表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/135

48.飼い主より先につい可愛がっちまったぜ

俺のベッドをタマに使わせて、俺はタマ2号について研究することにした。

一晩でどこまでできるか分からないが、できればなにがしかの芸でも仕込みたいところだ。


さて必然的に俺は徹夜となるわけだが……。

睡眠は【並列思考】にとらせているとはいえ、肉体的な疲労までは回復しない。

1年間の放浪生活では、魔物を狩る度に【魂喰い】が発動して生命力が回復していたから不眠不休で動けたのであって、連戦状態にない今はそういうわけにはいかない。


「……これでいけそうかな。〈クリエイト・ポーション〉」


俺は〈クリエイト・ポーション〉を一時的に理性ツリーに移動させ、体力回復に重点を置いた成分に調整したものを、カップに出した。

ポーションは怪我を治すだけではなく、失った体力も回復させるものだ。

だから怪我を治す分のポテンシャルを体力回復に全振りすることで、対徹夜用ポーションを開発してみた。


……まだ飲んでないから、結果は明日になってみないと分からないけどな。


というかこれ事前に飲むものじゃなくて、明日の朝に飲むべきじゃなかろうか。

まあいいや、金貨を盗んだりコルニを連れ出したりして疲れているのは確かだから、ひとまず飲んでおこう。


「……うぷ。ちょっと味はイマイチだな」


身体が楽になったので効果は確かだが、できれば果汁かなにかで割って飲みたい。

とはいえ飲めないほどマズくはないから、ポーションのことはひとまず保留にしよう。


さてゴーレム・コアである。


こいつには無限の可能性を感じるので、ちょっと試しに色々とやってみたい。


事前にタマ2号には、タマに命令を出させている。


ひとつ、コルニの命を最優先に守ること。

ふたつ、ひとつ目に反しない限りコルニの命令に従うこと。

みっつ、ふたつ目に反しない限り自分を守ること。


いわゆるロボット三原則だ。


加えて、


よっつ、みっつ目に反しない限りイズキの命令に従うこと。

いつつ、よっつ目に反しない限りクーラの命令に従うこと。


という命令を追加しておいた。


ベッドのタマが安全である限り、俺はタマ2号に命令権があるわけだ。


「じゃあまず、タマ2号。この土で身体を作って」


俺は宿の外から持ってきておいた土の小山を机の上に用意しておいた。

そしてタマ2号を土山から少し離れた位置に置く。


……さて結果は?


無反応。

つまりタマ2号はコアを土に接触させなければ、ボディを形成できないらしい。


俺はタマ2号を土山に置いてから再度、同じ命令を下す。


すると土山がコアを覆い、手足と頭が形成されて人型になった。

要した時間は2~3秒程度だ。

ボディ形成は割とスピーディに行われるらしい。


「じゃタマ2号、身体の中で大きな砂をここに、小さい砂をここに分離して。身体の構成は中間くらいの大きくも小さくもない砂だけで構成するように」


〈イリュージョン〉で机の上にふたつの円を出し、指で指し示した。


タマ2号は右と左を行ったり来たりしながら、砂粒を自分から分離していく。


……ふうん、割と柔軟に対応できるんだな。


砂粒の大きさの判断はどのように決めたのだろうか。


しばらくすると、タマ2号が仕事を終えたらしく停止した。


右には小石混じりの砂利、左にはきめ細かい砂だけが残され、タマ2号のボディはそれ以外の土が残された。


俺は砂利を捨て、きめ細かい砂だけをそっと集めて脇にどける。

そして新たな土山を机に載せ、


「タマ2号、その新しい土山をボディに加えて、同じ作業をして」


タマ2号は土山まで歩いていき、自分のボディを再構成した。

そして同じ作業を始める。


しばらくして同様の結果を得て、やはり砂利を捨ててきめ細かい砂だけを脇にどけておく。


「じゃあ今度は、砂を大きさ別に三等分して、大きい砂をここ、真ん中くらいの砂をここ、小さい砂をここに分離して」


やはり〈イリュージョン〉で今度はみっつの円を出し、指で指し示す。


しばらく分離作業を続けていくと、ボディの砂が少なくなってコアが露出する。

どこまで少ない砂でボディを構成できるのか、まずは見守ってみよう。


そのまま作業を続けさせていると、まず頭がなくなり、次に両腕が消えた。

最終的にはコアの下部から二本足が生えている状態になる。


……ふうん。人型じゃなくても動けるじゃん。


足が極端に短くなって作業効率が悪くなってきた。


「移動速度が随分と遅くなってきたね。タマ2号、足に拘らずに砂を動かして移動できないかな。流動体みたいな感じで」


砂の流動体となって移動することを提案してみたが、俺の説明不足もあって理解できなかったのかもしれない。

移動方法を変えようと試行錯誤はしているようだが、結果としてまごまごしているだけになった。


口頭で説明するのは俺にとっても難易度が高すぎる。

直接、俺のイメージを伝えることにした。

闇属性の下級精神魔術〈マインド・リンク〉は、術者と対象の表層意識を繋ぎ、思念による会話を行えるようにする魔術である。

声を出さずにやりとりできる便利魔術なのでかなり昔に取得していたのだが、まさか初めて使う相手が魔物になろうとは思わなかった。


「〈マインド・リンク〉」


ゴーレム・コアに精神があることは【魂視】で確認済みだから何も問題はない。

〈マインド・リンク〉は成功し、俺の思い描く砂の流動体イメージをタマ2号に伝えた。


やはり理解できると違うらしい。

すぐにタマ2号はコアを載せたナメクジのような形状で移動することに成功した。

ただし移動速度もナメクジ並みだったが。


……そういえば器用と敏捷は低かったな。


ただ、これで人型に拘る必要はなくなった。

【魂視】で視ても形状変化にバリエーションが生まれたことが分かる。


「じゃあタマ2号、その身体は大きい砂のところに破棄して」


のろのろ移動して、タマ2号は大きい砂のある円で止まった。

タマ2号を回収して次の実験に移ろう。


俺は机の上を整理してから、タマ2号にきめ細かい砂だけでボディを作らせた。

普通に人型になる。


……これは土じゃなくて砂だよな。


粘土質を含まないサラサラの砂だ。

ゴーレム・コアがボディを形成するのに使える素材は、レベルアップによって小石と土となっていた。

広義の土に砂が含まれていた、というわけではない。


【魂視】で視れば、新しく砂でもボディを形成できるように変化していた。


……よしよし、成長したようだな。


実験の過程で、ゴーレム・コアは砂でもボディを形成できることを学習したのだ。

スキルの習得のようなものである。


さてこうなれば後はどんどんブレイクスルーさせていくだけだ。

既に人型とは言えない状態で動くことを知っているタマ2号にとって、ボディの形状を変化させることは命じれば簡単にできることのはず。


「よし、今からイメージする通りの形になってみてくれ」


俺は梯子の形状をイメージして、〈マインド・リンク〉を経由してタマ2号に伝える。

難なくタマ2号は梯子型になった。


次に梯子型になったタマ2号を箱に立て掛けて、地面に接している部分を流動体にして左右に移動するよう命じた。

問題ない、ちゃんと動く。


続いて箱の上に移動を命じる。


……さあ、どうかな?


タマ2号はまず、砂の身体の中心付近にあったコアを箱の上に持ち上げて、次に梯子型だったボディをコアのある方へ回収していく。

最終的に箱の上に人型で立ち上がった。


実験成功。

芸をひとつ仕込めた。

しかもかなり便利なヤツを。


地属性の魔術には石でできた梯子や橋を作る魔術がある。

タマ2号はそれと同等の働きができるようになったのだ。


……これを実際に塀を越える高さでやれると理想的なんだが。


ゴーレム・コアが自分のボディとして制御できる土の量は、レベルに比例した体積だ。

みっちり中まで土が詰まった人型で大人の腰くらいの大きさだから、スカスカの梯子型なら2メートルくらいにはなるだろうか。


……レベルが足りないな。


【魂触】でレベルアップさせるのは、そろそろ魂の消費量が多くなって躊躇する。


……ま、1日目でこれだけできたんだから、上等か。


その後も砂を擦り合わせて摩擦熱で着火できるようにしたり、泥から水を分離できるようにしたり、中身を空洞にした型をつくって〈グルー・リキッド〉を流し込んでフィギュアを作ってみたりと、いくつか芸を仕込んで遊んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ