19.やっぱあれがフラグだったね
耳をつんざくような咆哮で目を覚ました。
昨夜は夜の散歩をしていたため、寝床に入ったのは日が山裾を明るくし始めてからだった。
……今は何時だ?
そんなことより先程のは。
まだ眠り足りない頭のまま、のそりと立ち上がる。
身支度は手早く済ませ、外に出る。
家の中に家族の匂いはなかったから、情報を得るなら外へ出て誰かに聞くしかない。
風に異臭が混じっているのを感じた。
何事かと周囲を見渡すと、ちょうどいいところにジュゼットがいた。
「ジュゼット、何があった?」
「イズキ? こんなところで何しているの!?」
ぎょっとした顔のジュゼットは、俺の手を掴みどこかへ引っ張って行こうとする。
「どうした、何が起こっている」
「ヒュドラっていうデカい魔物が出たんだって! みんな神殿の方に避難したよ! あんたこそなんで家にまだいるの!?」
「……まったく気が付かなかった。父さんも母さんもいなかったし」
「ああ、分かったわ。どうせ夜にひとりで森に狩りに出てたってオチでしょ? ヒュドラが出たのは日の出前だったからね」
なるほど。
俺が家に帰ってきたときには、両親は既に神殿に避難済みだったのだろう。
「……で、ジュゼットは何をしているんだ?」
「戦いに行くに決まってるでしょ! あんたも来るのよ!」
「え、避難するんじゃないのか」
「あんたねえ……ヒュドラは集落のすぐそばの湿地に出たの! 倒さないと集落が全滅しかねないじゃない!」
「湿地……?」
ゾワリ、と背筋に冷たい何かが走る。
……今は考えている場合じゃない。
「分かった。ジュゼット、家から装備一式とってくるから、少し待ってて」
「早くしなさいよね!」
俺は大慌てで部屋に戻って昨晩の装備を身につけると、ジュゼットとともに湿地帯の方へ走った。




