24.仕方ないじゃん!
本日は2話更新します。これは1話目です。
神殿の扉が半分、開いていたときから嫌な予感はしていた。
中の人々は全滅していた。
折り重なるように子供を抱える女性たち。
その中に母ニノンを見つけて、俺はこの戦いの犠牲の重さを改めて知った。
幼馴染の4人も知った顔や家族らの死を確認して、めそめそと泣き始める。
もうどうしていいか分からなくなったのだろう。
……そりゃまだ10歳だもんなあ。
俺には前世の80年があるが、この子たちはそうではない。
戦闘種族の魔族だろうと、家族の死は辛いものだ。
ふと叔父であるヤニック司祭が見当たらないことに気づいた俺は、神殿の地下へ降りてみることにした。
「これは……」
「やあ。イズキ、か。無事だったのだね」
ヤニック司祭は瘴気に触れたまま、倒れていた。
身体はブヨブヨの肉塊となり、顔は逆に痩せこけて、怜悧な美貌は見る影もない。
「瘴気に触れて、なんとか毒には耐えたが、もう長くはないだろう」
「どういうことです?」
「瘴気も毒になる、と教えたはずだ。ほんのわずかながらの延命にしかならなかった、な」
息も絶え絶えになりながら、ヤニック司祭は目をギョロギョロと彷徨わせる。
「ヒュドラはどうなった? 集落の皆は無事か?」
「いいえ……俺と、風の魔術で難を逃れたジュゼットたち以外はみな、死にました」
「正確に。生きているのは、誰だ」
「俺、ジュゼット、ミレーヌ、ナタン、マクシムです」
「5人だけ、それも子供ばかりか」
ヤニック司祭は「西の集落は知っているか」とかき消えそうな声で言った。
「いえ。他の集落のことはよく知りません」
「西は、長の兄の……集落……そこへ……」
「分かりました。西の集落へ向かいます」
「……頼む……」
ヤニック司祭は、事切れた。
長の兄が西にある集落を治めているから、そこを頼れということだろう。
ともかくこの集落はもう駄目だ。
毒霧が完全に晴れるまで、いつまでかかるか分からない。
なにより大人がいない。
生活するのに、子供5人じゃ無理がある。
ふと司祭の魂が死体に留まっていることに気づいた。
そういえば正式な埋葬の仕方を知らない。
このままでは司祭や神殿で死んだ皆がアンデッドになってしまう。
4人には神殿から出てもらい、俺はひとりひとりに〈魂砕き〉を使った。
輪廻に還してやることはできないが、不死者として彷徨うよりもマシだと思ったからだ。
ただ、4人を除いて壊滅した後衛部隊の元まで戻って、同じことをする気力まではなかった。
半端な対応だが、無理をしてまですることでもない。
……ああ、疲れているな。
何もかも投げ出したい気分だが、なんとか4人を率いて西にある集落に辿り着かなければならない。
「みんな聞いてくれ。西に、長の兄が治めている集落がある。そこにやっかいになろうと思うが、意見はあるか」
「……その前にひとついい?」
「なんだ、ジュゼット?」
「どうやってヒュドラを倒したの」
ジュゼットの暗い目が俺に問うた。
当然の疑問だ。
「……最初の毒霧でみんな死んで、半ば自暴自棄になりながら取得したスキルが、たまたまヒュドラに有効だった」
「…………なにそれ。邪神の加護って、随分、都合がいいのね」
ジュゼットが言葉にせずに胸の内に押し殺した内容は、想像がつく。
なぜそのスキルを、ギュスターヴたちが死ぬ前に取得できなかったのか、だろう。
……俺も同感だよ。
ともかく西の集落に向かうことに異議はなかったので、旅支度をして出発した。
毒霧のせいで家にあった食べ物は駄目になっていたから、道中で狩りをするしかない。
毒霧は集落を離れても完全に晴れていないから、〈エアタイト・シェル〉をかけながらの移動だ。
5人分ともなると、馬鹿にならない魔力を消費する。
誰も彼も口数少ないまま、俺たちは3日かけて西の集落に辿り着いた。




