132.鏖殺
迷宮都市の周辺国はこそって出兵したが、その戦いは迷宮都市を無視して行われることになった。
即ち、ここで勝った国が迷宮都市を奪う権利を得るという戦いだ。
迷宮都市自体にその圧力をはねのけるチカラがない以上、この形式の戦争は正しい。
しかし迷宮都市が参戦せず、周辺国がすべて一同に会するこの機会は、俺にとっては奇貨でしかなかった。
要は迷宮都市に探索者が戻るまでの間、周辺国に武力がなければいい。
周辺国家が順に名乗りを上げ、さあ戦争を始めようというところに、俺は降り立った。
「迷宮都市代表、イズキだ。悪いがこの戦争、迷宮都市が勝利を頂く」
どこからともなく戦地の中心に降り立った俺を見て周辺各国の兵士たちは動揺するが、たかだかひとり。
代表だかなんだか知らんが、俺を殺せば元の戦争に戻ると考えた各国は、俺を無視して戦争をおっぱじめるべく、笛を鳴らし、太鼓を叩いた。
それに対して俺は戦地全体に〈インファナル・ハーヴェスト〉を撃ち込み、各国の兵士を全滅させた。
「……これでしばらく時間が稼げるだろう。探索者が集まれば迷宮都市が独立を維持できるはずだ」
俺はひとりで納得して、惨状を後にした。
後の世に『グラント平原の惨禍』と呼ばれるこの一方的な殺戮を行ったのが『邪神の御子イズキ』であると魔族たちはこぞって語り、人類に魔の代名詞として恐怖されることになる。
ただしその史実的な証拠はなにひとつ残っていないことから、後世の歴史家からは惨禍の存在自体にすら疑問の声があがる始末となるのだが。