131.迷宮都市とクーラ
「イズキくん、その女たちは何!?」
「イズキ……私達というものがありながら……」
迷宮都市に帰って早々、コルニとミレーヌになじられた。
セクレタリと無銘の霊刀を連れて行ったのが癇に障ったらしい。
しかし恋愛の神格を使った割にセクレタリは秘書に徹しているし、もう片方はあの霊刀だ。
今の所、俺がなじられる理由はない。
「……あー、なんだ。こっちは俺の属神でセクレタリ。神としてのチカラを行使するのを手伝ってくれる仕事上の部下だ。で、こっちのは人のカタチをとった無銘の霊刀だ。そもそもそんな対象じゃないぞ」
未だに疑わしさを拭いきれないのか、ふたりの冷たい視線を受けながらクーラの元へ行く。
「ようこそイズキ。ダンジョンを戻してくれたんだね?」
「ああ。これでやることは全部やったかな? ダンジョンの管理はガイアヴルムが行うから、俺はもうノータッチだけど」
「邪神ガイアヴルム様が……やはり復活されたんだね。地上の空気が変わったよ。神殿にあった神気が消えたと街では噂になっているようだ」
「ああ。地上の神気はガイアヴルムが塗り替えたからな。とはいえ直接、人類をどうするわけじゃない。魔族が地上での版図を広げたいなら、魔族自身に任せる放任主義らしいぞ」
「そうか……」
ガックリとうなだれているのは執事のネルソンだ。
「そうだ、もうギアスを解いてやらなきゃな。ネルソン」
「は、はい。あのそれで……邪神が復活したということは六大神様は……?」
「全部、俺が殺したよ」
卒倒しかけたネルソンのギアスを解除して、俺はクーラに向き直る。
「クーラ。俺は神として別の世界の管理をしなければならない。そこにコルニとミレーヌを連れていきたいんだが……いいか?」
「僕をひとりにして……かい?」
「それなんだよなあ……」
迷宮都市にダンジョンが戻ってきた以上、周辺国が都市を手に入れようと攻めてくる公算が高い。
そこに戦力であるコルニとミレーヌを連れ出すわけだから、クーラは孤立無援だ。
「なんなら領主の座を捨てて魔族の領域に戻るか?」
「いいね、僕も疲れていたから丁度いい」
「お、お待ち下さい!」
待ったをかけたのはネルソンだ。
「クーラ様はこの迷宮都市になくてはならない存在です。それを連れ去られるなど、とんでもない!」
「……やっぱり僕が抜けるとマズそうだね。イズキ、僕のことは気にしないでくれ。いずれこの街にも魔族がやってくるだろうから、それを待つよ」
「そうか……」
クーラの決意は固いようだ。
いつの間にかこの街の領主としてピッタリ収まってしまっている。
今更、足抜けするわけにはいかないらしい。
だがダンジョンが復活した今、周辺国の圧力をかわすだけの戦力が足りない。
そこへ伝令が入ってきた。
「失礼します! 周辺国がこぞって出兵したとの報告がありました!」
「早速か……動きが早いな」
クーラは頭が痛いと言いたげに天を仰いだ。
丁度いい、最後に恩返しといこうか。