128.ヴィータボロス
輪廻を司る中心地。
そこは魂の還る場所。
そして魂を送り出す場所。
そこは惑星の中心部にあった。
大量の魂が柱状になって下から上へ、魂が流れていく。
「やあ、ヴィータボロス。いるんなら出てきてくれるかい?」
突然、【神気察知】に引っかかるものが現れた。
今まで神気や気配を殺していたのだろう。
髑髏の頭部に全身を覆う焦げ茶色のマント。
このみすぼらしい格好をした神が、ヴィータボロスだ。
「復活おめでとうございます、ガイアヴルム様。そして六大神の討滅、お見事でしたイズキ殿」
「うむ。ヴィータボロス、お前には感謝している。イズキを転生させるのを手伝わせた」
「いえいえ。これくらいのこと……私達のしたことを思えば当然のことでございます」
うやうやしく頭を下げるヴィータボロス。
おいおい、何だよコイツらずぶずぶじゃねえか。
「転生にチカラを貸したってのはどういうことだ?」
「そのままの意味さ。イズキ、私があのとき、首だけでも封印を解いて君に会いに行ったのには、ヴィータボロスのチカラが必要だった」
ガイアヴルムは言った。
「そしてヴィータボロスは長い年月をこの輪廻の輪の元で過ごすうちに、神がなんたるかを理解したのだ」
「神がなんたるか……?」
首を傾げた俺に、ヴィータボロスが「そのとおりでございます」と頷く。
「私達は勘違いしていたのです。私達は最初から人の住む惑星を創ろうなどと浅はかな夢を抱いており、しかし現実的ではないことに失望していました。――しかし違ったのです。微生物から始めて、徐々に魂を増やしていき、動植物を進化させ、最終的にヒト種を配置するのが神の成すべきことだったのです」
「ああ、そういうことか」
惑星を管理する神というのは、最初から惑星すべてを覆うほどの魂を持っているわけではないし、持っている必要もない。
単細胞生物から始めて進化を促し、徐々に輪廻の輪に魂を貯めていく……。
魂の養殖を行い、はじめて惑星全土に己の神気をみなぎらせることができるということか。
ヴィータボロスは「いずれはあなたも自分の惑星を持つときが来たら、このやり方を覚えておいてください」と言った。
「俺は……」
俺が自分の惑星を持つ?
想像もつかない話だ。
「なあヴィータボロス。ガイアヴルムに与していたなら、お前が六大神を順に倒していけば良かったんじゃないのか?」
俺の疑問に、ヴィータボロスは「とんでもない」と首を横に振った。
「一応は同郷の者たちですから、私の手で彼らを滅ぼすのには抵抗がありました。イズキ殿を送り込んでおきながら何を、と思われるかも知れませんが……」
「……いや。直接その手にかけるか、俺に任せるかじゃ大違いだ。理由は分かった。それからもうひとつ聞いておきたいんだが……」
俺は子供の頃にヒュドラに全滅させられた集落の戦士が一瞬にして全員がアンデッドになった経緯を説明した。
「お前が何かしたのか、ヴィータボロス?」
「いいえ、直接的には何も。ただヒュドラの封印の地には私の神気がありましたから。それが影響したのでは?」
「あー、やっぱあるのかあの辺りに」
鬼人族の女性がアンデッドになっても理性を維持していたのは、その辺りが原因かもしれない。
俺は「ありがとう、ひとまず聞きたいことは聞けた」と軽く頭を下げた。
話が終わったと見たガイアヴルムが、「それで」と言った。
「ヴィータボロス、私への贖罪を果たしたわけだが、君はこれからどうするんだね?」
「はいガイアヴルム様。新たな惑星を探し、イチから出直したいと思っております。既に輪廻の輪への干渉はやめております。私は十分に神気を得ておりますから、後は神として成すべきことを成すばかりでございます」
「そうか。分かった、行っていいぞ」
「はい。名残惜しいですが、今は早く自分の星を管理したくてうずうずしておりました。イズキ殿を転生させはや十数年。待ちわびておりましたよ」
ヴィータボロスは深々と一礼して、消えた。
「おいおい、なんだかあっけねえな」
ランドルフが不満そうに言った。
苦笑しながらガイアヴルムが答える。
「そう言ってやるな、ランドルフ。侵略神であった頃の彼と、今の彼は違うのだよ。そもそもあの七柱を育てた神が、その辺りの教育もせずに放り出したのが悪いのだけどね……」
そう、あの侵略神どもを育て、放り出した神がどこかにいるのだ。
「なあ、その神ってのはどういう奴なんだ? 育てるだけ育てて、酷く責任感のない奴のようだが……」
「まあ後進の育成に興味のない神もいるだけの話さ。そもそも今回の場合は、不覚をとった私が悪いんだよ」
「……そういうもんか」
納得がいかないが、神同士のやりとりは弱肉強食、チカラが強い方が正義らしい。
そんなことを思案していると、ガイアヴルムが笑みを浮かべて「ところで」と言った。
「輪廻の環が正常に戻ったわけだけど。君の霊刀はどうするんだい」
「…………ああ」
そういえばアンデッドは今後、生まれなくなるのか?
そうすると自由の神格を得た無銘の霊刀はさぞ暇を持て余すことだろう。
「あれは君のものだから、回収しに行ってやるといい」
「……勝手に出ていったんだがな」
「いずれこの惑星からアンデッドが全て狩りつくされたとき、無銘の霊刀が存在意義を失うのは確実だ。君が新しい惑星を管理する際は、アンデッドが生まれる余地を残しておくといい」
「ちょっと待て。俺が惑星を管理するのは決定なのか?」
「話を聞いていなかったのかい? ……神とは惑星を管理する役職なんだよ」
ガイアヴルムは笑って、「さあ無銘の霊刀を迎えに行くといい。新しい惑星については後で相談しよう」と言った。