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5.幼馴染も当然ながら魔族

5歳になった。


まだ難しい単語は読めないが、初歩的な魔術教本に手を付け始めた。

分からない単語は母親に聞きながら、少しずつ読み進めている。


そもそも魂を入手しなくてもスキルは習得できる。

というかそれが普通のことだ。


邪神の加護は後々、存分に活躍してもらうとして、今はできる努力をしていくことにしている。

ただ子供ながらに人付き合いというものがあって、毎日のように遊びの誘いに来る同年代を拒絶してまで勉強を優先するわけにはいかない。


別にひとり孤独に生きていくつもりはないので、友人は欲しいしできれば大人になったら伴侶も欲しい。


前世では妻と子供に恵まれ、孫までいたのだが、今の俺は新しい人生を送っている。

前世の結婚のことは気にせず、新しい伴侶を得ても構わないだろう。


「イズキく~ん、あ、そ、ぼ!」


「母さん、遊びに行ってくるね」


「はぁい。遅くならないようにね」


友達が来たので、勉強を打ち切って外に出る。


ちなみに俺の今生での名前もイズキだ。

これは両親が俺の名前をつけようとしてステータスを開けたところ、既に名前がつけられていたからそのままにした、と聞いている。


スキル欄には邪神の加護もあったから、俺は集落で有名人となってしまっていた。

霊感はともかく無銘の霊刀も表示されたらしく、しかし霊刀については誰も知らないので、何か凄い将来性を秘めているに違いないと期待されているらしい。


ちなみに邪神の加護があるせいで、神殿で育てたいという強い要望があったらしいが、両親がつっぱねてくれた。

愛されているようで何よりだ。

俺も窮屈そうな神殿暮らしは避けたい。


さて友人たちだが、彼ら彼女らも実に個性的な外見をしている。


俺を呼びに来たのは蛸女族という下半身に多数のタコ足が生えた女の子ミレーヌ。

本来は水場で生活する種族らしいが、こうして遊びに来るときは水袋を持参して、たまに足を濡らしている。


三対、つまり合計で6本の腕を持つ多腕族の男の子ナタン。

彼はよくリーダーシップを取りたがる、俺たちの中ではガキ大将ポジションだ。


頭部が牛で、既に同年とは思えない大柄な体躯をもつ牛人族の男の子マクシム。

強そうな見た目に反して彼自身は慎重で臆病だ。


頭部が鳥で、背中に翼をもつ天風族の女の子ジュゼット。

とにかく負けず嫌いで、最も遊びに熱中する子だ。


家と歳が近いこの5人がいつも遊ぶメンバーだ。


いつも通りに全員が揃っているのを確認して、「今日は何をして遊ぶ?」と問うた。


子供の遊びと侮るなかれ。

魔族は邪神が生み出した戦闘種族だ。

その遊びは子供ながらに荒々しいものが多い。


なので俺も軽い戦闘訓練だと思って、できるだけ子供の輪にいることにしている。


実際、今日ナタンが言い出した遊びは1対1のチャンバラだ。

各々が木製の武器を使い、怪我をしたら神殿に行って治してもらうという、怪我して当たり前のチャンバラ……というより実質の模擬戦である。


「よーし最初は誰から行くー?」


「私が最初!」


ナタンの問いに真っ先に応じたのは、ジュゼットだった。

木の槍を手にして空から襲いかかってくるジュゼットは強敵を通り越して無敗を誇る。

今日もやる気満々だ。


俺を含めた4人は「いきなりかー」と内心でゲンナリしながら、誰が行こうかと目と目でやりとりする。


結果、対戦相手は俺と相成った。


木剣を多く使う俺だが、さすがにリーチの差が大きすぎて勝負にならないので、ジュゼット相手にはいつも木の槍を選択している。


「じゃ、よろしく」


「イズキね! 相手にとって不足はない!」


好戦的な笑顔に苦笑を返しながら、俺は槍を構える。

穂先はやや上を警戒しつつ、さてどうやってジュゼットを攻略したものかと思案する。


機動力と位置関係で既に不利をふたつも背負っている相手だ。

まともにやっても勝てないのはこれまでと同様。

勝負をひっくり返すには、何らかの奇襲策を必要とする。


「じゃあ、準備はいいか? ――始め!」


ナタンの掛け声とともに、ジュゼットが羽ばたく。

俺も同時に踏み出し、胴体目掛けて槍を突き出した。


ジュゼットにとって最初にして最後の隙が、この飛び立つ瞬間だ。

背中の翼に力を込めるために、槍さばきが疎かになるのだ。


とはいえジュゼットは対戦相手の接近を阻むだけでいい。

ジュゼットの槍は俺の刺突を弾き、穂先を俺に向けて固定したまま飛翔への数秒を稼ぐ。


だから俺は槍の穂先に向けて更に踏み込み、間合いの内側に潜り込もうと試みた。

俺は槍を手放して素手でジュゼットの木槍を押しのけるようにして接近する。


人狼族の敏捷性を活かした突進。


ジュゼットに肉薄した俺は、ジュゼットの腹に掌底を叩き込んだ。

しかしその手応えは浅い。


掌底が届く前に、ジュゼットの足元は地面から離れていた。

咄嗟に背後に飛び退ったジュゼットに衝撃を殺されてしまったのだ。


「――ったぁい!?」


なんとか一撃、当てはしたものの、それで仕留めきれなければ勝負は決まったも同然だ。

俺は背後に捨てた槍を拾い、素早く構え直した。


ここからは、どこまでジュゼットの攻勢に耐えられるかという戦いになる。


……結果、最初に一撃を与えられたジュゼットがキレ気味に猛攻してきたため、あっという間に俺はボコボコにされた。


「最初のは惜しかったね」


「ああ。でも次からは警戒されるから難しくなったな」


ミレーヌに慰められながら、次の対戦を見学する。


次の対戦カードはマクシムとナタンだ。

怪力を誇る大柄のマクシムと、6本腕を操る小柄なナタンの勝負は好カードで、いつもいい勝負になる。


マクシムは一番大きな木剣を選び、ナタンは木の短剣を6本選んだ。

大抵の場合、マクシムの選ぶ武器は同じだが、ナタンは割とコロコロ変えてくる。

複数の武器を持つのは変わらないが。


さて勝負はマクシムの勝利で終わった。

開幕からナタンは本数に物を言わせて短剣を投げ始めた。

弓がないため遠距離攻撃は手持ちの武器を投げるしかない。

複数の武器を持てるナタンの長所を活かした戦術だったが、マクシムは大きな剣を盾にしつつ耐えきった。

その後は圧倒的な膂力を誇るマクシムの攻勢に短剣で太刀打ちできなかったナタンの敗北で終わる。


「短剣ばかりじゃなくて普通の剣も持っておけば良かった!」


「武器を投げるのは危ないからやめて欲しいな……」


悔しがるナタンに、マクシムが苦言を呈した。


さて次は戦っていないミレーヌだ。

対戦相手は俺。

ミレーヌとジュゼットでは相性が悪すぎて勝負にならないため、俺が対戦相手に選ばれた。


「よろしくね、イズキ」


「ああ……お手柔らかに」


ミレーヌは水場で生活している通り、地上での動きは遅い。

しかし遅いのは移動に限った話であり、地上で戦えないわけではない。


空を駆けるジュゼットはミレーヌに対して一方的に勝てるが、地上で戦う俺やナタンとマクシムにとって、ミレーヌは強敵だ。

まずタコ足である触腕が非常に厄介なのである。

触腕は力が強く伸びるため、剣の間合いならば対戦相手の足を絡め取り転倒させることができる。

また弾力性のある触腕は木の武器で殴っても大して痛くないらしく、武器を絡め取りにくることも多い。

極めつけに、その強力な触腕は10本以上もあるのだ。


結果、足と武器を封じた後はミレーヌにタコ殴りにされるという展開になる。


……女子が揃って強いんだよなあ。


木剣を手にとった俺は、しかし善戦するために頭を巡らせる。


その日も結局、ミレーヌとジュゼットには一度も勝てなかった。


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