104.戻ってきたぜ
遅くなりました。今日から毎日更新です。
「すみません、ここって迷宮都市で合ってますか?」
「迷宮都市ぃ? そりゃ迷宮があった頃はそんな名前だったさ。今じゃただのスラム街だよ。あんた、傭兵かい? 悪いこと言わねえからこんな街からは早く出ていった方がいい」
「じゃあそう言うおじさんは、なんでこの街に留まっているんだ」
「……女房がな、迷宮に入ったきりなんだよ。ここにいればまた会えるかと思って待ってみたが……あの大穴、降りても何もなかったらしい。そろそろここにいるのも潮時かもしれんな」
「そうか……ところでこの街にクーラという傭兵はいるか?」
「クーラさんか。ああ、領主館にいるよ。今じゃ街の取りまとめ役さ」
「クーラが? 傭兵なのになんでまた」
「迷宮がなくなって、領主は逃げちまったからさ。周りの国も、迷宮のないこの街に価値なんてないとはいえ、領土拡大できるならしときたいだろ? もしかしたら迷宮が戻ってくるかも知れないしな。その圧力に負けて領主は逃げたのさ」
「……で、なんでクーラが領主になってるんだ」
「そりゃ……周りの国の兵が押し寄せてきたときに、クーラさんとコルニさんが前線で活躍したからさ。この街にいた探索者は迷宮がなくなったらどっかいっちまった奴らの方が大半だってえのにな。戦えない住人たちを守ったクーラさんが今の領主の地位にいるってのは、そんなにおかしなことじゃないだろ」
「なるほど。分かった、ありがとう」
俺は銀貨を1枚置いて、領主館へ向かった。
迷宮都市の現在の状況は、風の支配者で集めた住人の会話を【並列思考】で確認することで、おおよそ掴めた。
突如として迷宮が消失し、まず迷宮都市はその経済と秩序を崩壊させた。
ダンジョンから産出される魔物の魔石や素材が入手できなくなれば、迷宮都市には他に産物がない。
また多くの探索者が迷宮とともに消失し、迷宮に潜っていなかった探索者は失業することになったため、治安も悪化。
更にはかねてから迷宮都市を取り込もうとしていた周辺諸国が軍事的な圧力をかけてきた。
ダンジョンのない迷宮都市に旨味は無いが将来、再びダンジョンが現れないとも限らない。
混乱の多い領地を増やすのはリスキーだが、ハイリターンが見込めるなら取り込んでおいて悪くはない。
ダンジョンがなくても失業した探索者の武力は手に入るかもしれない、という目論見もあっただろうし。
結果的には、その目論見はことごとく失敗した。
迷宮都市に残った探索者らの抵抗にあったからだが、中でもクーラとコルニが戦闘の最前線に立ったことが大きい。
クーラとコルニは俺との合流を考えて迷宮都市に留まる必要があったため、戦に巻き込まれてしまった。
迷宮都市に留まり続け、周辺諸国からの軍事的圧力から街を守るふたりに住人の信頼が集まったのは無理もないことだ。
恐らくクーラにとっては迷惑な話だっただろうが、領主にまで祭り上げられてしまった。
魔族であることがバレる危険性が増すような地位につかざるを得なかったにも関わらず、俺を待つため街に留まることを選んだのだ。
何にせよ住人の信頼厚い領主クーラは、今も迷宮都市のトップとして周辺諸国を牽制しつつ、現状維持に努めている。
……苦労させてしまったな。
あれから4年の歳月が流れており、俺は15歳になっていた。




