃん文句を言った後、しぶしぶタマは投擲の訓練を始めるのだった。




