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113/135

113.まずは一柱

亡者と化した神は、神格を反転させて襲いかかってきた。


不自由な風。

捻れた弓と矢。


亡神エアバーンの周囲にある空気は風を生まない。

神気が創り出した弓から放たれる矢は直線的ではなく必ず無作為な弧を描く。


だがそれらを意に介さず、ただ霊刀は斬った。


矢を斬った。

百だろうが千だろうが関係ない。

上だろうが下だろうが左右だろうが、どの方向に弧を描いても斬り捨てる。


亡神を斬った。

巨大な赤ん坊の死体という酷く醜い姿の、元は神であったものを斬った。

アンデッドだから。

不死者だから。

歪みだから。


斬る。


ただ斬る。


夜の森には静寂こそ相応しい。

群狼は遠巻きに、統率者が振るう霊刀の描く銀孤に見入っていた。


亡神なれど、〈断神剣〉は不要。

もはや奴に意思などなく、その防御力もまた紙のように薄っぺらで霊刀を阻むものはなにもなかった。


決着は数秒。

数多の矢と刀が交錯した戦いは、エアバーンの真の死で終わった。



「これで、俺も神か」


「ついでにオレもな」


神を倒した者は神になる。

原初の法にそうあるため、俺は神格を得た。


俺と契約しているランドルフも同様に神格を獲得して、神となった。


神竜イズキと神竜ランドルフの誕生だ。


俺は風神エアバーンの形質を群狼を通じて取り込んでいた。

風の支配者は風の神格者へと進化した。


自由は特に変化を生まない。

そもそも『自由』は概念的すぎて、樹形図上にどう表現していいのか迷う。

だから形質は取り込んだが、自分の中で形を確定しないまま保留とした。


弓と矢もまた俺の新たな力となった。

風の神格者から枝が伸びた先に〈風神弓〉なる武器術が生まれた。

神気から弓と矢という武器を生み出す特殊な武器術という扱いだ。


夜の森を解除する。

〈クリエイト・~〉とある通り、創造したものだから解除したところで森は消えない。

夜空は早々に消えたが。

ただ俺が魔力を供給しなければ、地面は石床だからやがて草木も朽ちていくだろう。


ひょう、と一陣の風が吹いた。


俺の支配下で、だ。

エアバーンはもう死んだはず。

なら今の風は誰が起こしたものだ?


【神気察知】がその気配を捉えた。


「これはこれは。6大神の長、主神ラーグイユじきじきにお出ましか」


「なに!?」


ランドルフが周囲を見渡し、そして見つけた。


木陰に立つ偉丈夫の姿を。

“太陽と勝利を司る神”ラーグイユ。


「初めまして。風神は俺が殺した。何か言いたいことがあるなら聞くぞ」


「……神となったか。増長するものだな、やはり人から神へなどなるものではない」


「まるで生まれた時から神だったような口ぶりだな。俺は他に神になる方法を知らないからなんとも言えないが、そうだったのかい?」


「いや、お前と同じく人から神格を得て神となった。私も、他の6柱もな」


「ならお前たちは増長したんだな。この世界を奪ったのは若気の至りだった、とでも言うんじゃないだろうな」


「それは私たちの事情だ。お前には関係のないこと」


「まだ関係ないと? 風神を殺した俺に、まだ関係ないなんて言えるのかよ」


「ただ私は見に来ただけだ。エアバーンを倒した者の顔を。戦いはまたいずれ、お前の方から出向いてくるがいい。待ち受けよう、我ら残った5柱で」


何も事情は話せない、か。

だがそれでも聞いておくことがひとつある。


「ヴィータボロスの居所、お前も知らないのか?」


「知らぬ。お前も知っているのだろう、我らを裏切り、輪廻の環に手をかけた奴は行方をくらませた。以来、姿も名も聞こえてこない」


「そうかい」


本当に知らないのか、匿っているのかは分からない。

だが戦いの火蓋は切って落とされた。

残る5柱の神々との戦いが。


太陽神ラーグイユの分体は話すことはもうないと言わんばかりに消えた。


「よし、帰ろうぜランドルフ」


「まあ待て。せっかくだからこの神殿を調べてからでも良かろう。神であったエアバーンはどんないい暮らしをしていたのか、興味はないか?」


「……なるほど、なくはないな」


あの赤ん坊の姿でずっと揺り籠に揺られていたということはないだろう。


しかしそれを阻む者があった。

太陽神ではない。

封印されていた邪神でもない。


それは俺の内から現れた。


無銘の霊刀。

かつて見た着物姿の少女が、俺の前に立っていた。


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