124.三竜揃い踏み
成層圏の手前辺りで、ランドルフに乗った俺は地上を眺める。
ダンジョンを国有化して独占していた人類の国ふたつがそれぞれ、竜にメチャクチャにされているようだった。
「竜になるとマナを喰ってれば飢えることはないんだが、やっぱ味がなくて物足りないんだよ。奴らもよっぽど血肉に飢えてたんだろうなあ」
「さすがに実感がこもっているな」
「今は好きなもの食えるからいいんだが。お、こっちに気づいたようだぞ」
「ああ、上がってくるな」
最初に上がってきたのは緑色の竜だった。
ウィンドドラゴンのアルフレート、男性のようだ。
「おいおいランドルフ、どうしたそれ。神になってんじゃねえかよ。てかその背中の小僧はなんだ? お前の主になってるじゃねえか、どこの神だよ」
「久しぶりだなアルフレート。挨拶もなしかよこの野郎。俺たちは6柱の神々を殺して神になったんだよ文句あっか」
「ねえよ、ありがてえ。シャバの空気は最高だな!」
「おうよ、ダンジョンの最下層なんて退屈で仕方なかっただろ。とりあえずもう一匹もこっち来るからちょっと待ってろや」
次に上がってきたのはクリスタルドラゴンのエレオノール、こっちは女性らしい。
「久しぶり、ふたりとも。ランドルフはすっかり立派になったようだけど……あら、下僕になっちゃったの?」
「おうよ、ふたりとも自由になったなオメデトさん。俺は4年前にこのイズキに開放されて自由にやっててな。ついさっき侵略神のうち6柱をぶっ殺したとこさ」
「それで封印が弱くなったのね……」
旧交を深めた3竜は会話が途切れると、自然とこちらに視線をやった。
自己紹介くらいはしとかないとな。
「俺がイズキだ。邪神の加護をもってこの地に生まれ落ちて、なんやかんやで6大神を殺して昇神した。若輩者だがよろしく頼む」
「おう、なかなか礼儀正しい坊っちゃんじゃねえか」
「神殺しをやってのけるなんて素敵ねえ。魔神の眷属から新たに竜が生まれて神になるだなんて、きっとガイアヴルム様もお喜びでしょう」
俺は「それなんだが」と前置きして、邪神の封印が6つまで揃っていること、最後のひとつの在り処が割り出せそうなこと、そしてその最後の封印の傍には裏切りの神ヴィータボロスがいるだろうことを説明した。
「これからヴィータボロスのところへ行こうと思っていたんだが、その前にアルフレートとエレオノールが封印を破って暴れてたから挨拶をしとかないと、と思ってな。それに人類の街にも魔族がいるし、俺の知り合いもいるんだ。好き勝手に暴れて俺の知り合いが殺されたらお前らを殺さなきゃならん」
俺との戦いを想像したのか、アルフレートとエレオノールは顔を見合わせた。
「そいつはおっかねえな。神は神でもイズキは侵略神とは格が違う。俺らじゃ勝てねえ。予め知り合いとやらのいる街を教えておいてくれねえか」
「私は食事もしたし暴れる予定はないから、どこか落ち着けるような場所の方を知りたいわ。人類が随分と領域を広げているようだけど……」
「おう、そうだな。腹ごしらえは俺ももういいかな」
どうやら2竜は十分に暴れて満足したらしい。
「それなら俺たちの拠点に案内しよう。アルフレートとエレオノールは転移魔術は使えるか?」
「イズキ、オレら竜は得意不得意はあるけど属性は全部使えるぜ。〈テレポート〉は便利だから当然、そいつらももってる」
ランドルフが背中の俺に言った。
「なら問題ないな。少し遠いけど静かだし他に面倒な連中もこない。封印の割り出しもしたいから俺たちの拠点に案内しよう」
俺は〈ディメンション・ゲート〉でダンジョンに繋がる空間の穴を開いた。
「ほほう、便利そうな魔術だな。大量の人員を移動させるのに都合が良さそうだ。俺ひとりなら〈テレポート〉で事足りるんだけどそういうのを見ると欲しくなるなあ」
「〈ディメンション・ゲート〉はランドルフから教わったんだが……」
アルフレートがランドルフを見る。
「なに! ……そういえば空間魔術を便利に使っていたような気がするな。ランドルフ、後で俺にも教えろよ」
「まったく……昔は興味もなかったろうに、どういう心変わりだ、アルフレート?」
「いや、ダンジョンに封印されていて退屈すぎたんだ。今はなんでも面白そうに感じる」
「ああー……気持ちは分かるがな」
同じ封印されていた者同士、思うところがあるようだ。
「その辺は勝手にやっていてくれ。とにかくここを通って俺たちの拠点に移動してくれるか?」
「おっと、すまねえ。今、通る」
「おじゃまするわ」
2竜を迎えて、俺たちは惑星外にあるダンジョンに戻った。




