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23.無事なのはこれだけか

毒霧は完全には拡散せず、辺りは薄闇に包まれていた。

視界が悪いが、まったく見えないほどではない。


俺は重い足取りで集落に向かっていた。


ヒュドラは湿地を出て集落の間近で巨大な死体となって横たわっている。

死体からは良質な素材が採取できるだろうが、とてもじゃないがひとりで持てる量はたかが知れている。

それにひとりで解体を行う気力はなかった。

このまま腐り果てていくに任せるしかないだろう。


集落を囲む柵まで来たところで、白い球体を見つけた。


中には見知った4人の姿があった。

ミレーヌ、ジュゼット、ナタン、マクシム。

どうやらジュゼットが〈エアタイト・シェル〉を習得していたらしい。


「みんな!」


「……イズキ?」


力なくうなだれていた4人の瞳に、光が戻ってきた。

彼ら彼女らも、絶望の中にいたのだ。


俺は駆け寄ると、改めて〈エアタイト・シェル〉をかけ直し、無事を喜びあった。


「イズキ! イズキ! 良かった、死んじゃったと思ってた……!」


「うわっ」


ミレーヌが飛びついてきた。

ジュゼットは「ズルい……」と呟き、俺を睨む。


……ズルいって言われてもなあ。


「イズキ、前衛部隊は無事なのか?」


「…………いや、全滅したよ」


「そう、か……。こちらも後方部隊は全滅した。今から神殿の無事を確認しに行くところだったんだ」


ナタンが前衛部隊の全滅を知り、肩を落とす。

ジュゼットが愕然とした顔で「え、じゃあ父上は……」と声を震わせた。


「ああ。父さんも、ギュスターヴさんも、みんな死んだよ」


「そんな……っ」


勝気で気丈なジュゼットだが、父を失ったと聞けばさすがに涙を流さずにはいられない。

俺にしがみついていたミレーヌが、今度はジュゼットの頭を抱えて一緒に泣き出した。


マクシムの両親も前衛部隊にいたはずだ。

彼は顔面蒼白になりながらも、歯を食いしばって涙は流さないように我慢しているようだった。

気弱な性格だとばかり思っていたが、芯が強い面もあったのだと初めて気づいた。


しばらくしてジュゼットが顔を拭い、「神殿に行きましょう」と言った。


「もう大丈夫か」


「大丈夫なわけないでしょ! ……でも、こんなところで泣いていても仕方ないじゃない」


怒鳴られてしまった。

どうも俺も感情が麻痺してしまっているらしい。

かけてはならない、余計なひとことだった。


ともかく俺たちは寄り添い合いながら、神殿に向かった。


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