しがない一市民が二次元じみた話に巻き込まれるまで。
「今から多分とても信じられないような、頭がおかしいんじゃないかって思われかねない話をするけど、とりあえず聞いてくれる?」
席が半分くらい埋まった大学構内の食堂の片隅。入学後に知り合って以来の付き合いで、先日友人歴3年を更新したばかりの、見た目は立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、中身は竹を割ったような性格のサバサバ姉御系というなかなかのギャップ持ちな親友は、そんなふうに話を切り出した。
事の始まりは一週間前。「ちょっと会ってもらいたい人がいる」と、やけに深刻そうに親友・京極椿から告げられたその時の私の心境はと言えば、「えっめんどくさい」だった。
誤解しないでほしい。椿さん(椿さんはちょっと浮世離れした恐れ多い気持ちになるくらいの美人なのでついさん付けで呼んでしまう)の頼み事がめんどくさいのではなく、『新しく人と会う』というのがめんどくさかったのだ。
趣味は読書・ゲーム・寝ることな私のメンタルは生粋の引きこもりであり、間違っても新しい出会いに心浮き立つタイプではない。一人が平気とは言わないけれど、人恋しくなることもあるけれど、人脈を広げたいとかも思わない。思わないというか、必要性を感じることはあっても、その労力を割くのがめんどくさいな……となるのだ。引きこもりメンタルにめんどくさがりが加わるとどうしようもなく集団生活に不向きな人間が生まれるといういい例だと我ながら思う。
そんな私だけれど、だからって話しかけられて「めんどくさい」を前面に出した対応をするわけではないし、気の合う人と話すのは楽しいし好きなのだ。いざその時になればという限定的なものだけど。基本的には他人と関わるというエネルギーを使う(少なくとも私にとってはとてもエネルギーが要る)ことに対して「めんどくさい」という感情が先に立つ。
そんな自分のどうしようもなさを知っているので、一緒にいて苦にならない、そして仲良くしようとしてくれる人には感謝している。なので「えっめんどくさい」と思ったものの、椿さんの「人に会ってほしい」という頼みを受けることにした。
そうして一週間後、待ち合わせ場所に椿さんと共に現れたのは、髪型や服装に今時の若者らしさを持ちつつも、私ができれば避けたいウェイ系パーリィピーポー属ではなさそうだな、と判断できるような礼儀正しく柔らかな物腰の、「第一印象:好青年」という感じの人物だった。
恐らくは同年代だろうけれど、今まで見かけたことはないと断言できる。なにせ椿さんと並んで見劣りしないほどに整った顔立ちをしているのだ。見かけていたらさすがに覚えている。
影名契と名乗ったその人は、しかし自己紹介を交わしたのちはなんだか躊躇う素振りを見せるばかりで、かと言って私の方は何のために彼と引き合わされたのかすらわからないので何を言うこともできず。
結果、顔を突き合わせて無言のまま時間だけが過ぎていく、という謎の空間を形成することとなった。
このままでは埒が明かないと椿さんが口火を切らなかったら、たぶんそのまま結構な時間が過ぎていただろう。
ともあれ、引き合わせたからには最後まで面倒を見ようと間に入ってくれた椿さんが口にしたのが、先述の台詞だった。
もう、なんというか前置きからして聞きたくない。椿さんが冗談を言うような人ではないと知っているからこそ、そして大抵のことは余裕の笑みで流すスペックの高さを知ってるからこそ、とっても聞きたくない。けれど強固にそれを主張するほどに、私の我は強くなかったし判断材料もなかった。
結果。
「――まず、前提として、この世界がたくさんの『物語』の詰め合わせみたいなものなんだって思ってほしいんだけど」
……なんて、なんかもうよくわからない前提を示されても、とりあえず耳を傾けるしかなかった。
「貴方、ゲームとか小説とか漫画とか……そういうものが好きでしょう。ああいうものの詰め合わせ。焦点を当てれば『主人公』になりうる人がたくさんいるのだと思って。そしてその『物語』に焦点を合わせる役割を当てられた者が、『物語』の数だけいる。便宜上『観察者』と呼ぶけれど――影名くんはそれなの。そして私も、以前は『観察者』だった」
……要点を簡潔に話してくれるのは椿さんの好きなところだけど、それにしたってちょっと簡潔すぎる。
これはこっちからつっこまないとダメだ、と判断して、私は考え考え口を開いた。
「……ええと、誰しもが自分の人生の主役だ、みたいなアレじゃなくて、明確に『主人公』と定義された人がいる、の?」
「ええ。一つの世界に一人の主人公、ではなくて、そうね、『犬も歩けば棒に当たる』くらいの確率で『主人公』とすれ違える程度には存在すると思うわ。影名くんの関わる『物語』の『主人公』もこの大学の人だし」
大学生が主人公の物語……ギャルゲーとかかな……エロゲかな……。
とか考えてる場合じゃない。いやリアル主人公とかちょっと興味あるけど、問題はなんでそんなカミングアウトが私にされたかってことだ。
信じがたい話ではあるけど、これが初対面の影名さんからじゃなく、結果的に椿さんから説明されたので、ひとまず信じる方向で話を聞くことにする。
……それにぶっちゃけ夢のある話じゃない? 創作の中で見るようなドラマティックな出来事が現実にも起こってるってことでしょ? まあほのぼの系以外は関わりたくはないけど。娯楽として楽しむ分はともかく、わが身に起こってほしいと思うほど、私は平穏な日常に飽いていない。
ちなみに、間違っても私が『主人公』だとかはないだろう。私自身は平々凡々なオタクだし、日常の範囲を逸脱した出来事が起こった例もない。……いや、今ある意味起こってるけど。
椿さんという顔面偏差値の高さと多才さが漫画じみた知り合いはいるけれど、私の行動圏で確認できる人たちの中では椿さんは異色だ。
となるとむしろ椿さんの方が『主人公』だとかがありそうだけど、そうではないらしい。過去に『観察者』だった、というのもよくわからないのだけど。
わからないならとりあえず聞くまでだ。
というわけでもう少し詳しく聞いてみると、高校時代の椿さんは、いわゆる乙女ゲーのお助けキャラなお友達的立ち位置だったらしい。なんでも全寮制の学校で、『主人公』の役割の人が転入してきて、椿さんはそのルームメイトだったとか。
共学の全寮制で外部との接触に制限があって伝統はあるけど華々しい感じじゃなくて知る人ぞ知る的ワケアリな生徒の受け入れ口な面もあるって、そんな学校が現代に存在してるの? マジで? ちょっとそこ詳しく聞きたいです椿さん。
しかし好奇心を刺激される秘密の花園(※イメージです)の話を聞くのは後だ。乙女ゲーということは多種多様なイケメンが一人の女の子に言い寄ったってことで各自のスペックとか起こったイベントとか気になるところだけど後だ。
なんでも、椿さん曰く、『観察者』は『主人公』の身に起こるイベントに出くわす宿命にあるらしい。
椿さんが『観察者』だった乙女ゲー的『主人公』さんの場合なら、例えば裏庭でも散策しようと外に出たら、まさにそこで攻略対象な人物と『主人公』さんが口説いたり口説かれたりしてるとか。影名さんの場合だったら友人だという『主人公』さんに声をかけようとしたらその目の前でラブ的なイベントが起こるとか。
もちろんそういう陰から目撃、とかだけでなくて、完全に巻き込まれることもあるらしい。
『主人公』は不在だけれど、攻略対象的な人物が『主人公』のことを想っているのが察せるような場面に居合わせることも多いそうだ。しかし一つの『物語』に一人の『観察者』というわけではないので、すべてのイベントに居合わせるのかと言えばそういうわけでもないらしい。
そもそもなんで『観察者』という存在が在るのか?という疑問には、椿さんが「なんとなくこうだ、という感覚があるのだけど、」と前置きして答えてくれた。
「この世界を作った存在――まあいわゆるカミサマ、ということになるのかしら。その存在が、『物語』を眺めて楽しむためにこの世界を作った。だけどカミサマだから、そのままでは何もかも先を見通せてしまってつまらない。だから、あえてこの世界に蓋をして、俯瞰して眺めることができないようにした。そして『先が視えない』状態で『物語』を眺めるために、『観察者』という役割を作った。……まあ、『観察者』の役割を振られてるのは、私達みたいな人間の場合もあれば、動物とか無機物の場合もあるみたいだから、ともかく『ただ眺める』ことが目的で、『神の権能で手出しできない』状況を作ったわけね。ただ、より面白い結末になるように手出ししてくる場合もあるって言うのが厄介なところなんだけど」
……うん。椿さんの語り口に宗教染みたものがないからいいけど、新興宗教の勧誘では?というような内容なのは認めざるを得ない。
椿さん……話した相手が椿さんびいきな私だったからよかったようなものの、普通の人だったらドン引きして縁切るレベルのような気がするから、話す相手はよく選んでほしい。
と言いつつ、選んだ結果がこの状況というか、今まで欠片も椿さんから聞いたことがなかったというところからして、今になって私に話す必然性が発生したと考えるのが順当なのだけど、その理由が未だ皆目見当もつかない。何よりその平均以上をぶっちぎった見た目をしているのにそろそろ存在を忘れそうな影名さんが事の発端っぽいというところがひっかかる。
「『観察者』っていうのが基本的に、……その、『カミサマ』が『物語』を見るための目なのはわかったんだけど……それが私とどう関係するの?」
「そう、それが本題なの。――影名くん、ここまで説明してあげたんだから、あとは自分の口から話してくれる?」
「……この本題の方が僕の口から話しにくいんだけどな……まあ、うん」
自分を鼓舞するようにひとつ頷いて、影名さんは私を真っ直ぐに見つめて、――爆弾発言を落とした。
「僕、どうやら君のことを好きになってしまったみたいなんだ」
「………………はい?」
「自分でもあんまり実感は湧かないんだけど、……自然と目が惹かれる、っていうのを繰り返すうちに、そうなのかなって思うようになって」
いや。待って。現実離れした前提の後にこんなある意味ありふれた、でもスペック格差的に信じがたい話をされてもついていけない。
「最初は、君が『観察者』として関わる『主人公』の相手役――攻略対象みたいな存在だと思ったんだ。これまで、偶然が重なりすぎるときって、そうだったから。でも、それにしては『主人公』と君が全然接触しないし」
いやいやそれ以前に私が『物語』の準主役級になれる器じゃないってわかるでしょ顔からして。よくてモブだよ。
「それに、俺が目撃する君が、俺の関わる『主人公』の『物語』と系統が違う感じしたし」
……目撃? いや、私が影名さんを知らない時点で一方的に見られてたのはわかってたけど、その言葉のチョイスが気にかかる。
「目撃って、例えばどういうところを見られてたんですかね、私」
「ええと……初めて見かけたのは、文学部棟の裏だよ。あそこ、人気が少ないからたまに休憩しに行くんだけど」
その場所なら私も講義の合間なんかに行くことがあるので、エンカウント(一方的だけど)してたのはまあわかる。木陰、というのをちょっと通り越した微妙に鬱蒼とした雰囲気と、建物に入るための階段くらいしか座るところがないという条件が相俟って、穴場的に人がいないのだ。
大体スマホ触るか本を読むしかしてない場所のはずだけど、何を見られたっていうんだろう……?
こわいもの見たさ的に聞きたい気もするけど聞きたくない気もする、などと思いながら影名さんの続く言葉を待つ。
「裏手に回る前に、にゃあ、って聞こえたんだ。構内に住み着いてる猫のうち何匹か、あそこによく来るのは知ってたから、不思議に思わないで建物の角から顔を出したら」
え、待って、その流れってもしかして。
「――階段に座って、手摺のところにいる猫と目を合わせてる君がいて。猫がにゃあって鳴くのに、にゃあって鳴きまねを返してた。そこで、その前に聞こえたのも鳴きまねだったって気づいて」
いやいやいやいや待って!?
「なんとなく憚られたから、角から様子を見てたら、君は何か猫に話しかけたみたいだった。それから猫が頷くみたいな仕草をして、君が笑って。……覗き見みたいで居た堪れなくなって、僕はそこで離れたんだけど」
1年に1回あるかないかの気まぐれを起こして猫と接触を試みてるところを見られたとかどんな偶然ですか嘘だと言って。いい歳して鳴きまねしてたところ見られたとかしかもこんなイケメンに。
だけど、もたらされた目撃情報に衝撃を受ける私に、現実は無情だった。
『初めて』と付いた時点で察してはいたけど、影名さんの話には続きがあったのだ。
「それから、次は大学からの帰り道だった。向かいの歩行者通路を歩いてた人が、ぴたっと止まって。どうしたんだろうって見たら、猫のときの君だってわかって。ついそのまま見てたら、君はスマホの画面を確認して、何か操作したみたいだった。その後――感極まったみたいにガッツポーズしてからしゃがみ込んだんだ」
……心当たりはあるけどそれもう完全に奇行じゃん……。見なかった振りしてくれません? 無理?
そう、残念ながら心当たりはある。そこまでのリアクションをしてしまうほどの出来事と言ったら、年に数回もない。
時期的に、プレイしてるソシャゲに満を持して推しが実装され、即回したガチャ10連でお迎えした瞬間と見た。
家に帰り着くまで待てずに往来で立ち止まってスマホ操作するなんて、そんなしょっちゅうやってるわけじゃないのにどういう確率で目撃されてるの?
他にも、出るわ出るわ、嫌がらせかと思うレベルで人に注視されていたくはない場面の目撃談。
誰もいないと思って出たばっかりの二次元アイドルの新曲口ずさんでたところとか、二次元アイドル(正確には中の人)のライブに気合入れてめかし込んで向かうところとか、読書中に感極まって顔を伏せるところとか。
……言っておくけど、いつもこんな(いろいろな意味で)あからさまな行動をしてるわけじゃない。影の薄いそこら辺にいるモブくらいのポジションでいられるように目立つ真似はしないようにしてはいるのだ。
ただ、1年に1度とか数か月に1度レベルの確率のその場面を、ことごとく影名さんが引き当ててるだけで。
ともかく、影名さんがおかしな確率で私を目撃していたことはわかった。目撃情報的に、人混みに埋没してるはずの時も目が向いてたっていうのもわかった。
だからってそこに恋愛感情が発生したというのは早計では?とわりとはっきり伝えてみると、影名さんは恐ろしいことに至極まじめな顔でこう言った。
「でも、君を見かけると……楽しそうでよかったな、かわいいなって思うようになって……だから、そういうことなのかなって」
この台詞を360度どこからどう見てもイケメンな好青年が言うとかもはやどこの乙女ゲーですか?って感じだ。
眩しい。眩しすぎる。あと免疫がないのでときめく前に正気を疑う。
ここを掘り下げるのは経験の浅い私には無理だ。そう判断して、私は話を先に進めることにした。
即ち――結局『観察者』なる存在が私とどう関係するのか、という話に。
私の問いに答えたのは、まず椿さんだった。
「つまりね、『観察者』であるはずの影名くんが、――貴方がいる場所だと、自分の関わる『物語』より、貴方に目が行ってしまうらしいの」
「……ゲームの1枚絵の端っこのモブに目が行く、みたいな?」
「まあ、わかりやすく言うとそんな感じかしら。……そうよね、影名くん」
「うん。……君がいる、って気づいたら、ついそっちに意識が行って。ああ、今日も元気そうだな、とかこっちの騒ぎに全然興味なさそうだな、とか君のことばかり考えちゃって」
だから、お願いだからそういうのをイケメンの顔と声で言わないでほしい。
……というのを直で言えるわけもないので、聞かなかったことにする。
「それが、『観察者』として問題だっていう話?」
「そうとは限らないわ。恋愛ゲームの親友キャラに恋人ができる、というのは絶無じゃないでしょう? 私の関わった『物語』ではそうならなかったけれど、影名くんの関わる『物語』ではそれが既定路線にあるのかもしれないし」
それ、暗に私と影名さんが付き合う可能性を示唆してるよね? 無理だよ? こんなイケメンの横に並ぶのは無理だよ? あと今は二次元が楽しいので三次元で恋人がほしいとかないし……。
しかし、影名さんに好きな人ができた、というのが問題ではないのなら、何が問題だっていうんだろう。 考えても仕方ないので、率直に訊ねてみる。
「じゃあ、何が問題なの?」
今度答えてくれたのは、影名さんだった。影名さんは憂い気な表情で私を見つめる。……イケメンはどんな顔しても絵になるな……。
「京極さんはああ言ったけど……僕は、僕が君を好きになったのは、僕の関わる『物語』とは無関係な気がするんだ。その上で、僕は『物語』に関わる場面でも、君に目が行く――目を向けることができるって考えると」
そこで躊躇うように、憚るように言葉を切って、けれどすぐに意を決したように、影名さんは続けた。
「――カミサマが、気まぐれを起こしたのかもしれない」
……うん? 結局どういうこと?
すごく重々しく言われたけど、私にはその重大性がいまいちわからない。それが見て取れたのか、椿さんが補足してくれた。
「貴方が『主人公』ではないだろう、というのは、私と影名くんの間で意見が一致しているの。『観察者』は自分の関わる『物語』ではなくても、恐らくそうだろうって察する感覚があるから、そこは間違いないと思うのだけど……だとしたら、影名くんが『観察者』として関わる『物語』より優先して貴方を見ることができるはずはないのよ」
「……『観察者』って、結構強制力が働くものなの?」
言い回し的にそういう感じだけど、なんかそれ怖くない? 自分の興味関心がなくても関わる『物語』のイベント的なのが起こったらそれから目が離せないってことだよね?
「基本的に覗き見みたいで気分が悪いでしょう? 物陰から見るような場合に、すぐその場から離れようとしたことがあるのだけど……恐らく、そこに私の代わりになるような『観察者』がいなかったのね。かろうじて目は逸らせたけれど、立ち去ることはできなかったわ。独り言を零すような場面だったから、そういう趣向も面白いとカミサマが思ったのかもしれない」
……そうだよね、よく考えたら、いわゆるプライベートな部分も目撃するわけだし……画面の向こうならともかく、リアルで居合わせたい場面っていうのはそう多くなさそうだ。
で。ええと、つまり?
影名さんはいくら個人的に好意を持ってる(かもしれない)とはいえ、通常なら私に目が行くはずはない場面で、私に気を取られてることがある。それはカミサマが気まぐれを起こしたからかもしれない。そしてその可能性は、私にいきなり『観察者』だの『カミサマ』だのの話をする程度には、私に何らかの影響がありうるっていうのとイコールで……?
「長々と話した上で、漠然とした話で申し訳ないのだけど――、つまり、これから貴方に『何か』が起こり始めるかもしれない、ということなの」
「……『何か』?」
「誰かの『物語』に巻き込まれるのかもしれない。君の『物語』が作られるのかもしれない。あるいは、カミサマが何かを介して君に接触を図るのかもしれない。……少なくとも、カミサマが君という存在に目を付けたのは確かだと思うんだ」
「……それは、影名さんが私に……その、興味を持ったから?」
いくら本人から言われてても好意云々とか言えるわけがないのでオブラートに包んで言うと、影名さんは「たぶん、そう」と申し訳なさそうに頷いた。
「最初は本当に偶然だったと思うんだ。ただ、そこで僕が君に抱いた感情がカミサマにとってイレギュラーで、そこで介入が起こったのか、偶然が重なったこと自体がカミサマの目に留まったのか、そこはわからないけど。とにかく、僕が君に目を留めてしまったことがきっかけではあったんだと思う」
だから、できる限りのことはする、と影名さんは真摯に言う。いやもう乙女ゲーみたいな言葉はお腹いっぱいです。
そう言われても具体的な影響がよくわからないのに何とも言えないので助けを求めて椿さんに視線を向けると、椿さんも真剣な表情で私を励ますように手を取って。
「貴方が平穏な日常を好んでいるのは知ってるわ。概ねゲームや漫画や小説や……そういうものをを満喫できればそれでいいと思ってるのも。だからこそ、その平穏が崩されるのを見ているだけなのは、友人として嫌なの。……力にならせてちょうだい」
……いやだから。今のところ何も起こってないわけで。むしろ今この状況が平穏な日常が崩れ去った瞬間っぽいわけで。
だけれどあまりに真摯で誠意の篭もった言葉に、私は曖昧な笑みを返すしかなかった。
――そして案の定、この日から私の、二次元が愛でられて気の合う友人と細々とでも交流できれば十分だった平穏な日々が崩れていくのだけど、それはまた別の話だ。