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20.長の逆ギレからのゴリ押し

「イズキ! 戻ったか!」


「父さん!」


集落から湿地に向かう途中、戦いに赴く狩人たちに合流できた。

俺は父ジャンを見つけると、ジュゼットと別れて父の元へ走る。


「お前がいるといないとじゃ大違いだからな。……見えるか?」


「ああ。デカいな。こっからでも首が見えるなんて」


湿地まではまだ随分と距離があるにも関わらず、ヒュドラの巨大な首が見える。

八本の蛇頭が周囲を睥睨している。


【望遠】と【魂視】を組み合わせて視たところ、レベルは80という驚異的な数値を示していた。


「父さん。あれは一体……どこから来たんだ?」


「さあな。長が何か知っているような口ぶりだったが……」


「揃ったようだな! 聞け、皆の衆!」


集落の長が声を張り上げた瞬間、しんと静まり返る。


「あれはヒュドラ! ワシの祖父の代に竜化に挑み、失敗した蛇髪族の成れの果てだ! 魔物と化したが祖父の代の狩人が封印に成功し、以来深い眠りについておったモノだ!」


……竜化?


聞き慣れない単語だが、長の話は続く。


「あれは複数の首をもち、毒の霧を吐き、高い再生力をもっておる! 首をはねても、新しい首が生えてくる程だと聞いておる!」


狩人たちは聞いたこともないような化物の情報に、困惑を滲ませた声で「そんなのどうしろってんだ?」と呟き合った。


「だが奴は火に弱い! 切り落とした首の跡を火で焼けば、新たな首は生えてこないはずだ! 火炎の魔術を使える者たちは、魔力をそのために温存しておけ!」


「待ってくれ!」


声を上げたのは、ジュゼットの父ギュスターヴだった。


「倒し方が分かっているなら、なぜ封印などされていたのだ!? そもそも竜化とは――」


「ワシがすべて知っとると思うなよ!」


「な」


集落の狩人たちは一様に唖然とした顔で長を見る。


「いいか、ワシが知っているのは、祖父の代で倒しきれなかったヒュドラなる魔物の倒し方、それだけだ! 分かったなら、倒すために為すべきことを為すのみよ!」


疑問をばっさりと切り捨て、長は狩人の編成に移った。


俺は火炎の魔術が使えないため、ヒュドラの首を斬り落とす前衛部隊に入れられた。

父ジャンやジュゼットの父ギュスターヴも一緒だ。


「……悪いな、イズキ。子供をこのような危険な戦いに出さざるを得ない、俺たち大人の不甲斐なさを許して欲しい」


ジュゼットを始めとした俺と同年代の子供たちは、後方支援の任務を与えられており、直接戦闘に駆り出されたのは俺だけだった。


「いや。魔族は強さがすべてだから、年齢は関係ないよ」


ヒュドラの封印と俺が消滅させた鬼人族のゴーストとの関連は不明だが、何も関係ないということはないだろう。

恐らくヒュドラの出現は俺の責任だ。


……だが、どうやってあの化物と戦うか。


丸太より太い首を斬り落とす方法が想像できない。

アンデッドでない以上、無銘の霊刀は役立たず。

なんとか格上を倒す手段を習得しなければ、全滅は免れない。


【魂視】によって集落の狩人の実力を正確に把握している俺にとって、この戦いは全滅以外の結末を見い出せずにいた。


邪神の加護によって取得できるスキルの中で、ヒュドラとの戦いに勝つ見込みのあるものは見当たらない。

唯一、完全獣化については集落の誰も知らないスキルだが、字面からすれば人の姿を捨てて完全に狼の姿に変じるスキルだと想像はつく。

それでヒュドラを倒せるとは思えない。


俺の魔術適性は風属性と闇属性のみ。

火炎に適性があるなら、それに魂を注ぎ込んで一撃に賭ける手もあったのだが、それもない。


考えていると、父ジャンは「お前は射程ギリギリから〈マナ・ジャベリン〉で援護してくれ」と言われた。


「待ってくれ。俺は前衛部隊に……」


「イズキ。お前の魔術は俺たちの援護に適している。全員が全員、切り込む必要はないんだ」


「そうです、イズキ。私たち大人をもっと信用してください」


ギュスターヴも笑顔でそう言った。


確かに狙撃に特化した〈マナ・ジャベリン〉は、森の魔物ならばほぼ一撃で倒せる威力がある。

しかしそれがあのヒュドラに通じるとはどうしても思えなかった。


迷っている俺をよそに、前衛部隊の皆は武器を手に駆け出した。


「待ってジャン!」


「イズキ、お前のタイミングで撃っていいぞ! なんせ的は見えてるんだからな!」


戦いが始まる。


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