涼しげな顔で引き金を引く
「また聞こえる…綺麗で悲しい歌…」
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「全隊長、及び駐在警備長は直ちに中央に集まれ
《RAID》を発令する」
RAIDはADULTOの中での緊急招集のコードである
かなりの緊急性により、この招集がかけられた場合拒否は認められない
その意味は───『奇襲』
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『ADULTO』Rot中央本部
「急に集めてしまって申し訳ない
諸君も知っている通り、先日南58コンタディーノ地区にて我らが同胞が奇襲を受けた」
いつにも増して鋭い眼差しをしたグランツが、中央で重々しく口を開く
「奇襲した組織の名前は分かっている
『MINORANZA』…主に元ADULTOの者達で結成された国家反逆組織だ」
その名前を口にした途端、ざわめきが起きた
驚きを示したのは国家の人間…ADULTOの『ご意見番』と呼ばれている老人達である
「あっれー?お爺ちゃん達はあの人達知ってるのー?」
「静かにしなさい、アウラ」
自分達が知りえない情報を知っている…アウラだけでなくこのADULTOに属する隊員はこの老人達を昔から信用していなかった
今回は自分達の直属の部下がやられた事もあり、若干イラついている
「その者達をもちろんだが許す事は出来ない
ADULTO全体で襲撃し、殲滅する事が現状で決められた選択だ
異議を唱える者がいたら発言を許す」
落ち着いているようで少し緊張したような様子のグランツに、オルデンは口を開く
「要はただの烏合の集って事だろ?そんな連中になんで俺達が全員で迎え撃つような事しなくちゃいけねえの?」
「っおい、デン!大将が決めたんだからそんな事を言うもんじゃない!
…しかし大将、オルデンの言う事も一理あると思います
我々ADULTOに宣戦布告をした訳でもない連中を捕らえるのではなく殲滅とは…」
オルデンを制したファイクも、この決定に異議を唱えた
「…俺もその意見には大いに賛成だ
『昨日まで』はな
【知らせの歌人】が戻った、と言ったら?」
「「「!」」」
その場の空気が一変した
【知らせの歌人】は半世紀前まで狂信的に信じられていた、占い師の血族の事である
その血族は予兆を歌に乗せて知らせる為、【知らせの歌人】と呼ばれていた
時計が無かった時代には時刻を歌で知らせていたので、歌人は生まれてから間もなく一つの塔に閉じこもって死ぬまでその義務を全うする事が一般的であった
奴隷制度の廃止により、歌人は解放され行方が分からなくなっていた
その【知らせの歌人】が戻ったという事は…何かよからぬ予兆があるという事だ
「その歌人が歌ったのがこの歌だ
《変わらないものを妬み欲しがる
それぞれの形を持っているのが人間であり
それが生きる僕達の形だ
しかし変えようとする事も
止められないヒトの形である》
…これは予兆だ
運命ではない
しかし、変えられるという事は守る事も出来るという事だ
俺達は変えるぞ
この平和な国が乱される…『クソッタレな未来』を」
「「「我等はaruma」」」
「「「我等はscudo」」」
「我々はこの国を守る軍隊であり、神に愛された軍隊だ
予兆だろうが運命だろうが簡単に崩せると思うなよ?」
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「
《大好きと言い合える人と
大好きと伝えられない人と
大好きと認めたくない人と
大好きが分からない人と
何にも持たない人がいる
それぞれの形を持っているのが人間であり
それが生きる僕達の形だ》
運命が変わると歌も変わるの
みんな…死なないでね」
「歌なんて心の弱い連中のホラ話さ」
「歌で変わる運命なら《あの時》に変わっていたはずなんだよ」