永遠
本の中と、映像で見たことがある。
大昔、祖先が住んでいたと言われていた“地球”
私は、宇宙をスペースシャトルの窓から見ながら想像した。もしかしたら、幾万の飛来している隕石のどれかは、かつての地球の一部だったかもしれない、と。
「行ってみたかったなぁ」
今や、人類は地球を見捨てて別の惑星で暮らしている。
人工衛生惑星ターミナル。
その名の通り、人が造った惑星。
偽物の観葉植物、気分に合わせて変えられる疑似天候パネル。好きな玩具が作れるキット。偽物だらけで溢れている生活だけど、それが当たり前。
1点物と呼ばれる、本物は希少価値が高すぎて手が出せない。
ほとんどがイミテーション。映像で映し出されるホログラムだ。
「私に、そっくりね」
私は、彼女に話しかける。
ここには、私と彼女の二人きり。
髪の色に、目の色。肌の色。全てが同じ。
顔つきまで、どことなく似ている。
彼女の瞳を覗き込みながら諦めることなく、
「そうだ!私もあなたと同じ服装にしてもいいかしら」
彼女からの許可が下りることはないと知っているので、私は腕時計の電子操作盤を起動させ任意の服を選択する。
本来ならば、服の購入は各個人に指定された保護者の許可がいる。
いくらホログラムの服を購入するにしても、ダウンロードにはお金がかかるから。また年齢と立場に合わせた適宜判断として、購入ブロックされることがある。
何かあったら困るからと渡されていた、パパのスマートウォッチで服は難なく購入できた。
彼女と同じ服を見つけ、それを服装ホログラムへと変換させる。
「ほら、見て!お揃い!!」
彼女の腕を抱いたまま、くるりと回って見せる。
彼女は、それでも無表情のままだった。
「あと、どれくらいかなぁ?」
相手の反応の薄さに、少し恥ずかしさを感じて宇宙が見える窓の廊下へとペタンと座り込んだ。
「あなたがいるから、さみしくないよ。ありがとう」
持っているものに語りかける。
もちろん返事はない。当然だ。人形なのだから。
私は譲り受けた、それを大事に抱えた。
私の祖母が亡くなるときに、代々伝わるものだから大切にしてねと言われ旅行にも持ってきたのだ。
「まるで、誰かが側にいてくれてるみたい。さみしくないよ……ありがとう」
ガタンと、大きな揺れ。
警報アラーム。
『酸素量が低下しました。脱出ポットへお急ぎください』
無機質な音声が流れる。
最後に、腕のスマートウォッチを起動させ彼女(人形)と自分を撮影する。
いつの日か、この船を見つけた人がこの腕時計を見たけたら何を思うだろう?
きっと大切にしていた人形と写真を撮ったのだと微笑ましく思ってくれるだろうか。
いくつかのアルバムを開き、パパとママを見る。
「もしも会えたら、伝えてね」
人形に語りかける。
もう無理だろうから。
運が良ければ、人形とスマートウォッチは無事だろう。だから託す。
永遠の命と形を保っていられる彼女に。
「…………他の人工惑星に、行ってみたかったなぁ」
☆☆☆☆☆
宇宙船エターナルの事故。
それがモニターに映し出され大体的に報道されている。現在確認出来ていることは、脱出ポットは1つを除き無事回収され、1人を除き無事も確認された。
行方不明なのは、ジェシカちゃん(9才)。
ジェシカちゃん以外は、全員大人で各自脱出したのだが彼女だけが船内に取り残されたと見られていた。
事故調査の見解は、自室に取り残されたジェシカちゃんが独りで脱出ポットの操作ができず船と共に死亡だということ。
隕石が船に当たり、爆発しているので生存率が低いことが報道された。
デジタル新聞には、こう書かれている。
“ジェシカちゃんは、人工惑星ターミナルから人工惑星ルーサーへの旅行で死亡。先に仕事で住んでいた両親のもとへたどり着かなかった少女”
それと共に写真が掲載されていた。
全壊した船内から、煤に汚れただけの人形が見つかり、その身体には最新式のスマートウォッチが巻きつけられている。
人形をタップすると、動画と音声が再生される。
動画のジェシカちゃんと隣でいる人形は、瓜ふたつ。
『私は、ずっとここにいるよ』
無表情な人形が嗤った気がした。